研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) | |
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井上 克枝
アブストラクト 研究報告書 |
山梨大学大学院総合研究部 医学域 臨床検査医学 |
腎臓の発生と機能保持における血小板CLEC-2の役割 | 100 | |
私達は血小板活性化受容体CLEC-2を同定し、その生体内リガンドが膜蛋白ポドプラニン(PDPN)であることを見出した。血小板特異的CLEC-2欠損マウスの腎臓のHE染色像では、メザンギウム領域が拡大し、糸球体数が有意に増加していた。私達は「糸球体毛細血管より漏出した血小板CLEC-2 がポドプラニンと結合して血小板が活性化されることがメサンギウム細胞(MCs)の収縮を促して増殖を抑制する。その結果メザンギウム領域の過度な拡大が抑制され、腎血流量が維持される」という仮説を立てた。MCsにはPDPNが発現することをフローサイトメトリーで確認した。活性化血小板上清をMCsに加えると細胞増殖が抑制傾向となったが、α-SMA の増加は認められなかった。CLEC-2-depletion 一週間後のマウスではBUN, Cre に変化はなかった。一部仮説を裏付ける結果が得られたが、更なる解析が必要である。 | ||||
岡田 欣晃
アブストラクト 研究報告書 |
大阪大学大学院薬学研究科 生命情報解析学分野 |
脳血管の密着結合分子を標的とする血液脳関門制御技術の開発 | 100 | |
血液脳関門は脳を守る防御機構であるが、薬物の脳移行を阻害するため、脳疾患治療薬開発の妨げとなっている。血液脳関門の本体は、血管内皮細胞間のClaudin-5(CL-5)を介する密着結合である。我々はヒトCL-5に結合する低分子化合物を創製し、CL-5結合を一過的に弱めることで、脳への薬物送達技術を開発しようと考えた。今回の研究では、CL-5に結合する化合物のスクリーニングにより2種の候補化合物を取得し、これらが培養細胞モデルにおいてCL-5依存的なバリア減弱活性を有することを明らかにした。また、これら化合物の血液脳関門制御活性を動物モデルで評価するために、ヒト型CL-5を持つマウスの作製を行った。CL-5コード配列を、ヒト型に置換したマウスES細胞からヒトCL-5マウスを樹立し、正常な血液脳関門を有することを確認した。現在、本マウスを用い化合物の血液脳関門制御活性を評価中である。 | ||||
加藤 恒
アブストラクト 研究報告書 |
大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科 |
血小板フィブリノゲン受容体インテグリンαIIbβ3活性化制御機構の解明 | 100 | |
血小板は出血時の止血のみならず、高齢化に伴い増加する心筋梗塞、脳卒中など動脈血栓症にも大きな関わりを持つ。血栓形成においてフィブリノゲン受容体インテグリンαIIbβ3を介した血小板凝集が必須であり、通常非活性化状態にあるαIIbβ3はアゴニスト刺激後に誘導されるinside-outシグナルによりフィブリノゲンとの親和性が制御されている。Inside-outシグナルでは、CalDAG-GEFI、Rap1、Talin、Kindlin-3などの関与が知られているが、骨髄巨核球細胞質断片から作られ無核の血小板では実験手法に大きな制約がありinside-outシグナルの詳細は不明である。 本研究は、我々がこれまでに示してきたαIIbβ3活性化キネティクスに着目したinside-outシグナルの検討で新規抗血小板療法、血小板機能異常症における出血コントロール法開発へ貢献することを目指すものである。 | ||||
國島 伸治
アブストラクト 研究報告書 |
名古屋医療センター 高度診断研究部 分子診断研究室 |
GPIb信号伝達異常による新規先天性巨大血小板症の病態解明 | 100 | |
優性遺伝の先天性巨大血小板症において同定されたヘテロ接合性GP1BA L43RおよびK152Nバリアントを野生型GP1BBおよびGP9 と共に293T細胞に共導入し、GPIbαおよびGPIX発現を解析した。K152Nは野生型と同等のGPIbα発現を認めたが、L43Rはごく僅かのGPIbα発現を認めたのみであった。免疫ブロットによる総GPIbα発現量解析では、L43Rはごく僅かの発現量が検出されるのみであった。BSSの原因となるGP1BA変異には、発現不全変異と機能不全変異があり、共に優性遺伝の先天性巨大血小板症の原因となることが判明した。機能不全変異では、GPIb/IXが血小板膜上に発現することから、GPIb信号伝達異常による細胞骨格再構成への影響が及ぶ可能性がある。 | ||||
早川 盛禎
アブストラクト 研究報告書 |
自治医科大学医学部 生化学講座 病態生化学部門 |
血友病Aに対するin vivoゲノム編集治療法の基礎技術開発 | 100 | |
血友病Aは、血液凝固第VIII因子(FVIII)を欠損する先天性疾患である。現在、治癒を目指した遺伝子治療研究が進められている。我々は最近、肝類洞内皮細胞がFVIII産生細胞であることを見出した。本研究では、肝類洞内皮細胞特異的な遺伝子導入システムの開発し、血友病Aのin vivoゲノム編集治療法に応用することを目的とした。肝類洞内皮細胞特異的に発現する遺伝子として、F8を含む4つの遺伝子を選抜し、プロモーター領域をクローニングした。また、各プロモーター制御下でtdTomatoを発現するアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを作製した。さらに、候補遺伝子Stabilin 2についてはStab2-Creトランスジェニックマウスを作製した。今後、これらの肝類洞内皮細胞特異的な遺伝子発現系をin vivoゲノム編集技術に応用し、血友病A治療の実現に向けて、さらに研究を進める。 | ||||
山崎 泰男
アブストラクト 研究報告書 |
国立循環器病研究センター 分子病態部 |
血栓止血タンパク質von Willebrand因子の分泌制御因子の探索 | 100 | |
von Willebrand因子(VWF)は、血管内皮細胞で産生される止血反応を担うタンパク質である。VWFはWeibel-Palade小体(WPB)と呼ばれる葉巻形状のオルガネラにマルチマーとして貯蔵され、ヒスタミンなどの刺激により適時血液中へと分泌される。WPBは血管内皮細胞にのみ含まれる酸性オルガネラである。WPB内腔の酸性環境はVWFの機能発現に必須であることが明らかにされているが、それがどのように形成・維持されているかについては不明である。本研究課題では、WPB内腔の酸性環境の形成・維持を担う分子を同定することを目的に研究を行った。その結果、WPBにはプロトンポンプV-ATPase局在しており、WPBの酸性化していることが明らかとなった。その活性は、血小板止血に重要なVWF stringsの形成にも必須であった。興味深いことに、V-ATPase活性はVWFのマルチマー化に必須であることを示唆するデータが得られた。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) | |
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國崎 祐哉
アブストラクト 研究報告書 |
九州大学大学院医学研究院 がん幹細胞医学分野 |
概日リズム制御遺伝子を標的とした新たな白血病治療薬の開発 | 100 | |
最近の研究で、その概日リズム調節因子は、急性骨髄性白血病(AML)の維持においても重要な働きをもつことが明らかになっており、概日リズム調節因子の抑制による抗白血病効果が期待される。本研究は、概日リズムを修飾する化合物を特定し、それらの抗白血病効果を検討することを目的としている。 我々は、約60,000種類の小分子化合物ライブラリーのスクリーニングの結果、PERやCRYの発現を調節するBMALの発現を制御するCasein kinase2阻害薬として同定されているGO289が白血病細胞に影響を及ぼすかどうかを検証した。GO289は、白血病細胞の増殖を抑制し、正常な造血幹/前駆細胞への影響は少ないという結果が得られた。以上の結果より、概日リズム阻害剤が正常細胞に影響の少ない、より選択的な白血病の新しい治療薬となる可能性が示唆された。 | ||||
幣 光太郎
アブストラクト 研究報告書 |
宮崎大学医学部 内科学講座 消化器血液学分野 |
Calreticulin不全による造血器腫瘍発症機構の解明 | 100 | |
本態性血小板血症、原発性骨髄線維症の約30%に、小胞体において蛋白のfoldingや輸送に関わるシャペロンであるCalreticulin(CALR)に遺伝子変異がみられる。本研究では、(1) MPLの糖鎖修飾に与える変異CALRの影響、(2) 野生型CALR欠損の正常造血、異常造血における役割、(3) エピゲノム制御分子の異常との協調作用、の3テーマを解析し、特にテーマ(2)では大きな成果を得た。正常造血においてCALRが担う役割については未知であった。本研究は、CALRが「骨髄系前駆細胞の数」、「脾臓への造血細胞分布」、の恒常性維持を担うこと、MPOなどの蛋白発現に必須であることを示した。また、「CALR変異陽性患者の異常造血幹細胞は、片アリルの正常CALR喪失、つまりハプロ不全を介して野生型細胞に対する増殖優位性を獲得する」という、発症の仕組みに関する重要な知見を世界で初めて提唱した。 | ||||
東梅 友美
アブストラクト 研究報告書 |
山形大学大学院医学系研究科 内科学第三講座 血液・細胞治療内科学分野 |
活性化T細胞に発現するNLRP6の意義とGVHD/GVTに与える影響 | 100 | |
急性移植片対宿主病(graft-versus-host disease: GVHD)は同種造血幹細胞移植の重篤な合併症であるが、新規治療・予防法の開発には、詳細な機序解明が不可欠である。本研究ではインフラマゾームの1種であるNOD-like receptor family pyrin domain containing 6(NLRP6)のT細胞における機能をNLRP6欠損(KO)マウスを用いてin vitro 及びin vivoにて解析した。その結果、NLRP6のドナーT細胞における発現が活性化を制御し、GVHD死亡率及び重症度を軽減する可能性を明らかにした。本研究の成果は、将来的なGVHDの新規治療法開発に貢献することが期待される。 | ||||
藤生 克仁
アブストラクト 研究報告書 |
東京大学大学院医学系研究科 健康空間情報学講座 |
骨髄・マクロファージの変遷による個体の老化機序の解明 | 100 | |
我々は組織マクロファージが心臓や腎臓をはじめとする臓器に対して恒常性維持を行う機能を有していることを明らかとした。また、その機能を発揮する上で心臓へのストレスを契機として心臓・脳・腎臓などが連携することによって組織マクロファージが活性化することを見出した。本研究ではこのネットワークの詳細を検討し、さらにこのネットワークがどのように破綻し個体の老化に寄与するかを詳細に検討する。本研究では、心臓を中心とした組織マクロファージの遺伝子発現、エピジェネティック変化を網羅的解析によって明らかにし、また、心臓マクロファージ以外の心臓内の細胞である心筋細胞や心臓線維芽細胞の遺伝子発現なども同時に検討し、どの細胞がいつ、どのように変化するか?また一つの細胞の変化が次に別の種類の細胞の変化をもたらすかを時間を追って検討した。また、新規のフローサイトメーターについても、検討を進め、論文投稿を行っている。 | ||||
正本 庸介
アブストラクト 研究報告書 |
東京大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍病態学 |
慢性骨髄単球性白血病特異的iPS細胞を用いた新規治療標的の開発 | 100 | |
難治性造血器腫瘍である慢性骨髄単球性白血病(CMML)患者のCD34陽性細胞から樹立したCMML腫瘍細胞由来iPS細胞(iPSC)を血球に再分化させ、CMMLの病態モデルを作製した。網羅的な遺伝子発現解析およびゲノムDNAメチル化解析から、新たな治療標的候補としてSLITRK4を見出し、SLITRK4の治療標的としての妥当性を検証した。CMML-iPSC由来の血球ではSLITRK4のサイレンシングによってコロニー形成能が減少したが、正常iPSC由来の造血細胞ではコロニー形成能の減少は見られず、CMML特異的な治療標的として有望であることが示唆された。一方で正常造血細胞や細胞株を用いたSLITRK4の機能解析では、SLITRK4の導入単独では細胞の性質の変化を認めなかった。SLITRK4の下流シグナルおよび制御遺伝子群の網羅的な検索を行い、SLITRK4を標的とした治療の確立を目指す。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) | |
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杉山 大介
アブストラクト 研究報告書 |
九州大学大学院医学研究院 次世代医療研究開発講座 |
生理活性ペプチドによる造血幹細胞の体外増幅分子機構の解明 | 100 | |
臍帯血は、安全性と保存性の点から有用な造血幹細胞の供給源として注目されているが、含有される幹細胞数が少なく、成人への移植適用が制限される。申請者は、造血幹細胞の自己複製能維持に作用する新規生理活性ペプチドを開発し、それらをヒト臍帯血由来造血幹細胞に添加培養することで、造血幹細胞の数を約55倍に増加させることに成功した。本研究では、この生理活性ペプチドを用いて培養加工した造血幹細胞の臨床応用を目指すとともに、造血幹細胞増幅の分子機構を解析する。まず、生理活性ペプチドを用いた造血幹細胞増幅法を既存の造血幹細胞体外増幅法と比較検討した結果、既存の方法と同等もしくは2倍増幅されることが示された。現在、RNA-seq法を用いて生理活性ペプチドの分子メカニズムを解析中である。また、臍帯血由来CD34陽性細胞にレンチウイルスshRNAシステムを用いた候補分子のノックダウンにより、機能解析も行っている。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) | |
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関谷 高史
アブストラクト 研究報告書 |
国立国際医療研究センター研究所 肝炎免疫研究センター 免疫制御研究部 |
CD4T細胞の分化初期段階を制御する転写因子の同定 | 100 | |
ヘルパーT細胞(Th)と制御性T細胞(Treg)の機能のバランスは重要であり、どちらが勝りすぎても様々な疾患の引き金となる。我々のグループが研究を続けてきた「Nr4aファミリー核内受容体」は、Th/Treg運命決定に機能する重要な転写因子として、炎症性疾患の治療標的として大きな期待が持たれる分子である。本研究では、胸腺でのTreg発生分化におけるNr4aの役割と分子機序の追求を行った。その結果、Nr4aはTregで主要な転写因子の発現誘導や、Thサイトカインの発現を抑える機能を持ち、Treg分化誘導に寄与していることを見出した。さらに、Nr4aはTreg分化を遂げられなかった自己反応性の細胞を細胞死の誘導により除去する機能を持つことを見出した。本研究成果は、自己免疫疾患の発症機序の理解を深めるのみならず、Nr4aを標的とした新規治療薬の開発に重要な指針を与えると期待される。 | ||||
高田 健介
アブストラクト 研究報告書 |
北海道大学獣医学研究院 動物分子医学教室 |
核内受容体を介した免疫記憶形成機構の解明とワクチン療法への応用 | 100 | |
特異的抗原認識により活性化され、急激に増殖したエフェクターT細胞の一部はその後も生存し、記憶T細胞として免疫記憶を担う。最近、記憶T細胞の分化における脂質代謝の重要性が示唆されている。そこで本研究では、様々な組織で脂質代謝を競合的に制御することが知られている核内受容体RORalphaとREV-ERBに着目した。T細胞免疫応答において、RORalphaおよびREV-ERBの発現はそれぞれ、エフェクター期および記憶形成期に上昇していた。また、REV-ERBリガンドはin vitroで活性化T細胞の生存を大きく向上させたのに対し、RORリガンドは逆に細胞死を促進した。さらに本研究では、REV-ERBリガンドがエフェクターT細胞の抗腫瘍効果を顕著に向上させることを見出した。今後、これらの知見を進展させ、新規免疫記憶機構の解明と腫瘍免疫療法への応用につなげたい。 | ||||
高村 史記
アブストラクト 研究報告書 |
近畿大学医学部 免疫学教室 |
肺粘膜滞在型メモリーCD8T細胞分化調節機構の解明 | 100 | |
組織滞在型メモリーCD8T細胞(CD8 TRM)は粘膜面に長期間留まり、防御免疫の最前線を担う。従って、この細胞集団をいかに効率よく誘導するかが今後のワクチン開発の最重要課題である。我々はマウスインフルエンザウイルス感染モデルを用い、肺CD8 TRMが分化誘導される部位を特定した。本研究にて、この内部におけるCD8 TRM分化誘導機構に注目したところ、肺に浸潤したエフェクターCD8T細胞は肺マクロファージと恒に近接して存在していることが解った。このマクロファージはウイルス抗原を提示しており、肺局所にてCD8T細胞に抗原再刺激反応を起こすことでCD8 TRM分化を促進していることが判明した。肺樹状細胞にはCD8 TRM分化誘導能が確認できなかった。これらより、浸潤マクロファージの機能調節はCD8 TRM分化誘導ワクチン開発における重要な課題であると考えられる。 | ||||
谷口 浩二
アブストラクト 研究報告書 |
慶應義塾大学医学部 | 炎症による消化器発癌の制御機構の解析 | 100 | |
IL-6シグナルのエフェクターとしてJAK-STAT3経路が有名であるが、最近、我々は新たなエフェクターとしてSrc-YAP経路を発見し,腸の再生に重要であることを報告した。今回の研究では、消化器癌と消化器再生における炎症、Src-YAP経路とJAK-STAT3経路の活性化機構と役割を明らかにする事を目的とした。まず腸オルガノイドにおいてがん抑制遺伝子APCの欠損によりSrc-YAP経路とJAK-STAT3経路が活性化される事を発見した。さらにSrc-YAP経路とJAK-STAT3経路を阻害剤で同時に抑制する事で単剤投与に比べて癌細胞の増殖をより効果的に抑制できる事が明らかとなった。Src阻害剤とJAK阻害剤はすでに一部が治療薬として他の疾患に承認されたり,治験が行われたりしている。そのため,今回の研究結果はヒト癌への臨床応用も早期に行うことが可能と期待される。 | ||||
中川 雅夫
アブストラクト 研究報告書 |
北海道大学大学院医学研究院 内科系部門 内科学分野 血液内科学教室 |
T細胞性リンパ腫におけるT細胞分化・機能関連遺伝子群の網羅的機能解析 | 100 | |
T細胞リンパ腫においては、その機能的腫瘍特性がTリンパ球に特徴的な分子メカニズムに由来するか否か、十分に解析されていない。本研究ではCRISPR/Cas9システムを導入したT細胞リンパ腫の一病型である成人T細胞性白血病リンパ腫(ATLL)患者から樹立された細胞株に対して網羅的遺伝子ノックアウトスクリーニングを行い、T細胞分化・機能に関わる遺伝子群を解析した。これらの解析対象遺伝子のほとんどは細胞増殖・生存に影響を与えなかったが、Th2/Tfh/Th17/Tregの分化・機能に関わる転写因子IRF4は細胞増殖・生存に必須の機能を持つことを明らかにできた。さらに、IRF4と転写因子複合体を形成するAP1転写因子であるBATF3も同定することに成功した。本研究の結果から、ATLL 細胞はT細胞に特徴的な転写因子複合体を利用することで、その腫瘍特性を維持していることを明らかにできた。 | ||||
中島 裕史
アブストラクト 研究報告書 |
千葉大学大学院医学研究院 アレルギー・臨床免疫学 |
IL-22-キチナーゼ経路による喘息抑制機構の解明 | 100 | |
本研究者らはIL-22が気道上皮細胞に作用しアレルギー性気道炎症を抑制することを示した。そしてその抑制機構の解明を目的に、肺においてIL-22により発現制御される遺伝子を網羅的に解析したところ、キチン分解酵素キチナーゼの発現がIL-22欠損マウスにおいて有意に低下することを見出した。これらの結果はIL-22がキチナーゼの発現誘導を介してアレルギー性気道炎症を抑制している可能性を示唆しているが、その分子メカニズムは不明である。そこで本研究では、IL-22によるキチナーゼ発現誘導機構、及びIL-22-キチナーゼ経路のアレルギー性気道炎症における役割を解明することを目的に研究を行った。その結果、キチナーゼは気道上皮細胞に特異的に発現し、樹状細胞、CD4陽性T細胞等の血球系細胞には発現しないことを見出した。現在、アレルギー性気道炎症におけるキチナーゼの役割を解析中である。 | ||||
西 英一郎
アブストラクト 研究報告書 |
滋賀医科大学 薬理学講座 |
多機能プロテアーゼによる抗体産生および自己免疫疾患制御機構の解明 | 100 | |
我々はメタロプロテアーゼのナルディライジン(NRDC)が関節リウマチ(RA)の病態生理において重要な働きを有すること、すなわち1) マウスRAモデルにおいてNRDC欠損が関節炎発症を抑制したこと、2) 変形性膝関節症患者(OA)患者と比較して、RA患者関節液中NRDC濃度は著明に上昇していることを示した。本研究においては、マクロファージおよびB細胞特異的NRDC欠損マウスを用いて、自己免疫性関節炎および免疫制御における細胞特異的なNRDCの役割を明らかにすることを目的として進め、マクロファージに発現するNRDCがTNF-α分泌の調節を介して自己免疫性関節炎を制御していること、NRDCが抗体産生を調節している可能性が示唆された。 | ||||
保田 朋波流
アブストラクト 研究報告書 |
九州大学 生体防御医学研究所 免疫ゲノム生物学分野 |
免疫細胞の増殖限界制御の分子基盤 | 100 | |
本研究課題ではB細胞の不死化前後で発現が顕著に制御される因子として独自に見出した細胞老化遺伝子に着目し、細胞増殖限界制御との関係性及びその生理的意義を明らかにしようと試みた。先ずB細胞リンパ腫の主たる発生場所である胚中心における抗原特異的B細胞の分裂速度と回数について検討した。抗原特異的B細胞の細胞分裂を誘導し調べたところ、抗原投与5日目にはほぼすべての抗原特異的B細胞が7回以上分裂を終えていることがわかった。次に類似環境下での細胞老化関連蛋白質の発現誘導を調べたところ、細胞老化関連タンパク質が分裂回数の限界付近で著しい発現上昇を示すことが明らかになった。分裂限界と相関を示した細胞老化関連タンパク質の生理的意義を明らかにするために、ノックアウトマウス及びレポーターマウスを新規に樹立することに成功した。今後それら遺伝子改変マウスを用いて細胞老化タンパク質の免疫機能における役割を明らかにする。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) | |
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淺田 騰
アブストラクト 研究報告書 |
岡山大学病院 血液腫瘍内科 |
造血幹細胞ニッチの免疫学的傷害メカニズムの解明 | 100 | |
同種造血幹細胞移植後の合併症として、移植片対宿主病(graft-versus-host disease:GVHD)がある。最近では、骨髄内の造血幹細胞ニッチもGVHDの標的となることが明らかとなっている。本研究では、GVHDが及ぼす骨髄内造血幹細胞ニッチへの影響を検討した。野生型マウスを用いた急性GVHDモデルマウスでは、同種移植群で移植後の造血幹細胞の回復が著明に障害されていた。また、GVHDマウスにおいて、骨髄内の血管周囲に存在する造血幹細胞ニッチ細胞が、対照群に比べ有意に減少していた。これまでの研究で骨髄移植後の免疫反応による造血幹細胞の障害は、血管内皮細胞、骨芽細胞の傷害に起因するとされている。本研究結果より、GVHDによる血管周囲造血幹細胞ニッチの傷害も、移植後造血障害の一つの原因である可能性が示唆された。 | ||||
越智 俊元
アブストラクト 研究報告書 |
愛媛大学大学院医学系研究科 血液・免疫・感染症内科学講座 |
改変抗体を応用したがんに対する新規免疫療法の開発研究 | 100 | |
我々は、実臨床で用いられている既存のがん特異的抗体タンパクを、簡単な方法を用いて修飾することで、コストを抑えて二重特異性抗体(neo-BsAb)を作製する新たな技術を開発した。抗ヒトCD20抗体Rituximab、抗ヒトCD38抗体Daratumumabをモデルとして、neo-BsAbs(Rituximab_X、Daratumumab_X)を作製した。neo-BsAbs存在下において、ヒト末梢血未刺激T細胞およびNK細胞は、CD20もしくはCD38分子を特異的に認識してサイトカインを産生し、抗体単剤の場合と比較して標的細胞を強く傷害した。本技術は、今後新たに開発される抗体製剤にも応用可能であること、また、neo-BsAbsパネルを作製し、患者腫瘍細胞の多様性に基づいてneo-BsAbsを選択することも可能となるため、将来性と汎用性とを兼ね備えた技術開発であると考えられる。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) | |
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田久保 圭誉
アブストラクト 研究報告書 |
国立国際医療研究センター研究所 生体恒常性プロジェクト |
骨・骨髄の透明化による全身の造血幹細胞ニッチの構造と変容の解明 | 100 | |
造血幹細胞は、骨髄の微小環境(ニッチ)によって自己複製能と多分化能を維持する。ニッチは細胞成分であるニッチ細胞(間葉系幹細胞、骨芽細胞、脂肪細胞、血管内皮、巨核球などの血球細胞)や酸素分圧、サイトカインや接着分子などのニッチ因子から構成される。このように、造血幹細胞ニッチの構成要素や、そこで作動している分子機構については分子遺伝学的な解析が着実に進展している。その一方、ニッチの実際の構造―幹細胞やニッチ細胞の空間的配置や相互関係、各骨ごとの差異―については手付かずの状態である。また、加齢によってニッチの構造変化やニッチ因子の発現異常が発生すると考えられているが、その時空間変化やメカニズムは不明である。こうした状況を打破するために本研究では全身の全骨/骨髄の真の透明化技術を目指した検討の実施が必要であると考え、基礎的な検討を行った。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) | |
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井上 毅
アブストラクト 研究報告書 |
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 分化制御研究室 |
記憶B細胞産生の分子メカニズム | 100 | |
記憶B細胞の産生、活性化原理の解明は、効果的なワクチン開発戦略における重要な課題である。記憶B細胞の産生には転写因子Bach2が必須であり、Bach2の発現量が高く維持されているGC B細胞群が記憶B細胞に分化しやすいことから、本研究ではBach2欠損マウスの免疫応答過程を解析したところ、Bach2欠損GC B細胞は増殖能が亢進した過活性化状態にあることが分かった。トランスクリプトーム、メタボローム解析により、mTORシグナル経路の活性化とグルコース代謝産物の上昇が認められた。そこで、Bach2欠損マウスにラパマイシンを投与してGC反応時のmTORの活性阻害を行ったところ、記憶B細胞産生の部分的な回復が認められた。以上より、GC B細胞から記憶B細胞へ分化するためにはエネルギー代謝機構の転換が必要であり、Bach2はその制御に重要な役割を果たしていることが示唆された。 | ||||
立花 雅史
アブストラクト 研究報告書 |
大阪大学大学院薬学研究科 附属創薬センター ワクチン・免疫制御学 |
骨髄由来免疫抑制細胞の抑制機能発現におけるHMGB1の機能解析 | 100 | |
骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)はCD11bとGr-1を共発現し、T細胞増殖抑制能を有する免疫細胞である。MDSCは担がん生体において分化・増殖し、抗がん免疫系細胞の抑制を介してがんの増悪化を促進することから、がん免疫療法の標的として期待されているが、その免疫抑制機構については未だ不明な点が多い。これまでに我々は、HMGB1がTLR4を介してMDSCのT細胞増殖抑制能を増強させることを明らかにしてきた。 マウス骨髄細胞をGM-CSF存在下で4日間培養することで、MDSCを分化誘導できる。本誘導系を用い、HMGB1 添加によるMDSCのT細胞増殖抑制能増強を制御する候補因子としてIFN-αを見出した。さらに、Ⅰ型IFN受容体欠損マウスを用いMDSCを分化誘導したところ、HMGB1添加によるT細胞増殖抑制能の増強は、Ⅰ型IFN受容体欠損により消失した。以上の結果より、HMGB1-TLR4シグナルによるMDSCのT細胞増殖抑制能増強にはI型IFNシグナルが重要であることが示された。 | ||||
中司 寛子
アブストラクト 研究報告書 |
慶應義塾大学医学部 微生物学・免疫学教室 |
免疫細胞におけるエピジェネティック制御機構の解明 | 100 | |
本研究は、DNA脱メチル化酵素TETによるT 細胞分化の安定性と可塑性における役割を解明することを目的とした。 T細胞特異的Tet2/3欠損マウス(CD4DKOマウス)は、T細胞増殖/活性化を自然発症するが、これは腸内細菌によるT細胞受容体刺激が原因であると考えられた。CD4DKOマウスでは腸管で末梢由来Tregが減少した一方、Th17細胞は増加していた。また、Rag2-/-OT-II Tg背景CD4DKOマウス、およびin vitro分化実験により、Tetが末梢におけるTreg/Th17分化に重要であることが示された。 また、Tet2/3欠損TregではFoxp3遺伝子の上流領域に強いメチル化とATACピークの消失が認められ、Foxp3の安定性への寄与が示唆された。さらに、遺伝子発現、DNAメチル化状態、オープンクロマチンの統合解析により、Tetにより制御される遺伝子群を抽出した。 | ||||
福井 竜太郎
アブストラクト 研究報告書 |
東京大学医科学研究所 感染遺伝学分野 |
WD40リピート含有分子による新規なToll-like receptor7応答制御機構の解析 | 100 | |
Toll-like receptor 7(TLR7)は1本鎖RNAなどを認識する自然免疫系受容体である。病原体の核酸を認識して免疫応答を惹起する一方、自己由来の分子をも認識して非感染性の慢性炎症を引き起こすことが知られている。我々はTLR7依存的な炎症性疾患の解明を目指すべく、ゲノムワイドなsgRNAライブラリを用いたファンクショナルクローニングによって、TLR7の応答制御に関わる新規分子を探索した。その結果、WD40リピートを持つ分子WIPI3が、フォスファチジルイノシトール3リン酸結合部位依存的にTLR7の応答を負に制御することが明らかとなった。また、WIPI3を欠損したマウスでは発育障害が観察されており、ヒトで報告されているWIPI3の欠損時に見られる表現型と類似していることが示された。今後は、WIPI3の表現型におけるTLR7の関与などを検討し、外挿性の高い病態モデルとして確立することが必要と考えられる。 | ||||
古澤 之裕
アブストラクト 研究報告書 |
富山県立大学工学部 教養教育 生物学教室 |
エピジェネティクス修飾による抗腫瘍免疫の増強 | 100 | |
がん細胞は免疫寛容を担う制御性T細胞(Regulatory T cells: 以下Tregと略)を自身の周りに誘導する事で、抗腫瘍免疫応答を抑制し、臨床的ながんを形成している。このことから、Tregの機能を抑制することで抗腫瘍免疫を増強することが期待される。本研究では、抗腫瘍免疫療法の新たなアプローチとして、人為的なエピジェネティクス修飾制御であるヒストン脱アセチル化酵素(Histone deacetylase: HDAC)阻害により抗腫瘍免疫が増強されるか検討を行った。樹立したHDAC1/2欠損B16F10細胞はin vitroでHDAC阻害剤に対する耐性を示した一方、マウス移植腫瘍モデルではHDAC阻害剤投与により腫瘍の成長が抑制された。同時にTregの減少が認められたことから、本HDAC阻害剤は腫瘍単独でなく免疫修飾を介して抗がん作用を示す可能性がある。 | ||||
松本 佳則
アブストラクト 研究報告書 |
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 腎・免疫・内分泌代謝内科学 |
サイトカイン産生、炎症の新たな制御機構の解明 | 100 | |
【目的】 poly(ADP-ribose)polymerase(PARP)familyのメンバーで、基質蛋白と結合しこれをADPリボシル化するTankyraseに着目し、炎症を制御するTankyraseの分子生物学的機序を解明する。 【対象・方法】 サイトカイン産生に関与するToll-like receptor(TLR)経路に着目し、TankyraseがTLRの感受性やサイトカイン産生を制御するメカニズムを、Tankyrase阻害剤NVP-TNKS656を用いて解明する。 【結果・考察】 マウスマクロファージをNVP-TNKS65で刺激すると、TNF-α、IL-6をはじめとする様々なサイトカインのmRNA発現が亢進した。更にRANKL誘導性の破骨細胞分化が亢進した。 炎症を制御するTankyraseの機能を明らかにするため、基質蛋白の下流のシグナル伝達経路の解明を中心に、更なる検討を進めている。 | ||||
渡部 昌
アブストラクト 研究報告書 |
北海道大学大学院医学研究院 生理系部門 生化学分野 医化学教室 |
ユビキチン化基質網羅的同定による免疫炎症制御機構の解明 | 100 | |
ユビキチンによるタンパク質の可逆的修飾は免疫・癌・感染をはじめとした様々な生命現象を支える極めて重要な翻訳後修飾の一つであり、ユビキチンリガーゼ(E3)が選択的に基質を認識することによって起こる反応である。したがって、個々のE3に特異的な基質を同定しそのユビキチン化部位を決定することは様々な生命現象を理解する上で重要となる。近年、E3のサブファミリーの1つであるTRIM型E3が免疫炎症シグナルの制御に重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた。本研究では、TRIM型E3の基質を新規手法によって網羅的な同定を行い、13のTRIM型E3について基質の候補を得た。このうち8種類のTRIM型E3については、polyI:C刺激に応答してユビキチン化を受ける候補分子を得ている。今後の検討を進めることにより、炎症応答時のユビキチン化修飾の全体像が明らかになるものと思われる。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) | |
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村松 里衣子
アブストラクト 研究報告書 |
大阪大学大学院医学系研究科 分子神経科学 |
血液含有因子による脳神経系の修復機構の解析 | 100 | |
傷ついた脳の神経回路はわずかに自然修復するが、そのメカニズムは十分解明されていない。本研究では、病巣の環境変化と神経回路の修復の関連について調べるため、特に病巣でみられる血液の脳内への流入に着目し、血液が神経回路の修復に与える作用について、in vitroで検討した。我々は以前に、血液の中には髄鞘の修復を促す分子が含まれることを報告している。ただ、神経回路の機能的な再建には、髄鞘だけでなく、神経突起による回路網の再構築が重要のため、本研究では神経細胞の生存および神経突起の伸長に対する血液の作用を、マウスの大脳皮質神経細胞培養系と成体マウスから採取した血清を用いて検討した。その結果、神経細胞死が生じないレベルの濃度の血清に暴露された神経細胞は、神経突起長を伸長させる様子が観察された。現在、成体マウスの血清に含まれ、神経突起の伸長を促す作用を持つ分子の探索を進めている。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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(留学先) | |||
井原 聡三郎 | 公益財団法人 朝日生命成人病研究所 消化器科 |
3次元共培養系を用いた腸粘膜免疫における樹状細胞・上皮間の相互作用の検討 | 500 |
University of California, San Diego, U.S.A. | |||
神田 真聡 | 北海道大学大学院医学研究院 内科学分野 免疫代謝内科学講座 |
ループス腎炎の腎組織におけるゲノム・トランスクリプトームによる統合的解析 | 500 |
Max-Delbrück-Center for Molecular Medicine, Germany |