研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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飯原 弘二 アブストラクト 研究報告書 | 九州大学大学院医学研究院 脳神経外科 | くも膜下出血の予後因子としての遺伝的素因に関する国際共同研究 | 100 |
国際HATCHコンソーシアムの基幹施設である、英国Southampton大学神経内科 Prof. Ian Galeaとの共同研究として、Prof. Ian Galeaらが開発した、aSAHの疾患特異的アウトカム評価ツールの日本語版の開発とパイロット研究を施行している。 現在、九州大学脳神経外科関連施設16施設等を対象に、aSAH患者に参加を求め、同意を得た上でEQ-5D, SF6Dを用いたQOL評価を前向きに実施し、医療経済評価を行う。費用対効果の分析に関しては、EQ-5D, SF6Dを用いて評価を行い、QALYを算出し、増分費用効果比の推定を行う。EQ-5D, SF6Dの測定は、新規に開発したePRO (Electronic Patient Reported Outcomes)を用いて、退院時、発症後3ヶ月、6ヶ月時点で収集する。令和2年11月時点で、13例の登録を行い、現在症例を集積中である。新型コロナ感染症の終息を待ち、GWAS研究の開始を検討する予定である。 | |||
金澤 雅人 アブストラクト 研究報告書 | 新潟大学脳研究所 脳神経内科学分野 | 末梢血由来単核球細胞による脳梗塞機能回復療法 | 100 |
脳梗塞に対して,様々な幹細胞療法が検討されているが,1.数が少なく,時間をかけて特殊な培養が必要,2.癌化の危険性,3.非常に高額であり,応用するのは困難である.申請者は,初代ミクログリアに軽い虚血刺激(低酸素低糖刺激;OGD)を加えることで,保護的なM2様ミクログリアに極性をかえる技術を開発した.さらに,臨床応用を目指して,性質が類似し,ミクログリアよりも簡便に採取できる末梢血由来単核球(PBMC)に注目した.OGD刺激により,PBMCは1.転写因子PPARγを増加させ,VEGFを分泌し,極性が組織保護的に変化すること,2.MCP-1を介して脳内に移行し,脳内の組織修復因子の分泌が亢進すること,3.刺激前には,ほとんど見られない幹細胞マーカーのSSEA3陽性細胞を増加させる.脳梗塞症状を有するラットにOGD-PBMCを投与することで,これらの相乗効果で,血管新生・軸索進展の促進を介して,脳梗塞後遺障害を改善する可能性が示された. | |||
島村 宗尚 アブストラクト 研究報告書 | 大阪大学医学系研究科 健康発達医学講座 | 脳梗塞慢性期におけるLGR シグナルの機能解明と治療応用の検討 | 100 |
7回膜貫通型の受容体であるLGR4は、G蛋白を介したシグナルとLRP5/6を介したWnt/βカテニンシグナルに関連するが脳での発現と機能は明らかではない。本研究では、塩化鉄誘発中大脳動脈血栓閉塞モデルを用いて、LGR4およびそのファミリーであるLGR5,6の発現を解析した。正常脳では、いずれも神経細胞に強く発現しているが、脳梗塞では障害神経細胞での発現が低下した。一方で、1日目ではLGR4, LGR5は梗塞部位の血管内皮周囲に、3日目-7日目にかけてはマクロファージ・ミクログリアにてLGR4,5,6の発現が徐々に増強し、特にLGR6は強く発現していた。また、LGR4は7日目の脳梗塞周囲において、アストロサイトにも強く発現していた。LGR4をノックダウンしたRAW264.7細胞の検討ではLGR4とTLR4シグナルの関連は認められなかった。以上より、LGRが脳梗塞亜急性期から慢性期の炎症寛解、修復過程に関連するシグナルに関与している可能性が示唆された。 | |||
脇坂 義信 アブストラクト 研究報告書 | 九州大学病院 腎・高血圧・脳血管内科 | 慢性脳低灌流による脳白質病変への活性酸素種産生酵素Nox4の脳保護作用機構の解明 | 100 |
【背景と目的】活性酸素種産生酵素のNox4は急性脳虚血では血液脳関門破綻を助長し病態を悪化させるが、慢性脳虚血ではNox4の役割は不明である。【方法と結果】Nox4ノックアウトマウス(Nox4-/-)とその野生型マウスの両側総頸動脈を緩徐に狭窄させて慢性低灌流モデルを作製した。モデル作製28日目での脳梁膨大部の脱髄性変化は野生型よりもNox4-/-で有意に高度であった。脳梁膨大部での微小血管数は野生型に比しNox4-/-で有意に少なかった。また運動機能(Wire Hang test)は両マウス群間で有意差を認めなかったが、Nox4-/-は野生型に比し空間作業記憶(Y maze test)の低下傾向を認めた。そしてNox4-/-は野生型に比し脱髄部位でのオリゴデンドロサイトとその前駆細胞の発現低下を認めた。【結論】Nox4は慢性脳虚血に伴う脱髄病変形成に対して、微小血管構築維持作用やオリゴデンドロサイトとその前駆細胞の発現を介して脳保護的に作用する可能性が示唆された。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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泉家 康宏 アブストラクト 研究報告書 | 大阪市立大学大学院医学研究科 循環器内科 | クローン性造血が心不全患者のサルコペニア発症に与える影響の検討 | 100 |
心不全患者で認められるサルコペニアにClonal hematopoiesis (CH)が関連するかを検討するため、野生型トランスサイレチンアミロイドーシス(ATTRwt-CM)患者を対象に心機能・身体機能検査とCHの有無について検討を行った。2019年から2020年にかけて、当院で加療したATTRwt-CM患者のうち文書による同意を得られた症例のDNAエクソーム解析を行った。参加症例の平均年齢は79歳、BMIは23.6±4.1であった。心エコーで計測した左室収縮能は75%の患者で保持されており、高齢心不全患者の特徴であるHFpEFを呈していた。心肺運動負荷試験のパラメーターは、最大酸素摂取量=18.2±3.25 (ml/min/kg)、嫌気性代謝閾値=12.9±2.23 (ml/min/kg)であり、運動耐容能の低下が示唆された。握力は29.7±5.89 (kg)、大腿四頭筋筋力は315±55.6 (N)であった。今回エクソーム解析を行った症例ではDNMT3A、 TET2、 ASXL1、 JAK2の体細胞変異は認めず、CHは認められなかった。 | |||
遠藤 仁 アブストラクト 研究報告書 | 慶應義塾大学医学部 循環器内科 | 機能性脂質を介した新規肺高血圧治療の創出 | 100 |
肺動脈性肺高血圧症の治療薬はいまだ姑息的な血管拡張薬が主体であり、病態の発症・進展を抑制する薬剤はない。我々は、肥満細胞の産生するω3エポキシ脂肪酸が、肺高血圧症の肺血管リモデリングを抑制する作用を有していることを明らかにした。ω3エポキシ脂肪酸はヒトの病態に近似しているSugen/低酸素モデルにおいても充分な肺高血圧改善効果を発揮し、治療薬としての可能性を強く示した。ω3エポキシ脂肪酸はおもに肺血管の線維芽細胞に作用し、TGFβシグナルの下流Smad2のリン酸化を抑制することで、線維芽細胞の異常活性化を抑制する。また、本研究では患者の遺伝子解析からω3エポキシ脂肪酸産生酵素に疾患関連性変異を同定しており、この変異を認める患者群に対してω3エポキシ脂肪酸の特異的な有効性が期待されるため、遺伝子背景に基づいたPrecision medicineの実践が可能となると考えている。 | |||
尾池 雄一 アブストラクト 研究報告書 | 熊本大学 大学院生命科学研究部 | 心筋ミトコンドリアエネルギー代謝制御による心不全の新規治療法開発 | 100 |
近年、ミトコンドリアの量や質の制御が心機能維持に重要であるという報告が散見され、ミトコンドリア機能と心機能との連関が注目されている。最近我々は、心筋に豊富に発現する新規lncRNA CELR-Xを同定し、CELR-Xが心保護作用を有すること、加齢や圧負荷による心機能低下に伴いその発現が低下し心不全を引き起こすことを解明した。本研究では、CELR-Xによる心臓組織のミトコンドリア生合成・エネルギー代謝制御機構の解明を実施した。その結果、CELR-Xが、TFAMを介したミトコンドリア生合成の促進、及び、CELR-Xの標的分子であるTCX-1の発現増加を阻害することでT C X-1によるミトコンドリア呼吸機能低下を抑制し、ミトコンドリアエネルギー代謝促進による心保護効果をもたらすことが示唆された。本成果は、ミトコンドリアエネルギー代謝機構を標的とした新規心不全治療戦略の創出につながることが期待される。 | |||
倉林 正彦 アブストラクト 研究報告書 | 群馬大学大学院医学系研究科 循環器内科学分野 | ケトン体とFGF21による心筋エネルギー代謝と心肥大の調節 | 100 |
心不全患者では、脂肪酸の取り込みや酸化経路に関与する蛋白の遺伝子発現が減少し、逆にケトン体(生体で最も豊富なβヒドロキシ酪酸(βOHB))の酸化経路が活性化する。しかし、ケトン体が心筋細胞に対してシグナル分子として機能するかは不明である。本研究ではラット培養心筋細胞にケトン体を添加し、種々の遺伝子発現を解析した。その結果、ケトン体(βOHB)は用量依存的に、FGF21、 LKB1、AMPK、PPARα(peroxisome proliferator-activated receptor-α ), およびPGC-1αを著明に活性化させた。また、FGF21ノックダウン細胞では、ケトン体によるAMPK、 PPARαの活性化が抑制された。したがって、ケトン体およびFGF21はAMPK/PPARαシグナルを活性化するシグナル分子として機能することが示された。したがって、ケトン体やFGF21の補充は、心筋保護に働く可能性がある。 | |||
佐々木 直人 アブストラクト 研究報告書 | 神戸薬科大学 医療薬学研究室 | 免疫系に着目した動脈硬化の発症・進展機序の解明および新規治療法の開発 | 100 |
申請者は、制御性T細胞(Regulatory T cell:Treg)が炎症を制御することで動脈硬化の進展抑制に関わることを明らかにしてきたが、その抑制機序については不明な点が多い。本研究において、阻害薬と遺伝子欠損マウスを用いて動脈硬化の発症・進展におけるケモカイン受容体CCR4の役割について検討を行い、Tregはこのケモカイン受容体を介して動脈硬化病変部へ遊走し、病変形成抑制に関わる可能性を見出した。また、免疫調節作用を有し、皮膚疾患の治療に用いられている紫外線B波(UVB)に着目し、動脈硬化モデルマウスを用いて病変形成抑制に有効なUVB波長とその機序について検討した。Tregの増加と動脈硬化抑制に有効なUVB波長を見出したが、動脈硬化抑制機序については波長により異なる可能性が示唆された。CCR4を介した動脈硬化抑制の分子機序と、特定波長のUVBによる動脈硬化抑制機序を解明することで、新規治療法の開発につながることが期待される。 | |||
新藤 隆行 アブストラクト 研究報告書 | 信州大学医学部医学科 循環病態学教室 | 生体内恒常性制御システムを標的とした、生活習慣病と慢性臓器障害治療薬の創出 | 100 |
アドレノメデュリン(AM)は、血管をはじめ、全身で広く産生される生理活性ペプチドである。我々はこれまで循環調節ホルモンとされてきたAMが、エネルギー代謝や、小胞体ストレス制御などにも必須の因子であることを明らかとした。AMは臨床応用が期待される一方で、血中半減期が短く、慢性疾患への応用に制限がある。そこで我々は、AMの受容体側に注目した。AMの受容体CLRには受容体活性調節タンパクRAMPが結合する。本研究では、各種の遺伝子改変マウスを用いて、RAMPの病態生理学的意義を検討し、低分子化合物を用いてRAMPシステムに介入する方法を検討した。 RAMPサブアイソフォームの中でも、RAMP2は、血管恒常性維持作用を有し、臓器保護療法への応用が期待されるだけでなく、癌の転移抑制への応用が期待される結果が得られた。RAMP2に結合する新しい低分子化合物を得たことから、今後の応用展開が期待される。 | |||
杉江 和馬 アブストラクト 研究報告書 | 奈良県立医科大学医学部 脳神経内科学 | Danon病における心筋症とオートファジー機能異常の機序解明 | 100 |
Danon病は心筋症とミオパチーをきたすX連鎖優性遺伝疾患である。Danon病を含む自己貪食空胞性ミオパチーの疾患概念を確立するため、本邦の患者において臨床病理学的検討を行った。Danon病の致死性心筋症は男女ともに必発で、男性では肥大型心筋症、女性では拡張型心筋症を呈した。根治療法である心臓移植は本邦1例で施行された。LAMP-2遺伝子変異をエクソン9に認める2家系は、心筋症を含めた臨床症状は明らかに軽症であった。筋病理では、筋鞘膜の性質を有する特異な自己貪食空胞(AVSF)が多数の筋線維を認めた。また、ライソゾーム膜蛋白やオートファゴソーム膜蛋白、ライソゾーム蛋白、エンドソーム蛋白の発現亢進を見出した。AVSFは疾患特異性の高い所見で、この疾患群は原発性のライソゾーム機能不全により発症すると考えられ「AVSFミオパチー」として提唱する。 | |||
関根 秀一 アブストラクト 研究報告書 | 東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 | 微小環境の恒常性維持を目指した3次元毛細リンパ管組織の創製 | 100 |
近年、生体外で細胞を組織化し再生組織として不全部に移植する再生医療が始まっている。我々はこれまでに生体外で再生組織内へ毛細血管を付与する技術を開発し、生体同様に灌流可能な血管付き3次元組織の構築を可能とした。本研究ではこの技術を用い再生組織中の微小環境の恒常性維持を目指した3次元毛細リンパ管組織の構築法を開発した。今後、3次元リンパ管組織の構築法を確立することで毛細リンパ管の再生メカニズム解明のツールとなるとともに、重症化リンパ浮腫臓器に対する組織治療としての可能性が示せるようになる。 | |||
武田 憲文 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学医学部附属病院 循環器内科 | 新たな三次元的病態解析システムを用いた肺高血圧症の発症メカニズムの解明 | 100 |
【背景】肺高血圧症(PH)では血管内皮増殖因子(VEGF)が過剰発現しているが、血管新生シグナルの役割は明確でない。 【目的・方法】複数のマウスPHモデルの三次元微小血管構造変化を比較検証した。 【結果】組織透明化技術CUBICと多光子顕微鏡技術を用いて、マウス肺の血管構造を三次元かつ明瞭に描出し得た。低酸素負荷PHと遺伝性PHモデルAlk1+/-では、肺遠位側に伸長する微小血管増生が顕著であるが、VEGF阻害薬であるSugen負荷・重症PHでは欠落しており、遺伝子発現解析から血管新生促進因子Xに依存した現象であることを疑った。肺内皮細胞特異的X欠損マウスでは、微小血管増生を来さずPHが増悪したが、低酸素PHモデルにX活性化剤を投与するとVEGF発現は増加しPHが改善した。 【結論】微小血管リモデリングは、PH病態初期の進展阻止反応である可能性があり、X-VEGF経路が新たな治療標的として期待される。 | |||
田尻 和子 アブストラクト 研究報告書 | 筑波大学医学医療系 循環器内科 | 統合オミクス解析による免疫チェックポイント阻害薬心筋炎の免疫機構の解明 | 100 |
免疫チェックポイント阻害剤は、様々な悪性腫瘍で有効性が示されている。免疫チェックポイント分子は免疫細胞の活性化を抑制し、免疫応答の恒常性を維持している分子群である。免疫チェックポイント阻害剤より抗腫瘍免疫が活性化される一方、自己免疫の賦活化によると考えられる免疫関連有害事象の発生が問題となっている。本研究では免疫チェックポイント阻害剤によって発症した心筋炎の病態に自己抗体が関与しているかどうかをプロテオーム解析の手法を用いて網羅的に検討した。我々が経験した2症例は免疫チェックポイント阻害剤投与前から心筋症関連自己抗体が検出されたことから、免疫チェックポイント阻害剤による心筋炎発症の予測因子として用いることができる可能性が考えられた。 | |||
西山 功一 アブストラクト 研究報告書 | 熊本大学 国際先端医学研究機構 | メカノセンシングによる血管新生ブレーキ機構の解明と医療応用 | 100 |
血管新生は、生体組織の構築や恒常性維持に必須の血管増生反応であり、また、虚血性疾患をはじめ様々な病態に関与する。しかし、そのしくみは十分理解されていない。本研究では、独自に確立したオンチップ血管新生解析系を用いて、血管新生を行う内皮細胞においてBARタンパクCIPやTOCA1が細胞膜の伸展を感知するセンサー分子として機能し、血流により生じる内腔圧負荷とその後の細胞膜伸展によって、チップ内皮細胞の方向性運動に必要な細胞先導端のArp2/3複合体依存的なF-actin重合とフィロポディア形成が阻害され血管新生にブレーキがかかる、メカノセンシング・トランスダクション機構を明らかにした。今後、壁伸展リポーターマウスの樹立と解析、およびCIP4とTOCA1ノックアウトマウスの解析を進めていくことを通して、発生および虚血病態での意義とそれを標的とした治療法の開発に発展すると期待される。 | |||
松島 将士 アブストラクト 研究報告書 | 九州大学病院 循環器内科 | 心筋リモデリングにおけるミトコンドリア-小胞体接触の制御機構の解明と新たな心不全治療の開発 | 100 |
【背景・目的】 ミトコンドリアと小胞体は接着領域Mitochondria-associated ER membrane(MAM)を介してCa、ATP、脂質などの伝達を行うことで、オルガネラ機能、細胞機能を維持している。近年、MAMの形成不全は種々の疾患の発症において重要な役割を果たしていることが明らかとなってきた。本研究の目的は、『心不全の病態基盤である心筋リモデリングにおけるMAM形成の意義および分子基盤』を明らかにするとともに、『MAM制御という新たなパラダイムに基づく心不全治療法の開発』を目指すものである。 【結果】 心筋細胞肥大においてMAM形成が亢進しており、MAM形成因子である心筋特異的MitolノックアウトマウスにおいてMAM形成が低下し、心肥大が抑制された。この変化にはERKのリン酸化の抑制を伴っていた。 | |||
松本 泰治 アブストラクト 研究報告書 | 東北大学 循環器内科 | 心外膜・リンパ循環を基盤とする心血管病の病態解明と新たな低侵襲治療法の開発 | 100 |
我々は、冠動脈過収縮反応の病態形成においてVasa vasorum(VV)、リンパ管、脂肪組織を含む冠動脈外膜組織を中心とした炎症が深く関与していることを、ブタモデルを用いて報告した。また実臨床の冠攣縮性狭心症においても、冠動脈外膜におけるVVの増生、外膜における炎症が関与していることも報告した。十分な内服治療下でも症状が残存する難治性の冠攣縮狭心症が存在する一方で、冠動脈外膜への安全かつ有効である直接的な介入方法はなく、新たな低侵襲治療の開発が必要とされている。我々は、低出力パルス波超音波(LIPUS)を用いた研究を進めており、本研究では冠攣縮のブタ動物モデルにおいて検討を行い、有効性を示した。 | |||
柳沢 裕美 アブストラクト 研究報告書 | 筑波大学 生存ダイナミクス研究センター | ラマン分光イメージング法を用いた切迫大動脈瘤の時空間的解析と破裂予測 | 100 |
大動脈瘤破裂は急速に進行し生命を著しく脅かす疾患である。発症前の自覚症状に乏しく、大動脈解離を含む破裂の病院死亡率は10−20%に達する。しかし、発症前の自覚症状に乏しく、発症時期を的確に予測する技術や血清マーカーがない。また、大動脈瘤や解離の発症機序に基づいた治療法も未だに確立されていない。MRIやエコー、CTなどの画像診断は瘤の成長をモニターし手術適応の有無を判断するために有用だが、画像診断から得られた大動脈瘤の外径が破裂予測域に入っていなくても、解離や破裂を起こす例が多数報告されている。従って、発症時期を的確に予測する技術を確立することが喫緊の課題である。本研究では、ヒト応用への前段階として、上行大動脈瘤モデルマウスを用いて大動脈破裂を誘導する条件を確立し、切迫破裂の血管壁の性状を可視化・解析することを目的として、ラベルフリーラマン分光法による大動脈瘤破裂予測診断法の基盤を確立した。 | |||
山本 健 アブストラクト 研究報告書 | 山口大学大学院医学系研究科 保健学専攻 病態検査学 | リアノジン受容体結合カルモジュリン制御による新しい肺高血圧治療 | 100 |
心筋筋小胞体Ca2+放出チャネルであるリアノジン受容体(RyR2)の修飾蛋白:カルモジュリンのRyR2への結合を薬理学的に強固にすることにより、RyR2の4量体構造を安定化させてCa2+漏出を阻止すれば、右室肥大から右心不全への進展を抑制し、また致死的な不整脈をも抑制しうるという仮説たてた。 モノクロタリン(MCT)にてPAHモデルを作成し、ダントロレン(DAN)慢性投与の効果を検証した。MCT群において42日間で8割近くが死亡した。一方、DAN投与群では右室の肥大・拡大は抑制され、死亡率も著明に低下した。 純粋に右室の圧負荷が右室肥大・拡大、生命予後に及ぼす影響と、RyR2からのCaM解離→Ca2+漏出抑制のrescue効果を評価する目的で、肺動脈縮窄(PAB)モデルを作成した。右室収縮期圧はDAN慢性投与の有無に関わらずPABにより同程度まで上昇していたが、DAN慢性投与により右室の肥大・拡大は抑制され、右室心筋細胞サイズも縮小した。 | |||
渡邉 昌也 アブストラクト 研究報告書 | 北海道大学病院 循環器内科 | 光遺伝学を用いた心室細動誘発におけるプルキンエ線維網‐心筋接合部の役割の解明 | 100 |
背景:プルキンエ線維(PF)と心室筋との接合部(PMJ)は、リエントリーを機序とする不整脈の基質となる。本研究では、チャネルロドプシン2(ChR2)をPFに発現するトランスジェニック(Tg)マウスの還流心を用い、光駆動型電流による伝導ブロックがPMJリエントリーを抑制し心室細動(VF)の誘発性を低下させるかを検証する。 方法:PF選択的にChR2を発現するTgマウスを作製する。光ペーシング、光照射がVFへ与える影響について電気生理的解析を行った。 結果:心腔内に挿入したLED光源から刺激を行い、刺激伝導系を補足した伝搬であることを心電図波形、光学マッピングにて確認した。長時間照射を行い、PFの伝導ブロックを試みたが、伝導ブロックは確認できなかった。 考察:現在、過分極を生じさせるChR、アーチロドプシンを発現するTgマウスを作成しており、伝導ブロックが誘発されることを確認した後、心室細動中の不整脈停止効果の検討を行う予定である。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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別府 幹也 アブストラクト 研究報告書 | 兵庫医科大学大学院医学系研究科 脳神経外科 | ヒト脳梗塞巣から脳傷害時にのみ誘導される幹細胞(injury-induced multipotent stem cells: iSCs)とMesenchymal stem cells(MSCs)の特性比較 | 100 |
【目的】 ヒト脳梗塞巣から、自己複製能かつ多分化能を持ち、神経に分化し得る傷害誘導性幹細胞 (iSCs)と間葉系幹細胞 (MSCs)との相違に関して、詳細な検討はない。今回、MSCsとの異同に関して、特に神経分化・再生能に着目して比較する。 【対象・方法】 ヒトの脳梗塞巣から採取したiSCsとヒトの骨髄由来MSCsを対象とする。 1)大脳iSCsの単離を行う 2)中胚葉系細胞、神経分化に着目して比較を行う。 【結果】 1)増殖能及び、幹細胞能はiSCsが優れていた。 2)中胚葉への分化能は、MSCsが優れていた。 3)神経系への分化能はiSCsが優れており、電気生理学的に機能的な神経に分化した。 【考察】 MSCsは存在する部位により特性が異なり、個々の特性を解明する必要はあるが、iSCsの由来と考えているペリサイトは、neural crest起源と言われていることから考えると、神経分化能が優れていた結果は矛盾しない。以上より、iSCsは、MSCsよりも優れた細胞ソースとなり得る。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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安西 淳 アブストラクト 研究報告書 | 慶應義塾大学医学部 循環器内科 | 骨髄造血幹細胞に着目した動脈硬化の残余危険因子の探索 | 100 |
近年、骨髄異形成症候群や急性白血病の原因遺伝子の変異が、明らかな血液がんを罹患していない、従来健常者と考えられていた集団にも見られ、その頻度が加齢とともに増加することが報告された(NEJM 2014, NEJM 2017)。それら変異を一つでも持つ者は、変異を持っていない者に比べて、総死亡率が有意に高く、血液がんの罹患率は予想通り高いものの、その死因の多くは血液がんではなく、心筋梗塞・脳梗塞に代表される虚血性心血管疾患であった。この前がん状態をClonal Hematopoiesis of Indeterminate Potential (CHIP)と呼び、動脈硬化の新たな危険因子として最近注目を集めている。本研究では動脈硬化のモデルマウスを用いて、CHIPの原因遺伝子として最も頻度が高いと報告されているDnmt3aが動脈硬化進展に関与しているのか、また関与していればその機序は何なのかを明らかにしようと試みた。 | |||
伊藤 正道 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学医学部附属病院 循環器内科 | 疾患iPS細胞を用いたLMNA変異拡張型心筋症の治療薬候補化合物探索 | 100 |
難治性の心疾患である拡張型心筋症を対象とし、新規治療薬開発を目標として研究を行った。 先行研究で、LMNA変異を有するDCM患者が予後悪いこと、DNA損傷蓄積が心不全の機序の一つであり、その程度が高度なDCM患者ほど予後が悪いことを見出していた。また、LMNA変異DCM患者からiPS心筋細胞を樹立し解析したところ、対象株と比較してDNA損傷の蓄積が高度であった。これらの知見に基づき、LMNA変異DCM患者由来iPS心筋細胞を用い、心筋細胞のDNA損傷蓄積を軽減する化合物のスクリーニングを実施した。市販ライブラリーを用いた検討で、既知の核内受容体アゴニストXの有効性が確認された。 | |||
貞廣 威太郎 アブストラクト 研究報告書 | 筑波大学医学医療系 循環器内科 | 直接リプログラミングによる心臓中胚葉細胞誘導法の確立と心臓再生医療への応用 | 100 |
線維芽細胞に心筋特異的転写因子を導入し、心筋細胞を誘導する心筋直接リプログラミング法はiPS細胞を用いた心臓再生が抱える課題を解決するため開発された。しかし誘導された心筋細胞には増殖能がなく、心筋再生のためには十分な細胞数が得られない可能性がある。心臓中胚葉細胞は心臓全体の幹細胞であり、自己複製能を有する。本研究では、我々が発見した多能性幹細胞からの心臓中胚葉誘導因子Tbx6の知見を応用し、線維芽細胞から心臓中胚葉細胞を直接作製する、心臓中胚葉細胞直接リプログラミング法を開発する。 | |||
清水 峻志 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学アイソトープ総合センター | 加齢性心不全に特異的に発現している微小タンパク質の解明 | 100 |
加齢性心不全の分子病態において、疾患特異的なnon-coding RNA(ncRNA)が近年同定されているが、その作用機序には不明な点が多い。ncRNAとは普段タンパク質へ翻訳されずに機能するRNAの総称であるが、このようなncRNAの一部は、細胞ストレス下においてのみ、百アミノ酸前後から構成される微小タンパク質に翻訳されることが分かってきた(Cell, 2019)。そこで、本研究では、加齢性心不全モデルマウスにおけるncRNAのタンパク質翻訳機構及びその作用機序を解明することとした。 | |||
白川 公亮 アブストラクト 研究報告書 | 順天堂大学医学部 循環器内科 | オステオポンチン産生マクロファージを標的とした心不全治療法の開発 | 100 |
心筋梗塞後創傷治癒に必須の分子であるオステオポンチン(OPN)を産生する心臓マクロファージの分化成熟機序を解明することを目的とした。心筋梗塞後のOPN EGFPノックインレポーターマウスのOPN転写活性化は、ほぼ独占的にMerTK陽性Galectin-3陽性マクロファージで起こった。このマクロファージでは、STAT3とERK1/2の両方の強い活性化を示した。IL-10とM-CSFは、STAT3とERK1/2を相乗的に活性化し、骨髄由来マクロファージにおけるOPN産生マクロファージの分化を促進した。心筋梗塞後へのM-CSFの投与はOPN産生マクロファージを増加させ、創傷治癒を促進した。IL-10とM-CSFは相乗的に作用して心臓マクロファージのSTAT3とERKを活性化し、Galectin3とMerTKの発現を上昇させて、OPN産生マクロファージの機能的成熟につながることが明らかになった。 | |||
末冨 建 アブストラクト 研究報告書 | 山口大学 器官病態内科学 | 心筋細胞内の炎症発生源カルモジュリンキナーゼを標的とした新規心不全治療薬の開発 | 100 |
【背景】心不全の治療アプローチとしての慢性炎症の制御が再び注目されている。我々はこれまでの研究結果を発展させ細胞内カルシウム・カルモジュリンキナーゼII(CaMKII)由来のNLRP3インフラマソーム活性化が心不全をもたらす機序解明を目指している。 【研究経過】圧負荷開始前のCaMKIIδknockdownでは心筋組織線維化、左室拡大、左室収縮能低下の軽減効果が得られたが、圧負荷開始後のknockdownではいずれも有意な効果がなく、心筋細胞内CaMKIIδのみの抑制では心筋リモデリングの軽減に十分でないことが示唆された。非接触型共培養の所見から負荷心筋がマクロファージの活性化をもたらしていることが示唆された。遺伝的および薬理学的CaMKIIδ抑制マクロファージの反応から、マクロファージ内CaMKIIδの抑制により、その下流の炎症シグナルおよび線維化の抑制が予想され、慢性期リモデリング軽減が期待される。 | |||
橋本 寿之 アブストラクト 研究報告書 | 慶應義塾大学医学部 循環器内科・予防医療センター | エピゲノム解析と分化転換を利用した新たな心筋分化機構の解明 | 100 |
心疾患における致死的な不整脈は刺激伝導系特殊心筋細胞のような希少な細胞集団にも起源があるが、現状ではこれら特殊心筋を効率的に分化誘導する方法はなく、特殊心筋が心疾患の病態にどのように寄与するかは十分に解析できていない。 本研究では心筋リプログラミングと心臓発生過程のエピゲノムの共通点に着目し、心筋リプログラミング法を利用して心室刺激伝導系の特殊心筋細胞を誘導する新たな転写因子FOXL1を同定した。我々はマルチオミクス解析を用いてFOXL1が心筋リプログラミング中に心室刺激伝導系に関連した転写ネットワークを活性化することを明らかにした。 今後はFOXL1を利用して多能性幹細胞から特殊心筋細胞を効率的に分化誘導する技術の開発を目指す。そして最終的にはヒト細胞へと技術を応用することを目標としている。 | |||
村田 知弥 アブストラクト 研究報告書 | 筑波大学医学医療系 実験動物学研究室 | 拡張型心筋症の病態形成に関わる新規選択的スプライシング制御因子の同定と機能解析 | 100 |
心臓の選択的スプライシング異常は拡張型心筋症の病態進展に寄与する。我々は以前に、アルギニンメチル化酵素PRMT1が選択的スプライシングと拡張型心筋症に関与することを見出した。本研究では、心臓において選択的スプライシングを制御する新規RNA結合タンパク(RBP)の同定を目指し、ゲノム編集によりin vivoインタラクトーム解析を可能にするPRMT1-miniTurboノックインマウスの作製に成功した。また、培養細胞を用いたPRMT1インタラクトーム解析において見出していたPRMT1の新規基質RBPについて解析し、ANGEL2, BCLAF1, THRAP3が心臓に発現することを確認した。さらにPRMT1欠損によりBCLAF1と、3’スプラスサイトを認識するU2AF65との結合が減弱することが判明し、PRMT1-BCLAF1-U2AF65経路が心臓の選択的スプライシングを制御する可能性が示唆された。 | |||
山下 哲 研究報告書 | 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科 統合分子生理学分野 | 心房細動患者に対する光遺伝学を用いた新規治療法の開発 | 100 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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遠山 周吾 アブストラクト 研究報告書 | 慶應義塾大学医学部 循環器内科 | 代謝制御と力学刺激による成熟化ヒト心筋組織の作製と創薬への応用 | 100 |
ヒトiPS細胞は創薬スクリーニングにおける細胞源として期待されている。しかし、分化心筋細胞は胎児型の特徴を有しているため、表現型のばらつきに繋がり、創薬スクリーニングにおいては心毒性を正確に評価することができない。そこで、成熟化を促進させる手法の開発が求められていた。本研究では、成熟化を促進させる手法として培養環境および3次元心筋組織における力学刺激に着目し、両者を組み合わせることによりヒトiPS細胞由来の成熟心筋組織を作製し、創薬スクリーニングに応用することを目的として研究を行った。これまで構築してきた手法により高純度心室筋細胞を作製し、心筋スフェロイドおよびEngineered Heart Tissueを作製し、組織化に最適な培養条件および成熟度の評価を行った。その結果、心筋組織化に至適な培養条件を見出すことに成功した。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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(留学先) | |||
鎌倉 令 | 国立循環器病研究センター 心臓血管内科 不整脈科 | 心内膜・心外膜からの3次元マッピング手法を用いた特発性心室細動の不整脈基質の同定と、発生機序に基づいた予後指標と治療法に関する研究 | 500 |
CHU Hôpitaux de Bordeaux, France | |||
羽溪 健 | 京都大学iPS細胞研究所 増殖分化機構研究部門 | 患者由来ヒトiPS細胞を用いた化学療法誘発性心筋障害の機序解明 | 500 |
Stanford University, U.S.A. |