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精神薬療分野 「平成31年度」

平成31年度(第52回)
精神薬療分野 一般研究助成金受領者一覧
<交付件数:20件、助成額:2,000万円>

統合失調症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
紀本 創兵
アブストラクト
研究報告書
奈良県立医科大学 精神医学講座死後脳と神経培養の融合解析によるミトコンドリアを標的とした統合失調症の治療法創発1100
統合失調症の前頭前皮質において興奮性の錐体ニューロンの樹状突起スパイン密度の減少や、抑制性の介在ニューロンであるパルブアルブミン陽性ニューロン(PVニューロン)の発現低下が観察される。今回、ピッツバーグ大学精神医学部門から精神神経疾患の病歴がない対照例と統合失調症例から成るペアの死後脳組織の提供を受け、視空間情報の作業記憶のネットワークを構成する前頭前皮質に加えて、頭頂葉皮質、1次および2次視覚野において、興奮性-抑制性神経伝達の変化の鍵となる遺伝子の発現量をqPCR法により定量した。その結果、OXPHOS関連遺伝子の空間的発現パターンは対照例と比較して統合失調症で変化しており、TMEM59は前頭前皮質の第3層錐体ニューロンでのみ発現量が変化していた。本研究の成果は、大脳皮質における興奮性-抑制性神経伝達の変化が起こる成因を考えるうえで、極めて重要な知見をもたらすことが想定された。
高木 学
アブストラクト
研究報告書
岡山大学病院 精神科神経科自己抗体を通した精神疾患のディメンジョナルアプローチ1100
神経伝達物質受容体自己抗体の基礎的検討、臨床的検討を行い、精神疾患を神経伝達物質障害別に新分類するディメンジョナルアプローチを試みた。統合失調症、気分障害、てんかん患者122名で、非定型精神病の診断基準を満たす38名で、抗NMDAR抗体陽性は6名で、診断基準を満たさない場合は抗体陰性であった。緊張病症状(拒絶、わざとらしさ、興奮)、卵巣奇形腫、MRI異常所見、髄液細胞数増加、オリゴクローナルバンドが有意であった。ラット大脳皮質初代培養細胞で、抗NMDA受容体抗体は、神経突起形成、樹状突起分岐、中心体消失に影響した。自己免疫性脳炎は、適切に治療すれば予後の良い疾患であるが、治療の遅れは致死的となる。非定型精神病の診断基準を満たす場合、抗NMDAR抗体の陽性率が高いことから、積極的な髄液検査を行う指標となる可能性が示唆された。また、基礎的研究から、抗体陽性者に対し積極的に免疫療法を行う根拠を高めた。
疋田 貴俊
アブストラクト
研究報告書
大阪大学蛋白質研究所 高次脳機能学研究室統合失調症病態における側坐核-淡蒼球神経回路の役割解析1100
統合失調症患者の画像研究により、淡蒼球の左右差を伴う肥大が報告されている。しかしながら、淡蒼球の体積変化が、統合失調症病態にどのような意味を持つか明らかでない。われわれは側坐核の下流にある腹側淡蒼球に着目し、認知機能での役割を調べてきた。腹側淡蒼球は側坐核の直接路と間接路の両方の入力を受けるが、その情報統合機構は明らかになっていない。そこで側坐核の直接路から腹側淡蒼球に投射する回路に特異的な光遺伝学的操作を開発した。光遺伝学的に側坐核の直接路から腹側淡蒼球に投射する回路を抑制することにより有意にコカイン依存行動が減少した。これらの結果から、側坐核の直接路から腹側淡蒼球に投射する回路の活性化がコカイン依存行動に重要であることが示された。統合失調症において依存性薬物への感受性増強が報告されており、今後、モデルマウスの神経回路病態を明らかにすることによって、新しい治療法の開発につなげたい。
宮田 淳
アブストラクト
研究報告書
京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座 精神医学教室超高磁場MRIを用いた統合失調症の構造的・機能的結合性病態の解明1100
統合失調症は陽性症状、陰性症状、解体症状を呈する重篤な精神疾患であるが、いまだ原因は不明である。本研究では、7T MRI を撮像し、次世代拡散MRI撮像とエネルギー地形図解析により、統合失調症の結合性病態を、従来とは異なる次元で解明することを目指した。研究期間内に7T MRIデータを蓄積した。一方、上記の手法を既存の3T MRIデータに用いて、統合失調症においてSalienceに関わる脳状態の移行確率が健常者よりも高いこと、および統合失調症では白質のIntra-neurite成分が脳全体で減少していることを明らかにした。本研究により、統合失調症の構造的・機能的結合性病理を明らかにすることが出きた。上記の結果を洗練することにより、統合失調症の客観的なバイオマーカー開発を実現することが期待される。
向井 淳
アブストラクト
研究報告書
筑波大学プレシジョン・メディスン開発研究センター 神経・免疫分野統合失調症の認知機能障害に対する早期治療のための神経回路介入技術の研究開発1100
22q11.2欠失症候群は、染色体領域22q11.2のヘミ接合体欠失に起因する染色体異常症の1つで、その約30%が統合失調症を発症する。統合失調症を発症させる最短の欠失領域は1.5Mbの長さに27遺伝子を含む。この欠失とシンテニックなマウス16番染色体上の27遺伝子をヘミ接合体欠失させたマウスDf(16)A+/-は、軸索形態異常等の解剖学的接続性の異常と、海馬ー前頭前野間のシンクロニーの低下等の機能的接続性の異常により、患者と共通する認知機能障害の核である作業記憶の障害を持つ。これらの接続性の異常は、27遺伝子の1つZdhhc8のコピー数減少によるGsk3キナーゼの過剰活性化に起因し、Gsk3阻害剤を発達早期にDf(16)A+/-マウスへ投与すると、8週齢マウスの解剖学的機能的な接続性の増強と作業記憶の改善を示す。発達早期における介入可能な革新的治療薬・治療法の開発への展開をねらう。
森 大輔
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学 脳とこころの研究センター3q29欠失精神障害モデルマウスの表現型解析から発症に至る分子メカニズムの解明1100
研究代表者森は、統合失調症の最も高いリスク要因である3q29欠失のモデルマウスを作製した。そのモデルマウスの行動学的表現型、神経発達表現型、病理学的表現型解析を実施したところ、活動量解析、特に概日リズムの変調、神経細胞におけるアポトーシスの亢進といった表現型以上を見出すことができた。このモデルマウスは統合失調症モデルとして確立することができたことから今後は患者由来iPS細胞と並行して電気生理学的解析、RNA-seq解析等を進め、病態のメカニズムの解明から創薬を目指していく。

気分障害

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
池田 匡志
アブストラクト
研究報告書
藤田医科大学医学部 精神神経科学Psychosis(双極性障害+統合失調症)の包括的遺伝子解析1100
双極性障害と統合失調症は遺伝的共通性の存在が確認されており、サンプル数を増加させるためには「psychosis」として扱うことも一つのアイデアとなりうる。本研究では、日本人「psychosis」サンプルを対象に、Polygenic Risk Score (PRS)とcopy number variant (CNV)を融合させた解析を実施した。その結果、下位10%に位置するPRSを持つ「case」のサンプルの構成は、双極性障害36%、統合失調症が63%の割合であり、統合失調症が多い傾向にあった。また、これらサンプルは既知の有望なCNVを保有するサンプルが含まれていた。本結果から、候補となりうるゲノムワイド解析から検出されたCNVの優先順位をつけることは、追試するべきCNVを絞り込むことが可能となり、真のpathogenic CNV確定への近道となりうることが示唆される。
泉 剛
アブストラクト
研究報告書
北海道医療大学薬学部 薬理学講座
臨床薬理毒理学
うつ病の扁桃体におけるFKBP5の役割1100
本研究では、前回の本基金の研究で得られた「うつ病モデル動物(反復拘束ストレス負荷ラット)の扁桃体で グルココルチコイド受容体の阻害因子FKBP5 が増加し、これが SSRI の投与で正常化する。」という結果をさらに追求した。免疫染色による検討では、FKBP5はグルタミン酸作動性およびGABA作動性ニューロンの両方に発現しており、扁桃体内では中心核に強い発現が認められた。さらに、反復拘束ストレスにより、中心核でFKBP5陽性細胞数が増加する傾向が認められた。Western blottingによる検討では、反復拘束ストレスにより扁桃体でPI3K/Akt /mTOR経路(mTOR系)の構成分子であるAktの活性化が認められた。mTOR系は細胞の増殖や分化などを制御しているため、今回の所見は、うつ病における扁桃体過剰活性化や、慢性ストレスによる扁桃体のシナプス・リモデリングと関連する可能性がある。

加藤 隆弘
アブストラクト
研究報告書
九州大学 大学院医学研究院 精神病態医学気分障害の脳内動態を反映する神経グリア由来エクソソーム関連血中バイオマーカー開発2100
気分障害に関して臨床上有用な客観的バイオマーカーは未だほとんど開発されていない。研究代表者は血中バイオマーカー開発を進めており、血液メタボローム解析に加えて、末梢血中の神経由来エクソソーム関連蛋白をELISAで測定する方法を日米共同研究として開発している。この方法により、未服薬うつ病患者において神経由来IL-34がうつ病患者と健常者の判別に有用である可能性を萌芽的に見出している(Kuwano, Kato, Mitsuhashi et al. J Affect Disord 2018 Nov)。本研究では、従来から実施してきた血液メタボローム解析に加えて、神経由来およびグリア由来のエクソソーム関連蛋白をサンドイッチELISA法を用いて測定することで、脳内動態を反映する気分障害の血中バイオマーカーを開発を推進した。
㓛刀 浩
アブストラクト
研究報告書
国立精神・神経医療研究センター 
神経研究所 疾病研究第三部
脳脊髄液BDNFプロぺプタイド濃度を指標としたうつ病BDNF仮説の検討1100
脳由来神経栄養因子(BDNF)は精神疾患において重要な役割を果たすが、脳脊髄液中では検出困難である。われわれは、プロBDNFから成熟タンパクにプロセシングされる際に同量産生されるBDNFプロぺプチド(BDNFpp)は測定可能であり、うつ病患者で減少していることを報告た。今回、独立のサンプルで症例数を増やして検討した。対象は統合失調症52名、大うつ病44名、健常者31名であり、BDNFppをウエスタンブロッティングにより測定した。その結果、BDNFpp濃度は、健常者と比較して統合失調症群およびうつ病群で有意に減少していた (両者とも p<0.0001) 。なお、男性ではBDNFpp濃度が疾患群で有意に減少していたが、女性では有意差を認めなかった。本結果は精神疾患のBDNF仮説を支持するとともに、BDNFppは少量の脳脊髄液で測定可能であることからバイオマーカーとしての有用性が示唆された。
鈴木 正泰
アブストラクト
研究報告書
日本大学医学部 精神医学系睡眠脳波に基づいた抗うつ薬治療の最適化に関する研究2100
 睡眠脳波が抗うつ治療の反応性予測に利用可能であるかを検討した。31名の双極性うつ病患者を対象に1日おきに3回の全断眠を行う1週間の断眠療法プロトコルを実施した。治療前の睡眠脳波を携帯型睡眠脳波計を用いて記録し、睡眠脳波所見と断眠療法への反応性との関連を検討した。断眠療法に対して24名が反応(ハミルトンうつ病評価尺度にて50%以上の改善)した。反応群は非反応群と比較し、入眠潜時、REM睡眠が短かった。スペクトル解析では、反応群でREM睡眠中のβ波活動が低かった。断眠療法への反応者と非反応者では、治療前の睡眠脳波に違いがあったことから、睡眠脳波は本治療の反応性予測に利用できる可能性が示唆された。今後、抗うつ薬のクラス毎に反応しやすい患者の睡眠脳波所見を同定することができれば、初回治療寛解率の向上を目指した気分障害の個別化医療が実現する可能性がある。
竹林 実
アブストラクト
研究報告書
熊本大学大学院生命科学研究部
神経精神医学講座
うつ病のリゾリン脂質メディエーターを基盤とした創薬・バイオマーカー開発研究2100
うつ病は近年、脂質代謝や慢性炎症と強い関連性が指摘されている。炎症や情報伝達を担うリゾリン脂質のうち、リゾフォスファチジン酸(LPA)受容体1(LPAR1)に、既存の抗うつ薬がアゴニスト作用することを我々は見出した。本研究では、成体C57BL/6 LPAR1ヘテロノックアウトマウスを利用して、LPAR1遺伝子のマウス脳内分布や細胞腫ごとの発現パターンの検討を行った。LPAR1は脳梁、前交連などミエリン化している白質に豊富に存在し、多くはオリゴデンドロサイトであったが、LPAR1の20%以上は皮質や海馬などの灰白質のアストロサイトに存在した。血管内皮細胞にも存在し、神経とミクログリアには発現していなかった。うつ病患者のサンプルを用いた研究で、LPAR1シグナリングの低下が示唆されており、本研究はLPAR1の細胞腫ごとの脳内分布を明確に示した初めての報告であり、うつ病の創薬・バイオマーカー開発のための基盤研究として意義は高いと考えられる。
戸田 裕之
アブストラクト
研究報告書
防衛医科大学校 精神科学講座虐待的養育環境の気分障害を引き起こす病態の解明1100
虐待的養育環境 (ELS) がHPA系の調節因子であるFkbp5の転写に影響を与えているとの仮説をたてて、ChIP assayを実施した。また、ELSがマイクログリアの発現量や活性化に影響を与えるかについて検証した。ELSのモデルとして9週齢の母子分離ストレス (MS) ラットを用いた。Open field testにおける総移移動距離、中央滞在時間、Tail suspension testにおける無動時間にMSの効果はなかった。IBA1はMS群で増加していたが、GFAPでは差がなかった。PBRの発現に両群間での差は認めなかった。ChIP assyでは、Fkbp5、Per1、Sgk1の遺伝子のGREs領域のGRとの結合度は拘束ストレスによる経時的な変化を認めたが、MSの効果は認めなかった。マイクログリアにはFkbp5が豊富に発現していることがしられており、Fkbp5はマイクログリアの変化を介してシナプス可塑性に関与している可能性が示唆される。
山形 弘隆
アブストラクト
研究報告書
山口大学医学部附属病院 精神科神経科うつ病診断のための血漿糖鎖バイオマーカーの探索2100
うつ病の診断は症状の組み合わせから判断する操作的診断法しかない。そのため、客観的で簡便なバイオマーカーの発見が切に望まれている。本研究では、血漿中のうつ病診断につながる糖タンパク質を同定することを目的とした。レクチンを用いて、血漿タンパク質のプルダウンアッセイを行ったところ、あるタンパク質がうつ病患者に特異的に変化しており、うつ病診断マーカーとして有用な可能性がある。今後は抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法やELISAを用いた定量解析方法を構築し、より多くの患者サンプルを用いて、同定した糖タンパク質の変化を確かめる予定である

脳器質疾患・認知症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
伊東 大介
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部 神経内科IgLON5を標的としたアルツハイマー病の治療戦略1100
近年、認知機能、運動障害を伴う脳症で細胞接着分子IgLON5に対する自己抗体が同定され新しい疾患概念(抗IgLON5抗体脳症)が確立した. 本疾患は視床下部や脳幹にタウ蓄積を認めることからIgLON5に対する自己免疫がタウ凝集を誘導していると考えられている. 本研究では、IgLON5ノックアウト(KO)マウスを作成し、IgLON5とタウ蓄積の関連を明らかにしタウ凝集阻害の治療戦略確立を目指す.
IgLON5 KOマウスは、ゲノム編集を用いて確立、計画繁殖を行った. すでに、KO、野生型マウス各60匹を得ており、生化学的サンプリングをすすめている. 現時点では、IgLON5欠損による明らかな表現型は観察されていない. 今後、詳細なRNA-Seq解析(トランスクリプト―ム解析)、運動解析、睡眠覚醒状態、P301S tau tgマウスとの交配による表現型の変化を解析する.
甲斐田 大輔
アブストラクト
研究報告書
富山大学学術研究部医学系 遺伝子発現制御学講座ユビキチンープロテアソーム活性化剤を用いた新規認知症治療法の開発1100
ユビキチン-プロテアソーム系(UPS)は、細胞内の異常タンパク質などを分解する機構である。UPSの活性は加齢とともに低下し、その結果、細胞内に異常タンパク質が蓄積し、アルツハイマー病をはじめとした老化関連疾患を引き起こす。したがって、UPSを活性化させる化合物は、老化関連疾患の治療薬となる可能性を秘めている。我々の先行研究から、化合物AがUPSによるタンパク質分解を活性化することが明らかとなった。本研究では、化合物AがUPSによるタンパク質分解を促進する詳細な分子機構を明らかにした。今回の結果は、化合物Aは26Sプロテアソーム によるユビキチン化依存的なタンパク質分解を促進していることを強く示唆している。したがって、機能を失うなどした不必要なタンパク質を分解することを促進していると考えられ、必要なタンパク質を分解することによる細胞機能の異常や、それに伴う副作用は観察されづらいと考えられる。


田上 真次
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科 
精神医学教室
γセクレターゼ活性新指標を用いたアルツハイマー病根本治療薬の開発2100
アミロイドPETなどを用いた研究により、アルツハイマー病(AD)を発症する10年以上前から脳内にAβ42が蓄積し始めることがわかってきた。現在進行中の治験ではアミロイドPET陽性かつ認知機能の低下が顕在化していない個体を対象に、抗Aβ抗体やBACE阻害剤などAβをターゲットとした介入がなされている。これらが臨床応用されれば、高齢者を対象として長期間の投与となるため、その安全性を担保する必要性がある。抗Aβ抗体の主たる副作用は脳浮腫や脳微小血管出血であり、これを防ぐべく投与中に定期的に頭部MRI検査がなされている。一方でγセクレターゼ阻害剤の全てとBACE阻害剤の多くが治験途中で中止となっている。十分な効果が得られなかっただけではなく、一部の薬剤は認知機能を逆に低下させる結果となった。その原因は不明であったが、我々はγセクレターゼ活性の新指標を開発しこれを利用することで原因究明を目指した。
寺尾 岳
アブストラクト
研究報告書
大分大学医学部 精神神経医学講座微量なリチウムの認知症予防効果を疫学研究や臨床研究から探る2100
今回の研究は、1) 日本全国を対象とした疫学研究において、「水道水リチウム濃度と認知症の有病率は有意な負の相関をとる」という仮説を設定し、これを検証することと、2) 臨床研究として、リチウムを服薬していない認知症患者と性や年齢をマッチさせた非認知症患者を対象に、「認知症患者群は非認知症群(対照群)と比較して有意に低い血中リチウム濃度を有する」という仮説を設定し、これを検証することから構成される。疫学研究においては、水道水リチウム濃度の七分位は認知症のSMRと有意な負の相関を示し、臨床研究では認知症の有無もMMSE得点も血中リチウム濃度と相関しなかった。後者の理由として、おそらく患者の異種性が大きく、症例数が不足していることが考えられる。引き続き、症例を蓄積する予定である。

発達障害

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
松﨑 秀夫
アブストラクト
研究報告書
福井大学子どものこころの発達研究センターシナプス膜移行異常モデルを用いた新規自閉症治療標的の検討1100
我々はN-ethylmaleimide-sensitive fusion protein(NSF)の機能異常が自閉症の病態に関わる可能性をつきとめ,独自に開発したNSFヘテロノックアウトマウス(NSF-hKO)に自閉症様行動異常が現れることを発見した。本研究では、近年報告されたAMPA型グルタミン酸受容体(AMPA-R)のシナプス膜移行を促す化合物edonerpic maleateと運動負荷をNSF-hKOに与え、マウスに現れる自閉症様の表現型が修復できるか否かを検証した。しかし、NSF-hKOの海馬には細胞膜上のAMPA-R発現で野生型と有意差がないと判明し、その後に皮質でも同じ傾向が確認されたため、edonerpic maleateの投与実験は見送られた。今後は、Ampakine(CX516、CX546)と運動負荷がマウスの表現型を修復するかについて検討する。
守村 直子
アブストラクト
研究報告書
滋賀医科大学 生理学講座
統合臓器生理学部門
シナプス接着分子を介する学習障害(LD)の分子神経基盤1100
読み・書き・計算、推論などに支障をきたす学習障害(LD)は、病因研究や治療介入に繋がる知見が少ない発達障害である。興奮性シナプスの発達に関わる接着分子LRFN2は、遺伝子欠損マウスにおいて記憶・学習や社会行動異常、情報処理能低下を呈し、学習障害家系からLRFN2遺伝子座欠失が発見された。しかしながら、マウス−ヒト間の脳構造および高次脳機能の進化的な差が障壁となり、発症メカニズムの解明や創薬・治療法開発を難しくしている。本研究では、ヒト脳に近いカニクイザルを対象にしたLRFN2を介する学習障害発症のメカニズム解明と創薬・治療法の開発を目指すため、LRFN2遺伝子改変サルの作出および個体レベルの解析を目指した。トランスジェニック作製のためのウイルスベクターはサル受精卵への感染が確認され、また各成長段階のサル固定脳のMR条件が確立したことで、発達障害のトランスレーショナルリサーチになり得る可能性が示された。
*応募区分1:精神疾患の病因、病態に関連する研究(遺伝子研究を含む)
*応募区分2:精神疾患の症状、診断、治療に関連する研究(症例研究や疫学研究を含む)

平成31年度(第13回)
精神薬療分野 若手研究者助成金受領者一覧
<交付件数:10件、助成額:1,000万円>

統合失調症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
塩飽 裕紀
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学大学院 精神行動医科学分野統合失調症の自己抗体病態の解明1100
統合失調症は、GWAS解析が精力的に行われ、その中でも最も高い遺伝リスク領域としてHLA領域が繰り返し指摘されてきた。同様に自己免疫と統合失調症の疫学的な関連も古くから指摘されてきたが、その病態の本態は不明であった。本研究は、神経細胞分子に着目し、「統合失調症でも未知の自己抗体が存在し、統合失調症の病態を形成する」という仮説を解析することが目的である。統合失調症120名中5名にGABAAalpha1に対する自己抗体があることを発見した(Shiwaku et al. 2020)。、新規の自己抗体を4つ発見した。患者から精製したIgGを投与したモデルマウスで分子レベル・シナプス形態レベル・行動レベルで統合失調症様の表現型が得られることを確認した。これらの自己抗体は統合失調症のサブタイプのマーカーとして機能し、これらの自己抗体をターゲットとした免疫学的な介入が新たな治療戦略になる可能性がある。
鳥海 和也
アブストラクト
研究報告書
東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野 統合失調症プロジェクト統合失調症発症に関連する糖化エピジェネティクス機構の解明1100
酸化ストレス下で生じる有害な反応性カルボニル化合物はヒストンやDNAを修飾し、遺伝子発現に影響を与える。しかし、この糖化による遺伝子発現の制御と精神行動や精神疾患との関連について検討した前例はない。本課題では、統合失調症患者で認められたGLO1機能欠損変異及びVB6欠乏をかけ合わせたモデルマウスを用い、糖化ストレスが遺伝子発現変化を通して精神行動に与える影響について明らかにすることを目的とした。解析の結果、この糖化ストレスマウスモデルにおいては、反応性カルボニル化合物のひとつであるメチルグリオキサールが脳内で蓄積し、プレパルスインヒビション障害などの行動異常が認められた。さらに、網羅的な脳内遺伝子発現解析により前頭皮質におけるミトコンドリア関連遺伝子の発現異常が明らかとなり、実際にミトコンドリアを単離し機能活性測定を行ったところ、顕著なエネルギー代謝障害が認められた。

気分障害

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
衣斐 大祐
アブストラクト
研究報告書
名城大学薬学部 薬品作用学研究室セロトニン5-HT2A受容体を介した抗うつ作用に関わる神経回路と抗うつ分子の探索2100
最近、セロトニン5-HT2A受容体(5-HT2A)刺激薬が難治性うつ病に対し、治療効果を示すことが報告された。我々は5-HT2A刺激による抗うつ作用に関する神経基盤を調べた。マウスにDOIなど5-HT2A刺激薬を投与し、抗うつ行動を調べるために強制水泳試験(FST)を行ったところ、抗うつ作用が認められた。次に抗うつ作用関連脳領域を調べるために神経活性マーカーc-Fosの発現を調べたところ、5-HT2A刺激薬は、外側中隔核(LS)のc-Fos陽性細胞数を有意に増加した。またLSのc-Fosは5-HT2A陽性GABA神経に発現していた。そこでLSの5-HT2Aをノックダウンしたところ、DOIによる抗うつ効果は認められなかった。さらにDOI投与は、うつ病モデルマウスで認められるうつ様行動を改善した。以上からLSのGABA神経上の5-HT2Aの刺激は、抗うつ作用を誘導することが考えられる。
河合 喬文
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科 統合生理学教室ミクログリアに着目した加齢依存的な不安障害の発症メカニズム1100
酸化ストレスは、古くから不安障害に寄与することが明らかにされている。酸化ストレスの要因となるミクログリアは、加齢と共にその性質を大きく変えるため、加齢に伴う不安障害と深く関わる可能性がある。これまでに申請者は、ミクログリア特異的な活性酸素制御因子Hv1を欠損することで、加齢によって生じる不安障害が軽減することを見出していた。本研究ではこの機構に焦点を当てることで、酸化ストレスと不安障害の関連性、及びその老化との関連性について明らかにすることを目的とし解析を進めた。その結果、(1) Hv1欠損により特定の脳部位(大脳皮質)が加齢依存的に軽度の酸化ストレスに晒されること、(2) それに伴い、不安障害に関わる遺伝子発現に変化認められること、(3) 遺伝子発現レベルでは老化に遅れが生じていること、が明らかとなった。
出山 諭司
アブストラクト
研究報告書
金沢大学医薬保健研究域薬学系 薬理学研究室ケタミンの即効性抗うつ作用におけるTRPCチャネルの役割解明と創薬応用2100
NMDA受容体拮抗薬ケタミンの即効性抗うつ作用には、内側前頭前野(mPFC)におけるBDNFおよびVEGFの遊離亢進が重要であることが知られている。一方、BDNF、VEGF受容体の下流では、非選択的カチオンチャネルTRPC3、TRPC6が活性化されることが報告されている。本研究ではこの点に着目し、ケタミンの抗うつ作用にmPFC内TRPC3、TRPC6活性化が関与することを明らかにした。また、TRPC3/TRPC6活性化薬がmPFC内カルシニューリンおよびMEK-ERK活性化を介して抗うつ作用を示すことを見出した。さらに、抗マラリア薬アルテミシニンが、mPFC内TRPC3活性化を介して抗うつ作用を示すことを発見した。本研究の成果から、アルテミシニンのリポジショニングが、新規即効性抗うつ薬開発の近道になると期待される。
永安 一樹
アブストラクト
研究報告書
京都大学大学院薬学研究科 生体機能解析学分野持続的な抗うつ作用をもたらす創薬標的の導出1100
うつ病などの精神疾患は、疾患負荷の大きな割合を占める重大な社会問題である。本研究では、申請者が開発したセロトニン神経特異的ウイルスベクターを用いて、抗うつ薬様作用を司るセロトニン神経回路を同定するとともに、同定した抗うつセロトニン神経回路に特異的に発現する受容体を同定し、画期的抗うつ薬の創製に資する知見を得る。検討の結果、腹側被蓋野(VTA)に投射するセロトニン神経の刺激が抗うつ作用に重要であること、VTA投射セロトニン神経が背側縫線核の腹側部に多く存在することを見出した。また、このセロトニン神経の遺伝子発現変化を、抗うつ薬慢性投与マウスおよび社会的敗北ストレス負荷マウスで調べたところ、有意な発現変化を示す遺伝子の同定に成功した。その一つであるS100a10遺伝子をノックダウンしたところ、抗うつ効果が引き起こされた。
山西 恭輔
アブストラクト
研究報告書
兵庫医科大学 精神神経免疫学講座・精神科神経科学講座IL-18を中心とした脳内炎症とうつ病の病態解明と治療法開発1100
本研究は、脳内炎症を含めたストレス暴露下におけるIL-18の中枢神経細胞の保護・維持機能の検討、さらには最終目的である脳内炎症と気分障害を中心とした精神障害の生物学的な関連性を明らかにすると共に、IL-18のうつ病への治療応用の可能性を模索することを目的とする。In vitroの実験として、Sh-sy5yを用いて検証した。野生型マウス、及びIL-18欠損マウスに6時間の急性ストレス処置(拘束処置)を付与した。Sh-sy5yにおけるIL-18、受容体の発現を確認した。IL-18はいずれも生存能への影響は確認されなかった。ストレス負荷としてグルタミン酸を投与し濃度依存的に細胞障害が見られた。尾懸垂試験では2分後にIL-18欠損マウスでの低下が、オープンフィールド試験では活動量の低下が確認された。中枢神経細胞においてIL-18が何らかの役割を担っている可能性が示唆された。

脳器質疾患・認知症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
間野 達雄
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院 脳神経内科アルツハイマー病における活動依存性DNA2重鎖切断とその代償機構の解明1100
アルツハイマー病における病態の一つとして,DNA傷害の役割と検討した.また,DNA傷害および修復過程におけるゲノム構造の変化を明らかにすることを目的として,アルツハイマー病の剖検脳を用いて,神経細胞特異的なヒストン修飾解析を併せて行った.アルツハイマー病におけるヒストン修飾の異常,ゲノム高次構造の変化を明らかにするとともに,生理的な活動条件かにおける神経細胞のゲノム修飾の変化を見出すことができた.

発達障害

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
臼井 紀好
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科 神経細胞生物学講座自閉スペクトラム症の新規診断法の開発2100
これまで自閉スペクトラム症には信頼できるバイオマーカーが存在せず、早期発見・診断は困難であった。本研究では血液中の微量元素に着目することで自閉スペクトラム症の早期診断法を確立することを目的とした。poly(I:C)投与によって作製した生後7日齢のASDモデルマウスから採血を行い、血中の微量元素を誘導結合プラズマ質量分析法で測定した。ヒト検体を用いた解析では、コントロール群59検体、ASD群256検体を用い、血中の微量元素をICP-MSを用いて測定した。動物実験では約96%の精度でASDモデルマウスを判別でき、ヒト検体では約90%の精度でASD群を判別した。今後は解析検体を増やすことで診断精度の向上を目指し、ASDの特性との相関を明らかにしていく予定である。
田辺 章悟
アブストラクト
研究報告書
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 神経薬理研究部脳内免疫システムによるシナプス形成機構とその破綻1100
近年の遺伝子多型の解析により、脳発達障害の発症には免疫関連分子が関係していることが明らかになってきた。脳内に存在する免疫系細胞は、種々のサイトカインなどを産生して様々な形で脳内の神経回路の形成を制御することが明らかになっているが、脳発達障害への関与はほとんど解明されていない。本研究では、神経回路が盛んに形成される幼年期を対象に、脳内免疫システムの破綻が神経回路の形成に影響するのかを解析した。幼年期のマウスに髄膜炎を引き起こすと、不安様行動や認知機能に変化は認められなかったが、多動行動や注意力の低下が見られた。さらに、孤束核や背側線条体の神経が過剰に活性化していることを明らかにした。幼年期の髄膜炎により孤束核や背側線条体へ投射する神経のシナプス形成に異常が生じている可能性が示唆される。
*応募区分1:精神疾患の病因、病態に関連する研究(遺伝子研究を含む)
*応募区分2:精神疾患の症状、診断、治療に関連する研究(症例研究や疫学研究を含む)

平成31年度
精神薬療分野 若手研究者継続助成金受領者
<交付件数:1件、助成額:100万円>

脳器質疾患・認知症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
森 康治
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科 精神医学C9orf72変異型FTDにおける病原性リピートRNA代謝障害のメカニズム1100
我々はC9orf72遺伝子イントロン領域に由来するGGGGCCリピートRNAが、非定型的な翻訳を受けFTDの鍵分子であるジペプチドリピートタンパク(DPR)となって患者脳に蓄積することを見出した。本研究では病原性リピートRNAの蓄積機序の詳細を明らかにし、RNA代謝に着目したFTDの新規治療法開発を目指す。
*応募区分1:精神疾患の病因、病態に関連する研究(遺伝子研究を含む)
*応募区分2:精神疾患の症状、診断、治療に関連する研究(症例研究や疫学研究を含む)

平成31年度(第23回)
精神薬療分野 海外留学助成金受領者一覧
<交付件数:2件、助成額:1,000万円>

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
(留学先)
有馬 陽介島根大学医学部 解剖学講座 神経科学ニコチンの新規報酬系回路とオレキシンによる制御の解析500
National Institute on Drug Abuse, U.S.A.
内田 貴仁慶應義塾大学医学部 精神・神経科学教室超治療抵抗性統合失調症の神経基盤解明500
Melbourne Neuropsychiatry Centre, Department of Psychiatry, The University of Melbourne, Australia
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