財団法人精神神経系薬物治療研究基金(薬療基金)が当時の吉富製薬からの寄付により昭和43年(1968年)に設立され、それ以来研究助成の成果報告の場として、この研究報告会が毎年開催されてきました。歴史が積み重なり、今回で45回目という節目を迎えたことを記念して、少し趣を変えた研究報告会が企画されました。一つは、被災地支援研究助成受領者による中間報告です。平成23年3月11日の東日本大震災で大きな被害を受けた被災地の研究施設を対象にして、当財団は平成23及び24年度に「被災地支援研究助成」を実施しました。精神薬療分野については平成23年度に2年計画の研究テーマを3件採択しており、今回それぞれのテーマの中間報告をしていただきました。もう一つは、CINPやWFSBPなどの国際的な学会の会長を歴任された、ミュンヘン大学精神科教授のHans-Jürgen Möller先生の特別講演です。これらの企画は当財団の理事である、東北福祉大学特任教授・佐藤光源先生、大阪大学医学部教授・武田雅俊先生を初めとする役員等の先生方のご尽力があって実現したものです。
研究報告会は平成24年12月15日(土)に大阪国際会議場で開催されました。
研究成果を発表される前年度の研究助成を受領された先生方、共同研究者、当財団の役員等並びに全国大学の精神科領域の先生方など、例年よりも多くの参加者をお迎えしました。
佐藤光源先生に開会のご挨拶の後、座長を務めていただき、被災地支援研究助成の中間報告が3題口演発表されました。福島県立医科大学から1題、東北大学医学部から2題の報告でした。震災後の精神疾患の発生動向、治療状況、今後のための提案などが報告されましたが、病院等に準備されていた自然災害時に対応する指針・設備などが今回の未曾有の災害に対しては効果が限定的で、見直さざるを得ない状況であることが明らかになりました。
開会のご挨拶・佐藤光源先生 | 口演の座長・尾崎紀夫先生 |
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萌芽研究助成の受領者5名による口演発表では、名古屋大学医学部教授・尾崎紀夫先生に座長を務めていただきました。「精神疾患や認知症に関連する遺伝子研究」及び「免疫学的な観点からのうつ病の病態解明」に取り組んだ基礎的な研究が4題、「自閉症スペクトラム障害者の新規治療法」に関する臨床研究が1題という内容でした。若い研究者の研究に対する熱意が伝わる口演でした。
口演の会場 | 特別講演の演者:Möller先生 |
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特別講演の座長:武田雅俊先生 | 特別講演:質疑応答 |
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前年度の萌芽研究及び一般研究助成受領者による29題のポスター発表が、テーマ別の5パートに分かれて行われました。群馬大学医学部教授・三國雅彦先生、鹿児島大学医学部教授・佐野 輝先生、国立精神・神経医療研究センター部長・㓛刀 浩先生、東京医科歯科大学医学部教授・西川 徹先生及び和歌山県立医科大学医学部教授・篠崎和弘先生に座長を務めていただきました。「喫煙、薬物、アルコールなどの病態や行動への影響」、「抗精神病薬の作用や副反応の解析」、「精神疾患と遺伝子の関係」、「バイオマーカーの探索」、「統合失調症患者由来iPS細胞の樹立と性状解析」など、各種精神疾患について基礎から臨床まで幅広いテーマが取り上げられ、また、新しい観点からの研究も始まっています。
最後に、ミュンヘン大学精神科教授・Hans-Jürgen Möller先生から「Current aspects of the neurobiological etiopathogenesis of schizophrenia and their relevance for drug therapy of schizophrenia」と題する特別講演を拝聴しました。座長は武田雅俊先生にお願いしました。100年前のクレペリン先生によるミュンヘン大学精神科の創設の歴史に始まり、統合失調症の薬物治療、神経ネットワーク機能との関係、遺伝的背景、トランスミッター及び免疫学的な側面から、その歴史、現状及び今後に亘り、幅広く解説していただきました。