研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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稲垣 健志 アブストラクト 研究報告書 | 自治医科大学医学部 解剖学講座 法医学部門 | 脳細動脈硬化における血管線維化機構と脳血管周囲マクロファージの役割の解明 | 100 |
脳卒中の病態には脳細動脈硬化など血管の構造変化(血管リモデリング)が重要である。申請者は高血圧ラットを用いた研究から、脳細動脈硬化の進行過程で脳細動脈周囲にI型コラーゲンの増生が起こること、このI型コラーゲン線維は脳血管周囲マクロファージ(PVMs; perivascular macrophages)周囲に多数認められ、脳細血管周囲のI型コラーゲン産生細胞の多くがPVMであることを見出した。本研究は線維性コラーゲン代謝を端緒として脳血管リモデリングの全容解明を目的に、正常血圧ラットの加齢に伴う脳細動脈の血管線維化とPVMに関する超微細形態学的研究を行った。PVMは加齢の条件下で脳細動脈周囲におけるコラーゲン線維の増生と関連し、またPVMはライソゾームの著明な空砲化により細胞が肥大し、老化によって引き起こされる脳細動脈硬化性変化に関与していると考えられた。 | |||
古賀 政利 アブストラクト 研究報告書 | 国立循環器病研究センター 脳血管内科 脳神経内科 | 頭蓋内動脈解離の疾患関連遺伝子の探求 | 100 |
本研究では、若年性脳卒中の主要な原因である頭蓋内脳動脈解離の遺伝的基盤を解明することを目的とする。単施設観察により、既に100例のGWASを実施し、更に100例を予定。初期データでは、120例のジェノタイプ情報から、前方循環系と後方循環系の解離に関連するヴァリアントの差異が示唆された。結果は統計的検出力が低いが、頭蓋内動脈解離への個別化医療や新治療開発への貢献が期待される。 | |||
宮脇 哲 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学医学部 脳神経外科 | Long read sequencingによるもやもや病の新規遺伝子異常の同定 | 100 |
もやもや病はその疾患感受性遺伝子として RNF213 遺伝子が特定され、この遺伝子上のミスセンス変異 p.Arg4810Lys がもやもや病の発症と関連していることが明らかとなっているが、この変異単独では発病を説明できていない。本研究では、long read sequencing を用いて、もやもや病の新規の疾患遺伝子構造異常を同定し発症メカニズムを解明することを目指した。48検体分のlong read sequencingのデータの解析の結果、もやもや病患者の中でも症例によって長さのばらつきがある繰り返し配列をRNF213内に認める他、健常人との比較でも長さの異なる繰り返し配列を認めている。今後さらに症例数を増やし、健常人と比較してもやもや病に特異的な構造異常や、もやもや病症例の中でも臨床表現型の差異に影響しているような構造異常を同定することを目指している。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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安西 淳 アブストラクト 研究報告書 | 慶應義塾大学医学部 循環器内科 | 心筋梗塞後の炎症・修復を制御する新規分子機序の解明 | 100 |
急性心筋梗塞に対する再灌流療法の発達は、急性期死亡率を劇的に低下させたが、重症例の救命によって慢性心不全の有病率をむしろ増加させるというパラドックスを生んだ。MI後組織修復の過程には免疫応答の賦活化とそれに付随した炎症反応が不可欠であるが、これらが一度過剰になるとかえって組織障害を進展させ、梗塞後心不全を増悪させてしまう。近年、CANTOS試験(NEJM 2017)など、動脈硬化の二次予防に抗炎症作用を持つ薬剤が有効であることが実臨床でも明らかとなりつつあるが、MI後に免疫応答や炎症反応が過剰となる機序は未だ不明である。本研究では心臓線維芽細胞由来Sipa1を中心とした新たな炎症分子カスケードを明らかとし、梗塞後心不全予防のための創薬基盤を構築する。 | |||
岡本 洋介 アブストラクト 研究報告書 | 秋田大学大学院医学系研究科 細胞生理学講座 | リークカリウムチャネルによる細胞骨格依存的な心房性不整脈の制御機構 | 100 |
心房細動は日本で最も頻度が高い心房性不整脈であり、170万人以上罹患者がいる。現行治療法である肺静脈アブレーションは発作性心房細動に対して有効だが、非発作性心房細動に対する効果は限定的である。本研究では、慢性心房細動患者の心臓で発現が減少するKCNK2チャネルに焦点を当て、心房性不整脈の分子機構を解明することを目指した。KCNK2の機能を評価するために、コンディショナルノックアウトマウスを使用して心機能評価や不整脈誘発実験、単離心筋のパッチクランプ実験を実施した。その結果、KCNK2は心房性不整脈の発生を制御する可能性があり、TPM1との結合がその機構において重要であることが示唆された。この研究は心房性不整脈の新たな治療標的としてKCNK2を提案し、循環器領域の研究に対して臨床的な意義を有している。 | |||
河原崎 和歌子 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学先端科学技術研究センター ゲノムサイエンス&メディシン | 血圧制御におけるアンジオテンシンーWnt5aシグナルクロストークの解明 | 100 |
申請者はこれまで、加齢に伴い血中の抗加齢因子Klothoが減少した状況で高食塩食を摂取すると、血管収縮経路であるnon-canonical Wnt5a-RhoA系が活性化し、血管収縮が亢進して高血圧を発症することを高齢マウスモデルで示し、高齢者における食塩感受性高血圧の発症機序を明らかにしてきた。さらに、Ang IIは血管のRhoAの活性化を介して高血圧形成に関わるが、血管平滑筋細胞を用いた実験でAng IIはWnt5a依存性にRhoAを活性化し、Klothoにより抑制されることを見出した。これらのことから、加齢個体では血中Klothoが減少し、高食塩摂取時に血管でnon-canonical Wnt5aシグナルが活性化され、これに依存してAng IIシグナルが活性化し、両シグナルがクロストークを生じて相乗的に高血圧形成に関わることが示唆され、本研究ではその機序解明と生体における検証を進めている。 | |||
木岡 秀隆 アブストラクト 研究報告書 | 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 | 細胞内部位特異的コシャペロンを介した心臓恒常性維持機構の解明と新規治療戦略の確立 | 100 |
研究代表者らは先行研究によって分子シャペロンHSC70のコシャペロンBAG5欠損により発症する遺伝性拡張型心筋症を報告した。シャペロン・コシャペロンは、多くのタンパク質と相互作用することで、シャペロームと呼ばれるネットワークを形成することにより、タンパク質恒常性(プロテオスタシス)を維持していると考えれているが、BAG5欠損からプロテオスタシスの破綻に至る詳細な分子機序については未解明である。本研究では、BAG5欠損によってプロテオスタシス破綻を来す分子機序について、シャペロームネットワークのプロテオミクス解析を行い解明することとした。本研究によって、今まで認識されていなかった分子シャペロンHSC70とE3リガーゼSCF複合体の新規相互作用を明らかにした。筋小胞体特異的コシャペロンBAG5は、両者の結合を増強することによって、筋肉小胞体タンパク質のプロテオスタシス維持に寄与しているものと考えられる。 | |||
絹川 真太郎 アブストラクト 研究報告書 | 九州大学大学院医学研究院 循環器内科学 | 心不全に合併するサルコペニアの機序の解明 | 100 |
サルコペニアを合併する心不全患者が増加している。その中心病態である骨格筋萎縮はタンパク合成と分解のバランスの破綻によってもたらされる。O-GlcNAc化修飾は、タンパクリン酸化修飾の制御に関わっている。本研究は、心不全における骨格筋萎縮の形成・進展にタンパク合成や分解に関わる種々のタンパクのO-GlcNAc化修飾が重要な役割を果たしているかどうかを明らかにすることであった。心筋梗塞後心不全マウスの骨格筋で萎縮が起こり、タンパク合成・分解のバランスが破綻していた。また、骨格筋タンパクのO-GlcNAc化が低下し、OGAの増加によって達成された。C12C12培養細胞を用いた実験で、OGAを抑制し、O-GlcNAc化を増加させることによって、萎縮関連タンパクの発現が減少することが明らかとなった。これらの結果は、骨格筋タンパクのO-GlcNAc化と骨格筋萎縮は密接に関連することを示唆した。 | |||
草場 哲郎 アブストラクト 研究報告書 | 京都府立医科大学大学院医学研究科 腎臓内科学 | 腎ナトリウムリン共輸送体阻害による心不全治療の試み | 100 |
SGLT2阻害薬が心不全患者の予後を改善することから、近位尿細管のNaチャネルは魅力的な治療標的である。また血中リン濃度の上昇とそれに引き続くFGF23の上昇は、血管の石灰化や心血管疾患の発症に関連する。そこで今回の研究では、近位尿細管に発現するNaとリンの共輸送体であるNaPi2aの機能を抑制し、圧負荷心不全モデルと尿毒症性心筋症モデルにおいて心不全進展予防効果を発揮するかを検討した。NaPi2a-KOマウスでは、定常状態でWTに比し血清PやFGF23は低下していた。心組織ではANP発現の低下を認め、体液量の減少が示唆された。圧負荷心不全モデルに関して、WT、KOマウスにTACを実施したところ,術後4週間ではWTと比べKOで左心室駆出率(LVEF)が保たれていた。5/6腎摘による尿毒症性心筋症モデルでは、LVEFが腎不全発症に伴い低下したが、WTとKOの間で差は認めなかった。これらの結果より、NaPi2aの抑制が心不全の新規治療標的となる可能性がある。 | |||
新谷 泰範 アブストラクト 研究報告書 | 国立循環器病研究センター 分子薬理部 | ラミノパチーの臓器特異性を担う分子メカニズムの解明 | 100 |
申請者が同定した膜タンパク質AIPIDの KOマウスは、ラミノパチーモデルマウスのフェノタイプを改善させ、ラミノパチーへの病態形成へ関与する。本研究の目的は、AIPIDが関与するラミノパチーの病態形成メカニズムおよび臓器特異性を担う分子メカニズムを明らかにすることである。AIPID過剰発現マウスの心臓を出発材料とし、AIPIDの結合蛋白を質量分析で網羅的に解析し、小胞輸送に関わる分子Xを同定した。次にマウス心筋様細胞株であるHL1細胞にAIPIDおよびコントロールとしてGFPを恒常的に発現する細胞を作製し、生化学的に分画し、各分画における定量プロテオミクスを実施、形質膜分画にAIPID発現により濃縮される複数のタンパク質を同定した。本研究の結果は、ラミノパチーの病態形成に小胞輸送の異常が関与する可能性を示唆する。 | |||
新藤 隆行 アブストラクト 研究報告書 | 信州大学医学部 循環病態学教室 | 血管の恒常性制御は、癌転移抑制法となりうるか? | 100 |
アドレノメデュリン(AM)は、血管の恒常性維持作用を有するペプチドであり、その機能は主として、AMの受容体活性調節タンパク、RAMP2あるいはRAMP3によって制御されている。本研究では、AM-RAMP2、3系と癌転移の関連を検討した。 血管内皮細胞特異的RAMP2ノックアウトマウス (DI-E-RAMP2-/-)では、転移予定先臓器の血管における炎症が、転移前土壌となること、さらに内皮間葉転換による血管構造の不安定化により、転移が促進する結果となった。一方、RAMP3ノックアウトマウス(RAMP3-/-)では、癌関連線維芽細胞(CAF)が間葉上皮転換を生じて良性化し、転移が抑制された。 AM-RAMP2系による血管の恒常性制御機構と、AM-RAMP3系によるCAFの制御機構に注目し、選択的にRAMP2を活性化し、RAMP3を抑制することが、癌転移の抑制につながると考えられた。 | |||
末冨 建 アブストラクト 研究報告書 | 山口大学 器官病態内科学 | カルモジュリンキナーゼを標的とした炎症・線維化抑制による新規心不全治療薬の開発 | 100 |
【目的】 HFpEFの主要所見である心筋拡張障害とそれをもたらす心筋線維化の抑制に、CaMKIIが標的となりうるかを検証する。 【結果】 NOS阻害薬および高脂肪食負荷により心筋組織の著明なCaMKII活性上昇、Caspase1活性、ASC、NLRP3のmRNA増加がみられた。同様の負荷を行ったマクロファージ特異的CaMKII-KO マウス(mKOマウス)ではこれらの病的変化が抑制されていた。mKOマウスにおいて、心筋細胞の肥大は野生型と同程度であった。CD68陽性細胞の心筋内集積については有意差はみられなかったが、mKOマウスにおいては線維化マーカー発現および心筋線維化が顕著に抑制されており、慢性期の心エコー上の左室拡張能指数は有意に保持されていた。心負荷に伴う炎症シグナル発生、組織線維化、拡張能低下という一連の心リモデリング過程に対してマクロファージ内CaMKIIが治療標的となりうることが示唆された。 | |||
田尻 和子 アブストラクト 研究報告書 | 国立がん研究センター東病院 循環器科 | 自己免疫性心筋炎の発症と進展における翻訳制御因子EIF4Eの役割の検討 | 100 |
EIF4EBP3は心筋炎を発症すると心臓での発現が増加し、その発現は心筋細胞や心筋線維芽細胞では増加せず、心臓に浸潤するCD45陽性白血球、特に樹状細胞やCD4陽性T細胞での発現が顕著であった。EIF4EBP3遺伝子欠損マウスでは心筋炎が減弱し、骨髄キメラ実験ではEIF4EBP3遺伝子欠損マウス由来の骨髄細胞を移植したマウスでは心筋炎が誘導できないことから、骨髄由来細胞におけるEIF4EBP3が心筋炎の誘導に大きな役割を果たしていることが示唆された。さらに、EIF4EBP3遺伝子欠損マウス由来の樹状細胞はレシピエントマウスに心筋炎を誘導できなかったため、EIF4EBP3は樹状細胞の抗原提示や活性化に重要な役割を果たしていることが示唆された。 | |||
西山 功一 アブストラクト 研究報告書 | 宮崎大学医学部 機能制御学講座 血管動態生化学分野 | 血管内皮ーペリサイトー血流間作用による微小血管網維持の破綻と心不全病態形成 | 100 |
近年、心機能が保たれた心不全(HFpEF)において、心筋内微小循環異常の関与が指摘されているが、その本態は不明である。本研究では、血管内皮-ペリサイト-血流間作用による血管基底膜形成を介した微小血管網維持機構の破綻が、いかにHFpEF病態に関与するか明らかにすることを目指した。結果、血管内皮−ペリサイト間作用により、TGFβ2-Alk5-Smad2/3経路を介した4型コラーゲン(Col-IV)血管基底膜形成が促進し、血管新生を進める機序がわかった。この作用に加え、血流の血管基底膜保持作用があいまり、微小血管網構造が維持されるしくみが示唆された。また、加齢などの異常により、血管内皮−ペリサイト−血流間作用による血管基底膜形成・保持機構が破綻し、微小血管網異常をきたすことで、HFpEF病態に至るしくみが推測された。本研究で樹立したCol4a1/a2 floxマウスは、微小血管網形態異常の HFpEF病態への関与の解析に有用であると期待される。 | |||
野村 征太郎 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学医学部附属病院 循環器内科 | ゲノム持続可能性の理解を通した心不全の病態解明と制御 | 100 |
ゲノムは持続可能な社会を形成している。様々な刺激で誘発されるDNAへの損傷を修復しながら、その遺伝情報を転写で読み取ることで、細胞や個体の一生は支えられている。しかしながら、この「ゲノム持続可能性」が破綻すると心不全などの老化関連疾患を発症する。本研究は、心不全においてゲノム持続可能性を制御する分子に着目し、その分子挙動や相分離機序を解明し、心不全の上流・反応場・下流を一貫して解明することを目指した。その結果、ゲノム持続可能性を制御する因子Lamin A/C(遺伝子名:LMNA)に転写因子を核膜にトラップする機能があることを解明した。LMNA遺伝子変異はDNA損傷蓄積を介して早老症の発症に関わることが知られていたが、転写制御の変化を生じる新たな分子機序を解明した。これは循環器疾患における精密医療の発展に大きく貢献すると期待される。 | |||
花谷 信介 アブストラクト 研究報告書 | 熊本大学病院 循環器内科 | 新規線維化関連因子に着目したHFpEFの新規機序解明とその臨床応用 | 100 |
本研究の目的は、新規線維化関連因子であるHE4と左室収縮の維持された心不全(HFpEF)の関連について明らかにすることである。 HFpEFモデルとしてNOS阻害薬+高脂肪食負荷モデルマウスを作成したところ、心エコーで評価した左室肥大は確認できたものの、心不全の所見である肺重量増加は確認できず、かつ心臓でのHE4の遺伝子発現も有意な変動は認めなかった。HFpEFモデル作成そのものが上手くいっていないためと考えられ、現在他のHFpEF病態モデルを作成中である。 並行してHE4のノックアウトマウス作成も進めており、CAG-CreERT2マウスとCRSPR/Cas9を用いて作成したHE4 floxマウスの交配を行った。得られた成体にタモキシフェン投与を行いCreタンパクの発現を誘導したのち各臓器でのHE4発現を評価したところ、少なくとも肺と腎臓においてHE4発現が著明に抑制されていた。今後ノックアウトマウスを用いた表現型等の評価を進める予定である。 | |||
南 敬 アブストラクト 研究報告書 | 熊本大学生命資源研究支援センター 分子血管制御学 | ダウン症トリソミー因子群での循環動態改善 ー抗血管病に至る非線形的な分子基盤の解明 | 100 |
循環代謝異常を引き金とした動脈硬化・血栓症での死亡率は増加の一途にある。我々はこれまでダウン症 (DS) での低い固形がん罹患率がダウン症因子 DSCR-1 や ERGのトリソミー発現と相関することを示してきたが、循環代謝の関係については研究されていない。そこで収集したDSモデルを基に、発生から加齢に至る時間軸での血管病理解析を行った。先ずDSモデルではApoE 単独欠損での動脈硬化病変が全く認められない結果が再現性高く得られ、その血清ではLDL値、中性脂肪共に正常化していた。更に、ApoE 欠損にて上昇する好中球・単球、低下するT 細胞群がDSモデルと掛け合わせることで野生型様に戻っていた。脳血管においては酸化ストレスが向上している一方、ERG 安定発現ではこれに抵抗性を示した。今後更なる臓器微小環境解析がDSでの加齢や血管保護という非線形的な事象を解明する糸口となることが期待される。 | |||
柳沢 裕美 アブストラクト 研究報告書 | 筑波大学 生存ダイナミクス研究センター | シングルセル・分子病理解析から紐解く大動脈解離発症機序の解明 | 100 |
大動脈解離は大動脈の内膜亀裂により血液が中膜に流入し大動脈破裂や臓器灌流不全をひき起こす疾患で、病院到着前死亡は約6割と極めて高い。しかし、特定の時期に再現性を持って解離を自然発症する大動脈解離マウスモデルは報告されておらず、発症機序の詳細は明らかにされていない。本研究では、我々が独自に作製した自然発症の大動脈解離マウスを用いて、炎症性単球や近年報告されたMACAIRsなどの血管内膜在住マクロファージと血管内皮細胞との相互作用を分子病理解析により検証し、シングルセル解析を用いて解離誘発因子の同定を試みた。解離初期には、内皮細胞のメカノセンシング異常による活性化と、炎症細胞の大動脈への浸潤を捉えることができた。さらに、異常な平滑筋細胞の出現が、解離の進行を促進している可能性も考えられた。これらの結果から、今後さらに大動脈解離に対する介入ポイントを同定して行く予定である。 | |||
吉江 幸司 アブストラクト 研究報告書 | 信州大学医学部附属病院 循環器内科 | 新規心不全治療としてのTRPV1を介した心臓交感神経求心路修飾の意義 | 100 |
各種臓器における自律神経機能が注目されており、血行動態の中心的役割を果たす心臓機能においても、その情報を中枢へと伝達し、心臓機能の調整を担う経路として重要な役割を担う。我々は、虚血性心疾患モデルにおけるTRPV1発現交感神経求心路阻害が病的心筋リモデリング抑制効果ならびに致死性心室性不整脈耐性効果を得ることを報告した。この研究成果に引き続き、非虚血性心不全モデルを対象に、同阻害効果が心臓リモデリング抑制効果を得る可能性につき検証している。またその背景メカニズムとなる脊髄T1-T3レベル、さらには脳幹および大脳レベルでの変化についても検討を進めている。増加の一途をたどる心不全症例に対して、薬物療法から非薬物療法にわたる幾多の治療法が開発される中、その予後は未だ不良である。本研究を通じ、これまでの心不全治療と機序の異なる新規治療法の開発へとつながる成果を報告していきたい。 | |||
吉田 陽子 アブストラクト 研究報告書 | 順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科学/先進老化制御学講座 | 細胞老化を標的とした新たな心房細動の発症機序の解明と治療法の開発 | 100 |
本研究では、心房細動における細胞老化の病的意義を明らかにし、選択的老化細胞除去による新たな心房細動治療法の開発に挑むことを目的とした。遺伝子組換えにより心房老化マウスを作出し解析した結果、心房老化マウスは 8~10週齢という比較的若年で左心房の著明な拡大と線維化が生じ、心房細動を自然発症することがわかった。心房老化マウスに選択的老化細胞除去薬(D+Q) を投与したところ、心房の線維化と心房細動が著しく抑制されることがわかった。さらに、本モデルマウスの心房組織を用いたMicroarrayによる網羅的遺伝子発現解析を行なったところ、心房細動発症に関わる可能性の遺伝子で有意な変動があることがわかった。本研究により心房筋の細胞老化が心房細動の発症において非常に重要なメカニズムであることが示されたと共に、『選択的老化細胞除去』というアプローチが、心房細動に対する新たな治療戦略となり得ることが示唆された。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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松岡 研 アブストラクト 研究報告書 | 大阪大学大学院医学系研究科 医化学 | COVID-19関連心筋炎に対する治療薬及び予防薬の開発 | 100 |
COVID-19ワクチンの重症副作用に心筋炎があり、Covid-19感染自体にも心筋炎が合併する。我々は先行研究にて心筋炎では線維芽細胞が発現する接着因子Vcam-1がリンパ球を誘導し、VLA-4 (Vcam-1リガンド) 中和抗体投与により予後が改善することを示した。 本研究において、①COVID-19関連心筋炎に対する抗VLA-4療法の非臨床POC取得、②COVID-19関連ヒト心筋炎においてもVcam-1/VLA-4経路の関与を検証し、抗VLA-4療法の臨床治験開始につなげることを試みた。 | |||
松村 光一郎 アブストラクト 研究報告書 | 近畿大学医学部 循環器内科 | COVID-19パンデミック下における心血管疾患患者の医療機関受診控えとオンライン診療の普及について | 100 |
2020年春、コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックにより、循環器医療において、世界各国で外来患者数の急激な減少が認められ、医療提供の質と持続的ケアを維持するために、患者・医療従事者・医療システム間での迅速な適応が求められた。心血管疾患の悪化に対する診察の遅れや入院治療の減少が、予後を悪化させた。遠隔医療や心臓遠隔リハビリテーションといった新たな治療介入や、診察の遅れを回避するための代替医療が試みられた。COVID-19の脅威は衰えることなく2023年まで持続し、医療従事者は、パンデミック急性期~慢性期にかけての長期的期間における、心血管疾患患者の医療機関受診控え行動の現状について理解する必要がある。本研究は、2020年~2022年における、心血管疾患患者の医療機関受診控えとオンライン診療の普及について、疫学ビッグデータを用いた大規模調査を目的としている。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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安藝 翔 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学先端科学技術研究センター ニュートリオミクス・腫瘍学分野 | 代謝コミュニケーションを介したミトコンドリアダイナミクスの解明 | 100 |
ミトコンドリアは「エネルギー産生を担う均質なオルガネラ」という古典的概念から「代謝コミュニケーションにより高次機能を制御するオルガネラ」へと変貌してきた。時々刻々とダイナミックにミトコンドリア形態は変化するが、ミトコンドリアダイナミクスの詳細な機構は、依然として不明な点が多い。報告者は、ホスホイノシタイド/イノシトールリン脂質(PIPs)の一つ、PI(3,4)P2がミトコンドリア外膜(OMMs)に膜融合関連因子を動員することで、ミトコンドリア融合を促進することを見出した。さらに、心筋細胞特異的なPI(3,4)P2代謝酵素KOマウスは、断片化ミトコンドリアが蓄積し、心臓収縮不全を呈し生後1~2日以内に死亡した。以上のことから、PI(3,4)P2は新規OMMs融合因子であり、PIPs代謝異常によるミトコンドリアダイナミクスの破綻は、重篤な循環器疾患を引き起こすことを明らかにした。 | |||
秋葉 庸平 アブストラクト 研究報告書 | 慶應義塾大学医学部 循環器内科 | 臓器横断的な一細胞解析による血管内皮細胞を介した臓器恒常性維持機構の解明 | 100 |
本研究では心臓、大動脈、肺、肝臓、腎臓の1細胞RNA解析データを統合したところ、Gemininを特異的に発現し、活発な細胞増殖を行っているサブクラスターを臓器横断的に発見した。そしてこの細胞群は心不全の進行にあわせて減少することが明らかとなり、血管内皮細胞特異的Gemininノックアウトは心不全負荷をかけることなく心機能が低下し、血管周囲の線維化や心筋内へのマクロファージ浸潤を認めた。また、培養細胞を用いた検証ではGemininの発現低下は炎症を惹起し、過剰発現は炎症を抑制することが確認された。さらに、Gemininが炎症を制御するための仲介因子としてBrg1が関与していることを明らかにし、内皮細胞特異的Geminin過剰発現マウスやBrg1阻害薬投与マウスはHFrEF(Heart Failure with reduced Ejection Fraction)及びHFpEF(Heart Failure with preserved Ejection Fraction)に対して保護的な効果を呈した。 | |||
池田 昌隆 アブストラクト 研究報告書 | 九州大学医学研究院 循環器病免疫制御学講座 | フェロトーシスに関する心不全の病態基盤研究 | 100 |
フェロトーシスは鉄依存性に生じる脂質過酸化により誘導され、鉄キレート剤、脂質親和性抗酸化剤、GPX4により抑制されることを特徴とする細胞死である。本研究は、ドキソルビシン(DOX)心筋症と心筋虚血再灌流傷害(I/R)におけるフェロトーシスを基軸とした病態解明と治療法の開発を目的とした。DOX心筋症では、1) ミトコンドリアを端緒としたフェロトーシスが最も優位な心筋細胞傷害の基盤であり、2) mtDNAに集積したDOXとヘム合成障害により生じた鉄過剰が協調してフェロトーシスを誘導すること、3) 5-アミノレブリン酸がヘム合成を促進し、過剰鉄、脂質過酸化およびフェロトーシスを抑制すること、を明らかにした。I/R傷害では、ヘム分解を通じて生じた小胞体の鉄過剰に基づくフェロトーシスが主たる傷害基盤であり、鉄キレート剤デフェラシロクスが心筋虚血再灌流傷害に対する新規治療戦略となることを明らかにした。 | |||
伊藤 淳平 アブストラクト 研究報告書 | 大阪医科薬科大学医学部医学科 薬理学教室 | 心臓線維芽細胞活性化における鉄代謝の役割と線維化抑制機構の解明 | 100 |
心臓線維芽細胞は筋線維芽細胞や炎症性線維芽細胞など異なる細胞群に分類されることが報告されているが、鉄代謝がこれらの細胞分化へ関与しているかどうかは明らかではない。本研究では『貯蔵鉄利用機構であるフェリチノファジーを介した鉄イオンの増加が心臓線維芽細胞の活性化を誘導し線維化を惹起する』という仮説を検討した。心臓線維芽細胞特異的NCOA4-KOマウスを樹立し解析した結果、生後8-11週齢や肥大期に相当する圧負荷後1週間ではNCOA4依存的フェリチノファジーの関与は低い可能性が示唆された。一方で線維芽細胞を用いたin vtro実験より、NCOA4の発現を抑制した細胞では細胞分化や細胞増殖が抑制されており、NCOA4依存的フェリチノファジーは心臓線維芽細胞の活性化に関与していることが示唆された。 | |||
勝海 悟郎 アブストラクト 研究報告書 | 順天堂大学医学部・大学院医学研究科 循環器内科学講座 | 老化細胞除去ワクチンによる心不全治療効果の検証 | 100 |
我々は老化細胞を特異的に除去する老化細胞除去ワクチンの開発の一環で老化血管内皮細胞でICAM1の発現増加に着目し同分子に対する老化細胞除去ワクチンを開発した。Icam1は我々の先行研究で心不全の病態促進に寄与することを突き止めており、心不全モデルマウスにおけるIcam1老化細胞除去ワクチンの効果を検証することとした。圧負荷心不全モデルマウスにおいて事前にIcam1老化細胞除去ワクチンを接種すると、心臓組織内の老化細胞が除去され、対照群と同様の圧負荷状態にもかかわらず心収縮能の改善や心臓線維化の改善が認められた。心不全に対するワクチン治療は現在皆無で、この老化細胞除去ワクチンが初の心不全治療ワクチンとなると期待される。 | |||
川岸 裕幸 アブストラクト 研究報告書 | 信州大学先鋭領域融合研究群 バイオメディカル研究所 バイオテクノロジー部門 | 心筋酸素消費増大を伴わない強心薬による新生児・乳児拡張型心筋症治療薬の創出 | 100 |
新生児・乳児拡張型心筋症(DCM)の治療薬はほとんどない。我々は、心筋細胞のアンジオテンシンII 1型受容体(AT1R)/βアレスチン2経路の活性化が、新生児・乳児特異的に強心作用を発揮し、DCMモデルマウスの生命予後を改善することを見出した。本研究では、βアレスチンバイアスAT1Rアゴニストとしての作用を示す化合物の探索を行った。in silicoスクリーニングにより得た101分子について、βアレスチン2経路を活性化する化合物をスクリーニングした結果、C09を同定した。C09は、Gタンパク経路の活性は変化させず、強心作用に相関する細胞内Ca2+トランジエントを増大させた。一方C09は、AngIIと競合せずにAngII-AT1Rの結合を増強した。すなわちC09は、低分子βアレスチンバイアスアロステリック作動薬であることが示唆され、新生児・乳児DCM治療薬のヒット化合物であることが示された。 | |||
佐野 宗一 アブストラクト 研究報告書 | 大阪公立大学大学院医学研究科 循環器内科学 | 心不全とY染色体についての研究 | 100 |
男性の加齢に伴い、血液中のY染色体が失われるmosaic loss of Y chromosome (mLOY)という現象が生じる。これまでの研究で、血液のmLOYが心不全の予後と関連し、Y染色体を欠失するマクロファージが線維化を促進することが示唆されている。本研究では、Y染色体の責任遺伝子の同定と、そのメカニズムの解明を目的とした。 | |||
伯井 秀行 アブストラクト 研究報告書 | 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 | 頻脈誘発性心筋症における心筋タンパク質群の恒常性維持分子メカニズムの解明 | 100 |
心臓移植を必要とする拡張型心筋症の新たな疾患原因遺伝子として同定したBAG co-chaperone 5 (BAG5)における分子シャペロン活性調節機能に着目し、頻脈誘発心筋症の頻拍ストレスに対する脆弱性ならびに可逆的な心機能改善の経時的変化に関わる分子メカニズムを解明することを本研究の目的とした。頻脈刺激を行った培養心筋細胞およびビーグル犬の左心室組織における遺伝子発現変化を経時的に評価したところ、心不全の顕在化に先行してBAG5遺伝子の発現が上昇することが明らかとなった。終末分化した心筋細胞における頻拍ストレスを含めた心負荷に対する耐性機構を明らかにすることは、心不全におけるリバースリモデリングに関わる分子メカニズムの包括的理解につながることが期待される。 | |||
平池 勇雄 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学 保健・健康推進本部 | 褐色脂肪細胞が心疾患を抑制するメカニズムの理解と精密医療への展望 | 100 |
我々は「エネルギー消費の促進」を介した肥満や糖尿病の治療標的として期待される褐色脂肪細胞の鍵因子NFIAを同定し、またTaiwan Biobankにおいて褐色脂肪細胞の機能を負に制御する肥満感受性SNP rs1421085と運動習慣が追跡期間中の体重増加に及ぼす遺伝子環境相互作用を同定してきた。今回、我々はNFIAがエネルギー消費の亢進作用と抗炎症作用の双方を介して肥満や糖尿病に保護的に作用することを見出した(Hiraike Y., et al. PNAS 2023)。更にUK Biobankにおいて、肥満のpolygenic risk scoreが実際のBMIをよく説明し全死亡や心血管死と正に相関することを見出した。NFIAが炎症を抑制するメカニズムの解析を進めるとともに大規模バイオバンクのデータを活用して褐色脂肪細胞が心疾患の発症に与える影響を検討することで、心疾患の治療標的としての褐色脂肪細胞の位置づけが確立すると期待される。 | |||
横川 哲朗 アブストラクト 研究報告書 | 福島県立医科大学 循環器内科学講座 | マクロファージの炎症制御機構に着目した肺高血圧症の新規メカニズムの解明 | 100 |
【背景】肺高血圧症は病的肺動脈リモデリングと肺動脈周囲炎症細胞浸潤を病態とする指定難病である。肺高血圧症の肺組織において、肺動脈周囲にはマクロファージなどの炎症細胞の浸潤を認める。【目的】肺動脈周囲マクロファージの肺高血圧症における意義を明らかにする。【方法・結果】2種類の肺高血圧症動物モデルを作成したところ、肺動脈周囲にCD68陽性マクロファージ、Arginase1陽性M2マクロファージが、コントロール群より多く集積していた。また、マクロファージの受容体であるCSF1Rのリン酸化が、それぞれの肺高血圧症モデルで生じた。肺動脈周囲マクロファージの役割を明らかにするために、CSF1Rの阻害薬であるPexidartinibを肺高血圧症モデル動物に投与したところ、Pexidartinib投与群で有意に肺高血圧症が改善していた。【結語】炎症細胞であるマクロファージを制御することで、肺高血圧症が改善することを明らかにした。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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平出 貴裕 アブストラクト 研究報告書 | 慶應義塾大学医学部 難治性循環器疾患病態学寄付研究講座 | 遺伝子変異に起因する全身性難治性血管病の病態解明と新規創薬ターゲットの探索 | 100 |
Ring finger protein 213 (RNF213)遺伝子は肺動脈性肺高血圧症やモヤモヤ病、末梢性肺動脈狭窄症など複数の難治性血管病の発症に関連しており、RNF213関連血管病という新規疾患概念を提唱した。RNF213 R4810K陽性患者は現行の治療に反応性が乏しく、独立した生命予後不良因子であった。RNF213 R4810Kに相当するRnf213 R4828K陽性マウスを作製し、低酸素負荷で肺高血圧症が惹起されることを確認した。肺トランスクリプトーム解析では、炎症性ケモカインであるCXCL12が有意に上昇していた。CXCL12とその受容体であるCXCR4はがんの転移などに関連する因子である。CXCR4の阻害薬であるAMD3100を追加で腹腔内投与を行うと、肺高血圧症が軽度になることを確認した。Rnf213 R4828Kマウスの低酸素負荷モデルにおいて、CXCL12-CXCR4シグナルが関連することが示唆された。ヒト肺組織においてもCXCR4シグナルは上昇しており、ヒトでの再現性を確認した。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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(留学先) | |||
白記 達也 | 大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学 | インターロイキン31シグナルによる線維性血管障害発症機序の解明 | 500 |
CVPath Institute, U.S.A. | |||
武井 眞 | 東京都済生会 中央病院 | Fontan循環でのPhenomappingによる病態解明 | 500 |
The Adult Congenital Heart Program at Stanford, U.S.A. |