研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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井上 聡 アブストラクト 研究報告書 | 慶應義塾大学医学部 先端医科学研究所 がん免疫研究部門 | 個別化CAR-T細胞療法の開発 | 100 |
CAR-T細胞を始めとする免疫細胞療法が難治性腫瘍に対する治療法として注目されているが、大半の悪性腫瘍に対しては持続的な治療効果が得られていない。CAR-T細胞に対して抵抗性を示す腫瘍細胞が、固有の抵抗性機序・因子を有するという仮説を立てた。CAR-T細胞に対する腫瘍細胞株感受性データベースを構築し、遺伝子発現様式との相関性解析により複数の抵抗性因子を同定し、さらに抵抗性因子に対する阻害剤との併用治療効果を検証することを目的とした。127種類の腫瘍細胞株からなるデータベースを構築し、複数の抵抗性因子を抽出した。抵抗性因子に対する阻害剤との併用治療効果を腫瘍マウスモデルを含めて検証したところ、抵抗性の克服が可能であることが示された。以上の結果から、腫瘍細胞は、CAR-T細胞に対する感受性を有すること、これを阻害することで治療効果を飛躍的に高めることが可能であることが明らかとなった。 | |||
櫻井 政寿 アブストラクト 研究報告書 | 慶應義塾大学医学部 血液内科 | 臍帯血生体外増幅に関わる因子の解明 | 100 |
臍帯血は造血幹細胞移植の重要な供給源であるが、幹細胞数の少なさに起因する生着不良が課題とされている。本研究では、独自開発した新規培地(3a培地)を用いて、臍帯血由来造血幹細胞の長期増幅を可能とする技術を検討し、増幅効率に関わる因子の同定を目指した。市販されている複数ロットの臍帯血を用いた細胞表面マーカー解析の結果、CD34+CD38−CD90+CD45RA−CD49f+細胞分画の割合と絶対数がロット間で大きく異なることが判明した。また、培養後の増幅効率も5~20倍とロット間で差があり、培養前の幹細胞分画と緩やかな相関を示した。これらの結果は、臍帯血細胞の初期特性が増幅効率を予測する重要な指標となり得ることを示唆している。本研究により、臍帯血の適切な選別と増幅効率の事前予測が一部可能となり、臍帯血移植の成功率向上と効率的な臨床応用への貢献が期待される。 | |||
正本 庸介 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍病態学 | 難治性急性骨髄性白血病におけるIFN-γ経路を標的とした治療開発 | 100 |
本研究は、EVI1高発現AMLにおけるIFN-γ経路の役割を解明し、治療標的としての可能性を検討することを目的とする。EVI1高発現AMLではEVI1がCyclin D1を介してIFN-γシグナルを増強することで、腫瘍進展や免疫抑制的環境を形成することが示唆されている。本研究では、遺伝子改変マウスを用い、EVI1高発現AMLにおけるIFN-γシグナルの作用を検証した。AML細胞自身のIFN-γ産生・autocrineがAML発症に寄与する一方で、骨髄微小環境におけるIFN-γはAML発症に抑制的に作用する可能性が示された。本研究は、EVI1高発現AMLの分子病態の解明と新規治療開発への道を拓く成果を提示している。 | |||
松井 啓隆 アブストラクト 研究報告書 | 国立がん研究センター中央病院 臨床検査科 | DDX41変異によるR-loopの蓄積が造血器腫瘍を発症させる機序の解明 | 100 |
DDX41遺伝子バリアントに関連する造血器腫瘍は特徴的な疾患表現型を示し、遺伝的素因を伴う骨髄性造血器腫瘍の中でも最も頻度が高いもののひとつである。RNAヘリケースを責任遺伝子とする造血器腫瘍はこれまであまり知られておらず、DDX41バリアントによる疾患発症機序はまだ多くが不明である。臨床的にも、個々の生殖細胞系列バリアントに対する病的意義の解析が進んでいないことから、今後造血器腫瘍遺伝子パネル検査が実臨床で開始されたのち、臨床現場で混乱が生じることも懸念される。このようなことから、DDX41関連造血器腫瘍の疾患特異性をバリアントの病的意義と関連付け研究する必要性が生じている。 本研究では、マウスモデルとヒト疾患細胞とを駆使し、体細胞バリアントとして最も典型的なR525H変異の意義を明らかにした。本研究で採用した手法をさらに広く展開することで、本疾患の全容が明らかとなることが期待される。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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髙山 直也 アブストラクト 研究報告書 | 千葉大学大学院医学研究院先端研究部門 イノベーション再生医学 | 無菌性炎症反応を介したヒト造血幹細胞自己複製機構の解明 | 100 |
本研究では、iPS細胞由来神経堤細胞由来間葉系幹細胞(MSC)を支持細胞とした独自のヒト造血幹細胞(HSC)増幅培養系を用い、炎症シグナルの一つであるインターフェロンシグナル遺伝子群(ISGs)がHSCの活性化と増幅を制御する機構を解明した。MSC共培養時にISGsが活性化し、自己複製と分化運命決定に重要な役割を果たすことが示された。特にMSC由来因子はISG発現と共に、幹細胞関連遺伝子の上昇、AhRシグナル遺伝子群や分化関連遺伝子の抑制を誘導し、HSC増幅を促進することが示唆された。本技術はHSC移植の臨床応用に向けた新たなプラットフォームとなり、HSC制御機構の解明に貢献する。 | |||
田中 洋介 アブストラクト 研究報告書 | 熊本大学国際先端医学研究機構 幹細胞制御研究室 | 体外増幅造血幹細胞の品質管理に向けた造血幹細胞亜集団の理解 | 100 |
造血幹細胞の体外増幅が可能になったことから、次の課題は増幅された造血幹細胞の品質管理である。造血幹細胞はヘテロな集団であり、いずれの造血幹細胞が増幅されたかを見分ける必要があるが、今のところ造血幹細胞を移植することでしか亜集団を見分けることができない。そこで、本研究ではDNAバーコードを用いた造血幹細胞の分裂・分化パターン解析を行い、亜集団間の階層性・関連性、亜集団を識別できるマーカーを特定することを目指した。本研究では造血幹細胞亜集団の関連性と階層性を明らかにし、それぞれを特徴づけるマーカー候補の同定にも成功しており、亜集団特異的マーカーを確立することができれば移植を介さずに亜集団の評価が可能になり研究が加速することが期待される。シングルセル遺伝子発現解析において同定したNo output型は血小板関連遺伝子の発現が高いことから巨核球偏向型亜集団またはそれに近いものであることが想定された。 | |||
田村 彰吾 アブストラクト 研究報告書 | 北海道大学大学院保健科学研究院 病態解析学分野 | オルガノイドによる内軟骨性骨髄発生メカニズムの解明 | 100 |
大腿骨などの長管骨において、骨髄の発生は「内軟骨性骨化」の過程で生じる。しかし、内軟骨性骨化の骨髄発生に関わるメカニズムは全容が解明されていない。本研究では骨髄発生のきっかけである内軟骨性骨化の理解を進め、骨髄を模した人工組織(骨髄オルガノイド)を開発する技術確立目指す。今回、ヒト骨髄間葉系幹細胞で作製する軟骨オルガノイドを免疫不全マウスに皮下移植し、内軟骨性骨化による骨髄発生を誘導させる実験モデルを構築し、その分子メカニズムに着手した。我々は過去に成熟が進む軟骨オルガノイドの作製法の開発に成功しており、今回、定法で作製する軟骨オルガノイドに比して皮下移植での内軟骨性骨化による骨髄発生の成績が良好であることを示した。しかし、我々の開発した方法で作製する軟骨オルガノイドの全てが内軟骨性骨化による骨髄発生が生じるわけではなく、その分子レベルの質的違いの解明が求められる。 | |||
中嶋 洋行 アブストラクト 研究報告書 | 国立循環器病研究センター研究所 細胞生物学部 | 血管内皮細胞の起源に依存した新たな造血幹細胞制御機構の解明 | 100 |
造血幹細胞は、造血幹細胞ニッチと呼ばれる微小環境において、自己複製と分化を繰り返しながら維持される。我々は、ゼブラフィッシュ発生期の造血幹細胞ニッチとして機能する血管内皮細胞の多くが、周囲と異なる前駆細胞から派生することを見出したことから、本研究では、内皮細胞の細胞系譜の違いが、どのように造血幹細胞ニッチ特異的な血管機能に寄与するのかを明らかにすることを目的とした。まず我々は起源の異なる内皮細胞群を区別できる独自のin vivo検出系を樹立し、内皮細胞の起源の違いが造血幹細胞との細胞間コミュニケーションの違いを生み出すことを明らかにした。さらに単一細胞トランスクリプトーム解析により、内皮細胞起源の違いが造血幹細胞ニッチ形成に与えるファクターを検討した結果、未だ検討途中であるが、内皮細胞の細胞間接着分子とスカベンジャー機能がニッチ機能に寄与する可能性が示唆された。 | |||
細川 健太郎 アブストラクト 研究報告書 | 九州大学大学院医学研究院 幹細胞再生修復医学分野 | 内因性カンナビノイドシステムを介する造血幹細胞制御機構の解明 | 100 |
これまでに申請者は、静止期造血幹細胞 (HSC)特異的な転写因子Foxp2を同定し、細胞周期の抑制と幹細胞機能の維持に寄与することを明らかにした。本研究では、この上流の機構として、内因性カンナビノイドシステム(ECS)に着目し、HSCの増殖制御に与える影響を解明することを目的とした。カンナビノイド受容体アゴニストの刺激により、Foxp2の発現が促進され、HSCの静止状態が維持されることが確認された。Foxp2欠損マウスではこの効果が見られず、炎症モデルでもHSCの回復が遅れることが示された。また、多価不飽和脂肪酸(PUFA)の誘導体が内因性カンナビノイドとして機能するが、PUFAの摂取がHSCにおけるFoxp2の発現を向上させ、細胞周期の静止状態を維持する効果があることが分かった。これらの結果は、ECSがHSCの機能維持に重要であり、再生医療や栄養療法の新たなアプローチとして期待される。 | |||
宮城 聡 アブストラクト 研究報告書 | 島根大学医学部 生化学講座 | モノユビキチン化を介したMDS関連クロマチンタンパク質の機能制御 | 100 |
我々は、PHF6が造血ストレス時にHSCの機能抑制に働く。分子レベルでは、PHF6がシグナル依存的にTNFα経路のエフェクタ一タンパク質群 (ガン抑制遺伝子) を転写活性化し、造血幹細胞の増殖を抑制する。本研究では、PHF6のTNFα依存的な機能発現機構を明らかにするため、PHF6の会合分子であるPHIPに着目した。PHIPはユビキチンリガーゼ複合体の構成因子である。造血細胞特異的Phipノックアウトマウスを解析し、造血幹・前駆細胞の増幅、脾腫、血小板低下が起こることを見出した。この結果は、Phf6コンディショナルノックアウトマウスの表現系と一致する。しかし、PHF6のユビキチン化は検出されないことから、PHIPは酵素活性に依存せずに機能すると考えられる。造血幹細胞制御、クローン性造血やMDSの発症機構の解明に繋がる知見である。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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梅本 英司 アブストラクト 研究報告書 | 静岡県立大学薬学部 免疫微生物学分野 | 腸内細菌由来の代謝分子ピルビン酸・乳酸による抗ウイルス免疫応答の誘導 | 100 |
小腸パイエル板では樹状細胞の1種LysoDCがM細胞から組織内部に輸送された抗原を捕捉する。我々は腸内細菌由来の代謝分子ピルビン酸・乳酸がGタンパク質共役型受容体GPR31に結合すること、またLysoDCがGPR31依存的にM細胞に樹状突起を伸長し、病原性細菌を取り込むことを見出している。本研究では、ピルビン酸-GPR31シグナルのパイエル板指向性ウイルスの取り込みおよび抗ウイルス応答における役割を解析した。ピルビン酸を経口投与したGPR31欠損マウスに、レオウイルスTL1株を経口感染させたところ、LysoDCによるウイルスの取り込みおよび血清中のウイルス特異的IgGの産生低下が認められた。また、マウス肝炎ウイルスMHV A59株を経口感染させたところ、GPR31欠損マウスは体重減少が顕著であった。即ち、ピルビン酸-GPR31を介したウイルス取り込みは抗ウイルス応答惹起に重要であると考えられた。 | |||
片貝 智哉 アブストラクト 研究報告書 | 新潟大学大学院医歯学総合研究科 免疫医動物学分野 | リンパ節ストローマ細胞の選択的活性化組換えタンパク質による免疫応答賦活化 | 100 |
抗体産生や免疫応答の増強を目指して、リンパ節ストローマ細胞を選択的に活性化するリンフォトキシン複合体を基にした抗体連結型・組換え融合タンパク質の開発を目的とした。マウスリンパ節からLTαおよびLTβ遺伝子をクローニングし、それぞれヒトIgG1-Fc領域に接続して分泌発現させるベクターを構築した。HEK293T細胞に単独あるいは同時に導入し、上清中の融合タンパク質を検討したところ目的のタンパク質発現を確認した。しかし、Fc-LTαとFc-LTβを同時発現では検出されなかったことから、LTα1β2複合体は形成されず、それぞれの単体発現も消失した。融合タンパク質の活性を検討するために、培養ストローマ細胞株に添加し、細胞表面ICAM-1およびVCAM-1の発現を検討したが、いずれも発現増加は検出されず、融合タンパク質は受容体を介したシグナルを誘導できないことが示唆された。 | |||
河部 剛史 アブストラクト 研究報告書 | 東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 免疫学分野 | T細胞の自己反応性の持つ免疫学的意義の解明 | 100 |
CD4 T細胞は獲得免疫に必須のリンパ球であるが、我々は同細胞中に、自己抗原認識依存的に産生される「MP細胞」を報告した。MP細胞は病原体感染時に自然免疫機能を発揮し得る特徴的な細胞であるが、同細胞の持つ自己抗原反応性からは、その過剰活性化により自己免疫疾患が惹起され得る可能性も示唆される。そこで本研究ではMP細胞の分化・活性化機構や自己免疫活性を解明することを目的とした。研究の結果、MP細胞は腸炎、肺炎、腎炎などの多彩な炎症を惹起しうること、このような炎症原性は健常状態では制御性T細胞により恒常的に抑制されていることが判明した。また、MP細胞自身が制御性T細胞へと分化し、炎症活性を自ら抑制していることも分かった。以上より、MP細胞は炎症惹起能という病理機能を有すること、同活性はMP内在性および外因性の二つの機序により恒常的に抑制されていることが明らかになった。 | |||
香山 雅子 アブストラクト 研究報告書 | 大阪大学感染症総合研究拠点 生体応答学チーム | 上皮細胞-リンパ球相互作用による肺恒常性維持の分子機構の解明 | 100 |
気道上皮細胞は、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルス感染の最前線に位置する細胞である。体内と体外を隔てる物理的なバリアとして機能するだけではなく、ウイルス感染を感知し、免疫系による生体防御応答を誘導する重要な機能を担っている。肺の上皮細胞にはI型、II型と呼ばれる機能の異なる二つの細胞が存在する。ウイルス感染後の組織修復にはAT2細胞の自己再生とAT1細胞への分化が極めて重要であると考えられるが、これを担うAT2細胞の内的・外的因子は十分理解されていない。本研究ではウイルス感染によって起きた組織損傷を効率よく修復する分子メカニズムを解き明かすことを目的とし、AT2細胞の増殖・生存、AT1細胞への分化を誘導する因子の候補として、MHCクラスII分子の発現制御因子であるCD74に焦点をあて、肺上皮細胞(AT2細胞)の増殖、分化に果たす役割、免疫系細胞の活性化・分化における役割を解析した。 | |||
澤田 雄宇 アブストラクト 研究報告書 | 産業医科大学医学部 皮膚科学教室 | 皮膚細菌由来の短鎖脂肪酸による炎症性皮膚疾患のエピジェネティクス機構の関与 | 100 |
皮膚常在菌由来の短鎖脂肪酸が皮膚のエピジェネティクス修飾に与える影響を解析するため、乾癬やアトピー性皮膚炎などの炎症性皮膚疾患モデルマウスを用いて検討を行った。短鎖脂肪酸をアガーに含有させ皮膚に密着させることで、その効果を最大化したところ、短鎖脂肪酸が炎症性サイトカイン(IL-17、IL-23)の発現を調整することが明らかになった。また、アトピー性皮膚炎モデルでは短鎖脂肪酸がTSLPやIL-13の発現を促進し、MAPKシグナル経路の活性化による炎症の悪化が確認された。本研究は、短鎖脂肪酸を標的とした新規治療法の可能性を示唆するとともに、エピジェネティクスを介した皮膚トレランス破綻のメカニズム解明に貢献するものである。 | |||
住田 隼一 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学大学院医学系研究科 皮膚科学 | 皮膚免疫細胞の遊走を制御する新機構の解明 | 100 |
本研究では、皮膚臨床検体を用いた解析から皮膚免疫細胞の遊走を制御する新規シーズを見出し、解析・検討を展開した。得られたシーズの中から注目した分子について、遺伝子改変マウスと疾患マウスモデルを用いて実験を行い、細胞株や初代培養細胞を用いた実験も必要に応じて実施した。その結果、皮膚免疫細胞の遊走を制御する新規分子機構を解明できつつあるが、より詳細な機序を解明すべく、今後も解析を継続する予定である。本研究で得られた結果は、ヒト臨床検体の解析から得られた結果をもとに研究展開しているため、ヒト疾患の実臨床に演繹できる可能性が高い。また、本研究で注目している分子は、炎症性皮膚疾患に対して現在臨床で用いられている薬剤のターゲットとは異なる。このため、本研究で着目している分子が治療薬開発につながれば、既存の治療に代わる薬剤として、あるいは併用薬として、臨床・治療に貢献できる可能性がある。 | |||
谷口 浩二 アブストラクト 研究報告書 | 北海道大学医学部 病理学講座 統合病理学教室 | 免疫細胞を介した炎症記憶現象メカニズムの解明 | 100 |
近年、免疫細胞や組織幹細胞が過去の感染や損傷による炎症の記憶を持っていて、この記憶により次回の感染や損傷に対して速やかに応答できる「炎症記憶」という現象が皮膚で報告され注目されている。組織傷害により引き起こされた炎症が炎症性サイトカインや増殖因子を介して多くのシグナル伝達経路・転写因子を活性化し、組織修復・再生を促進するが、「炎症記憶」のメカニズムの1つとして炎症性サイトカインによるエピゲノム変化が想定されている。 腸などの他の臓器において皮膚と同様の炎症記憶現象があるかは まだ検討されていないが、腸上皮細胞は組織傷害を感知する事ができ、腸においても炎症刺激による記憶がある可能性が高いと考えた。 今回の研究においては、免疫細胞や上皮幹細胞を中心とした腸の炎症記憶の重要性とその分子メカニズムを明らかにする事を目的とする。 | |||
南宮 湖 アブストラクト 研究報告書 | 慶應義塾大学医学部 感染症学教室 | 肺非結核性抗酸菌症患者の宿主疾患感受遺伝子の機能解析 | 100 |
肺非結核性抗酸菌(NTM)症は、中高年女性や既存肺疾患患者に多い難治性の慢性進行性呼吸器感染症であり、日本では罹患率が急増し、結核を超える死亡者数を記録している。申請者は、NTM症の日本における疫学や疾患感受性遺伝子CHP2を明らかにし、CHP2が気道上皮細胞に特異的に発現し、MAC感染症において発現が低下していることを報告した。本研究では、CHP2の機能解析を目的に、in vitroモデルやMAC感染モデルマウスを用いた検討を行った。結果、CHP2が感染制御に重要な役割を果たすことが示唆され、新規治療標的としての可能性が示された。 | |||
山本 雄介 アブストラクト 研究報告書 | 国立がん研究センター研究所 病態情報学ユニット | 血液中を循環するがん由来エクソソームの病態生理学的な機能解析 | 100 |
本研究課題では、がん細胞から分泌され血中や体液中を循環する細胞外小胞エクソソームが、転移や腫瘍微小環境に及ぼす影響の解明を試みた。エクソソームは細胞が分泌する小胞で、生体情報を他の細胞に伝達する役割があり、特にがん細胞ではその分泌量が多く、がんの進行に関連するとされる。本研究の背景として、がん細胞特異的に高発現する遺伝子PSAT1がエクソソーム分泌を促進することが明らかになっており、PSAT1遺伝子を操作したがん細胞を移植することで、マウス生体内のエクソソームの病態生理的な機能を解析した。マウス乳がん細胞株の骨転移モデルを用いることで、PSAT1遺伝子を抑制し、エクソソームの分泌量を低下させることが、がん細胞の転移の抑制に繋がることを見出した。つまり、エクソソーム分泌抑制ががん進展・転移の抑制に繋がる可能性があると結論づけられた。この成果は新たな治療法の開発基盤となる可能性がある。 | |||
渡辺 玲 アブストラクト 研究報告書 | 大阪大学大学院医学系研究科 皮膚科 | 皮膚resident memory T細胞を介した食餌性肥満の皮膚疾患への影響 | 100 |
一般的に肥満者では炎症応答が増悪し、複数の皮膚疾患で肥満者での発症・増悪リスクの上昇が報告されている、一方、感染症や悪性腫瘍の発症率が高く、獲得免疫低下が推察される側面も存在し、食餌性肥満が炎症局所における獲得免疫発揮機構に及ぼす影響は未だ明確でない。本研究は、ヒト皮膚における獲得免疫機能が食餌性肥満により受ける影響を、皮膚resident memory T細胞(TRM)を軸として検証し、食餌性肥満におけるTRMの機能変容が皮膚疾患の発現型に及ぼす影響を探究することを目的とした。疾患皮膚TRMの密度、プロファイルの同定、また、疾患症例の血中からのinducible TRMの誘導効率やそのプロファイルの相違を見出し、これらの特徴の肥満により受ける影響を解析した。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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城下 郊平 アブストラクト 研究報告書 | 国立国際医療研究センター 生体恒常性プロジェクト | 遺伝子編集後造血幹細胞の静止期性再獲得に着目した新規細胞療法の開発 | 100 |
造血幹細胞(HSC)は遺伝子細胞療治療の重要なリソースであり、静止期(G0期)に留まり高い幹細胞機能を維持しているが、遺伝子編集の過程で静止期性を喪失する。これまで遺伝子編集後HSCの機能改善を目指した編集技術と体外増幅培養技術の最適化・改良が進められてきたが、ゲノム編集後HSCの細胞周期特性、特に「再静止期化」に注目した研究は限られていた。そこで本研究では、再静止期化のメカニズムを解明し、遺伝子編集後HSCに応用することを目指した。再静止期化過程のトランスクリプトーム解析からHSCの再静止期化候補分子として、ライソゾーム酵素CathepsinF(CTSF)を同定した。in vitroの再静止期化実験の結果、CTSFの欠損・過剰発現はHSCの再静止期化を阻害・促進することを見出した。CTSFを中心とした再静止期化機構の解明とその応用により、HSCの新規遺伝子治療技術の創出が期待される。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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小出 周平 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究 幹細胞分子医学分野 | 分化障害型造血幹細胞の増幅様式 | 100 |
若齢期の造血幹細胞は多様な造血細胞をバランスよく分化供給するが、加齢期の造血幹細胞は骨髄球系へ分化が偏ることで造血システムの恒常性が低下する。さらに、このような加齢造血幹細胞の分化障害は骨髄異形成症候群をはじめとした造血器腫瘍の温床となるとされる。 本研究では、造血幹細胞の加齢変化を明らかにするために、若齢と加齢マウスの造血幹細胞を比較解析した。その結果、加齢造血幹細胞において分子シャペロンであるClusterin (Clu)が発現上昇し、Clu陽性造血幹細胞は幹細胞活性が著しく低下していることを明らかにした。本研究によりCluは、加齢に伴う造血幹細胞の機能低下を特徴づける新たなマーカーとなる可能性が示され、Cluは血液疾患の新たな治療法開発につながることが期待される。 | |||
藪下 知宏 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学薬学系研究科 分子腫瘍薬学 | 造血幹細胞の非対称分裂を支持するシングルセルレベルでの分子基盤の解明 | 100 |
造血幹細胞(HSC)は、自己複製能と多分化能を持ち、生涯にわたり造血を維持する。本研究では、HSCから巨核球系へ速やかに分化するバイパス経路に着目し、その制御因子としてPlcl1を同定した。Plcl1欠損マウス(KOマウス)では、血小板バイアスを有するHSC(CD41陽性HSC)が増加し、細胞内カルシウム濃度が低下していることが判明した。また、加齢モデルやストレス造血モデルにおいて、KOマウスは血小板バイパス経路の活性化による迅速かつ持続的な血小板回復を示した。これらの結果から、Plcl1がHSCの血小板バイアスおよび血小板バイパス経路の制御に関与することが明らかとなった。本研究は、血小板減少症や化学療法後の造血再建における新規治療法の開発につながる可能性を示唆している。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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大島 司 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学医学部附属病院内科学 循環器内科 | 心臓マクロファージの加齢性変化を介した加齢に伴う心機能低下の機序解明 | 100 |
未だ治療法の存在しない加齢に伴う心不全は、医療費も莫大であり、有効な治療法開発が経済的にも医学的に重要である。心臓マクロファージの組織保護的機能に着目し、mRNAシークエンスによる網羅的解析、スクリーニングを重ねた結果、若年のマクロファージが分泌するCCL3は心臓保護的作用があるが、加齢に伴うその分泌が減少することが心機能低下につながる可能性を見出した。CCL3を標的とした治療法が、今後、加齢を背景とする心不全の新規治療薬になる可能性を示唆している。 | |||
木下 真直 アブストラクト 研究報告書 | 山梨大学医学域 皮膚科学講座 | 好中球を標的としたStevens-Johnson症候群の治療機序と新規薬剤の創出 | 100 |
Stevens-Johnson症候群(SJS)の病態に関して、好中球がNeutrophil extracellular traps(NETs)を形成し、表皮細胞死を惹起するという自然免疫機序を明らかにした。さらに本研究ではSJSの既存治療薬のうち免疫グロブリンがNETs生成を阻害する作用があることがわかった。さらにSJSにおけるNETsを分解する機構の障害も明らかになった。NETsを中心とする自然免疫病態に対するSJS治療薬の作用機序を解明し、さらにNETsを抑制する新規治療薬創出を目指す。 | |||
田山 舜一 アブストラクト 研究報告書 | 東北大学大学院医学系研究科 免疫学分野 | 活性イオウによる腸管炎症制御機構の解明 | 100 |
炎症性腸疾患(IBD)は、腸管局所におけるT細胞の異常応答によって惹起されることが知られており、IBDの治療標的としてT細胞内代謝経路が注目を集めている。本研究により、T細胞内因性のCARS2が同細胞の細胞増殖を抑制することが証明された。定常状態においては、高齢のCars2ヘテロマウスにおいて腸管に集積するCD4 T細胞数が増加した。リンパ球減少状態においては、Cars2ヘテロCD4 T細胞で細胞周期エントリーの亢進、細胞周期抑制因子Trp53の発現低下が認められ、大腸炎の増悪し、活性イオウのドナー分子の投与によりこれらの反応が回復した。さらに、クローン病患者の公開データベースの再解析により、CARS2の発現低下が疾患発症と相関することが明らかとなった。以上より、依存的活性イオウ代謝は腸管局在性CD4 T細胞の恒常性維持に関与しており、同代謝の異常は腸管炎症に結び付くことが明らかとなった。 | |||
中野 正博 アブストラクト 研究報告書 | 理化学研究所 生命医科学研究センターヒト免疫遺伝研究チーム | 高精度シングルセル解析による関節リウマチ重症化機構の解明 | 100 |
関節リウマチ (RA) は関節滑膜が侵される自己免疫疾患であり、既存治療に反応不十分な重症例が臨床での重要課題である。RAの重症化には特定の細胞集団 (病原性細胞) が関与し、その機能は特定の遺伝子 (key driver gene) により制御されると想定される。本研究では、高精度シングルセル解析をRA患者末梢血に応用することで、重症RA患者で増多する病原性細胞とそのkey driver geneを精密に同定し、その機能を解明することを目的とする。今年度は重症、軽症を含むRA 90例の末梢血検体に対して高精度シングルセル解析を完了した。これと並行し、大規模公共シングルセルデータを用いた従来のシングルセル解析手法とは異なる新たな解析パイプラインの確立に成功した。本解析手法を今回のデータに応用することで、RAの病原性細胞とkey driver geneを精密に同定することが可能となる。 | |||
舟崎 慎太郎 アブストラクト 研究報告書 | 熊本大学国際先端医学研究機構 がん代謝学研究室 | 選択的mTORシグナル調節による、γδT細胞分化誘導機構の解明と抗腫瘍効果への応用 | 100 |
gdT細胞は胸腺においてabT細胞と分岐し成熟するが、その詳細なカニズムは不明である。我々は、代謝アダプタータンパク質FLCNによるmTOR基質の選択的制御機構について着目し、Flcn欠損によってgdT細胞分化が促進されることを示した。Flcn欠損はgdT細胞のうち、IFN-g産生サブセットへの分化を特に促進させていることがわかり、さらに遺伝子発現差解析より、Flcn 欠損の胸腺gdT細胞ではInterferon pathwayに関連するシグニチャーの亢進が見られた。また、強いTCRシグナルによって分化するiNKT細胞分化を制御する遺伝子であるPLZFの発現がgdT細胞分化促進とともに上昇し、抗腫瘍性のサブセットであるNKT-likeなgdT細胞(gd iNKT細胞)の分化を誘導している可能性が示唆された。 | |||
三宅 健介 アブストラクト 研究報告書 | 東京医科歯科大学 統合研究機構高等研究院 炎症・感染・免疫研究室 | 高感度1細胞解析の活用による好塩基球の最終分化機構の解明 | 100 |
好塩基球は希少な免疫細胞であるが、近年アレルギー炎症や寄生虫感染防御など多様な免疫反応に重要であることが認識されつつある。しかしながら、その希少さもあり、好塩基球分化についての理解は立ち遅れていた。申請者は以前の研究にて、高感度1細胞解析の活用により、新規好塩基球前駆細胞としてプレ好塩基球を同定した。しかしながら、プレ好塩基球から成熟好塩基球への分化の分子機構は明らかではない。そこで、本研究ではプレ好塩基球から成熟好塩基球への分化を司る転写因子の同定を試みた。まず、in silico解析の活用により、好塩基球成熟をつかさどる候補転写因子としてFoxO1を同定し、その機能を解析した。その結果、好塩基球特異的FoxO1欠損マウスでは、成熟好塩基球の細胞運動能や遊走能が障害され、その結果、末梢での好塩基球数の減少ならびに皮膚アレルギー炎症の減弱が認められるという可能性が示唆された。 | |||
米倉 慧 アブストラクト 研究報告書 | 京都大学 皮膚科 | 慢性光線性皮膚炎の病態解明と新規治療戦略の構築 | 100 |
慢性光線性皮膚炎(CAD)の病態解明と新規治療戦略の構築を目的とした研究である。CADに対する抗IL-4/13受容体抗体(デュピルマブ)使用例のシステマティックレビューを実施し、16例中31%で完全寛解、69%で部分寛解を認めた。またデュピルマブで増悪したCAD症例(自験例)を報告した。CAD患者、アトピー性皮膚炎患者、乾癬患者の皮膚生検検体を用いて免疫関連遺伝子の発現解析を行った結果、CADでは2型炎症関連遺伝子に加え、Th17関連やTh1関連の遺伝子発現も認められた。特にJAK-STAT経路が複数の炎症経路の中心的なハブとして機能していることが判明し、JAK阻害薬が新規治療選択肢となる可能性が示唆された。本研究は、CADの病態における複雑な免疫応答の存在を明らかにし、新たな治療戦略の開発に向けた重要な基盤を提供した。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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安部 佳亮 アブストラクト 研究報告書 | 筑波大学医学医療系 血液内科 | 大規模マルチオミクス解析によるリンパ腫免疫環境変化の探索 | 100 |
濾胞性リンパ腫は発生頻度が高く、再発率が高い。近年、腫瘍浸潤T細胞の重要性が認識されているが、どういった特徴を持つT細胞がより直接的な影響力を有しているのかは理解されていない。本研究では、シングルセルRNAシーケンスによる腫瘍浸潤T細胞の解析、ヒトサンプルを用いた生物学的特性についての実験、多重免疫染色・空間解析の多数例への適応を実施し、濾胞性リンパ腫に特異的に増加している特徴的なT細胞集団を複数同定した。これらの細胞は特異的な病理学的分布パターンを示し、さらにin vitroの実験結果から抗リンパ腫活性を有していた。さらに、これらの細胞の割合は有意に濾胞性リンパ腫患者の予後と関係しており、独立した予後予測因子として同定された。これらは濾胞性リンパ腫の病態の理解に役立つ知見であり、今後の臨床的マネジメントを飛躍させる一助となることが期待される。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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(留学先) | |||
新垣 清登 | 国立がん研究センター研究所 分子腫瘍学分野 | びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対するLTBR CAR T細胞療法の開発 | 500 |
New York Genome Center, U.S.A. | |||
中山 正光 | 東京大学医学部附属病院 | 人工知能を中核とした希少血液疾患向け遺伝子治療創薬プラットフォームの実現 | 500 |
Brigham and Womenʼs Hospital Harvard Medical School, U.S.A. |