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血液医学分野 「令和3年度」

令和3年度(第40回)
血液医学分野 一般研究助成金受領者一覧
<交付件数:20件、助成額:2,000万円>

血栓止血・血管機能(各種臓器の生理、病態など)とその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
淺田 騰
アブストラクト
研究報告書
岡山大学病院 血液腫瘍内科白血病-神経-血管連関解明と局所的末梢神経制御による新規治療法の開発100
急性白血病による骨髄内の末梢神経ならびに骨髄微小環境の変容を捉えるために、マウス生体内で白血病細胞を可視化できる白血病細胞を作製した。骨髄内ニッチ細胞、血管内皮細胞、末梢神経(交感神経, 感覚神経)を可視化する遺伝子改変マウスを作製し、骨髄内イメージングによりいずれも可視化に成功している。今後、白血病細胞を輸注した骨髄微小環境/神経可視化マウスの骨髄微小環境/神経変容の解析を行い、さらに、局所的末梢神経制御による治療効果を検証する。
大森 司
アブストラクト
研究報告書
自治医科大学医学部 生化学講座 病態生化学部門プロテインC欠損症に対する遺伝子治療法の開発100
プロテインC(PC)遺伝子の両アレル異常によるPC欠損症は、出生直後から新生児電撃性紫斑病という全身に致死的な血栓形成をきたす難治性疾患である。本研究ではPC欠損症の治癒を目指した画期的治療法の開発を目的とした。複数のPC変異体を作製し、活性型PCとして分泌される配列を同定した。活性型PCは濃度依存性にヒト血漿凝固時間を延長した。野生型マウスに対して、活性型PCを発現するAAVベクターを投与すると濃度依存性にマウス血中の凝固時間、第V因子活性を阻害した。新生仔PC欠損マウスに対して、活性型PC配列をin vivoゲノム編集治療によって発現させると、PC欠損マウスの長期生存が得られた。以上より、PC欠損症に対して活性型PCを利用した遺伝子治療・ゲノム編集治療が一つの治療選択肢となりうることが示唆された。
柏木 浩和
アブストラクト
研究報告書
大阪大学大学院医学系研究科 血液・腫瘍内科学新規実験系を用いたαIIbβ3シグナル機構の解析とその病態への影響に関する検討100
インテグリンαIIbβ3はフィブリノゲンやフォンウィルブランド因子の受容体として血栓・止血において中心的役割を果たしているが、従来、血小板産生には関与しないと考えられていた。しかし近年αIIbβ3活性化を誘導する変異と血小板減少症との関連が明らかにされ、αIIbβ3の新たな役割として注目される。今回、我々は新たなβ3遺伝子異常を有する血小板減少症家系を見出し、その変異ノックインマウスにおいてヒトと同様のphenotypeを確認できた。今後このマウスを用いることにより、αIIbβ3と血小板機能および産生に関し、そのメカニズムを解明することが可能となってきた。
木戸屋 浩康
アブストラクト
研究報告書
福井大学学術研究院医学系部門 血管統御学白血病の促進に働く血球-血管における微小環境クロストークの解明100
白血病の進展における骨髄微小環境の変化に着目し、特にこれまで未解明であった骨髄血管の解析を進めた。白血病マウスの大腿骨の血管を解析すると、白血病の発症に伴って骨髄中の血管数の増加や血管構造の異常が起きていることが確認できた。さらに、白血病マウスの異常化した骨髄血管から特異的に産生される分子を同定し、血管内皮細胞特異的に遺伝子を欠損するマウスを作成した。これらの遺伝子欠損マウスに白血病細胞を移植することで白血病を誘導したところ、白血病細胞の異常増殖やリンパ節腫脹および脾腫の抑制が認めら、さらに生存期間も有意に延長することが確認された。白血病における骨髄血管の異常化は、新たな治療標的となる可能性が示され、臨床において求められている白血病の根治を達成する治療法の開発に繋がるものと期待できる。
西 裕志
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院 腎臓・内分泌内科血栓性血小板減少性紫斑病の二次的発症の機序解明100
実験的糸球体腎炎を誘導したADAMTS13欠損マウスでは血栓性血小板減少紫斑病thrombotic thrombocytopenic purpura (TTP)に類似した表現型が見られた.この表現型はリコンビナントADAMTS13投与によって生存率が改善した.また,マウス血液の高速流体イメージングではADAMTS13欠損マウスでは野生型マウスよりも多い循環血小板凝集塊が存在していた.以上より,血中のADAMTS13が不足していることが確かに循環血中に血小板凝集を引き起こし,多臓器血栓が形成される原因であることがわかった.今後さらに血液・血管内の各コンパートメントの血栓形成に対する寄与を検証していく.
吉岡 和晃
アブストラクト
研究報告書
金沢大学医薬保健研究域医学系 血管分子生理学分野血管内皮の特殊オートファジー経路を介したウイルス感染制御機構100
本研究では、新型コロナウイルス(SARS-CoV2)が血管内皮細胞に侵入する際、その受容体であるACE2に相互作用した後、エンドサイトーシスによってインターナリゼーションすることに着目し、クラスリン依存性エンドサイトーシスに必須なクラスII型PI3Kアイソフォーム・PI3K-C2αが血管内皮細胞へのウイルス侵入調節機構を解析することを目的とした。その結果、これまでのオートファジー研究で明らかにされてきたクラスIII-PI3K・Vps34によるホスファチジルイノシトール−3−リン酸(PI3P)産生を介したオートファゴソーム形成(古典的オートファジー)とは異なったオートファジー経路として、クラスII-PI3Kアイソフォーム・PI3K-C2αを介した特殊なオートファジー系の存在が明らかとなった。

輸血・細胞療法とその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
荒木 真理人
アブストラクト
研究報告書
順天堂大学大学院医学研究科 輸血・幹細胞制御学腫瘍性リガンド変異型CALRの切断メカニズムの解明100
フィラデルフィア染色体陰性の骨髄増殖性腫瘍(Myeloproliferative Neoplasms: MPN)の発症原因分子である、変異型CALR蛋白質の腫瘍原性に必要なドメインを切断する分子基盤を明らかにした。本研究により、蛋白質分泌経路上に存在するFurin/PCSK3が、変異型CALR蛋白質の切断に関与することが明らかになった。さらにこのFurin/PCSK3は、9個の類似するPCSKファミリーを構成していることから、PCSKファミリーに属する他のプロテアーゼも、変異型CALR蛋白質の切断に関与する可能性が強く示唆された。本研究で得られた知見を基盤として、変異型CALRの切断を司る分子基盤を標的としたMPNの新規治療戦略の開発が大いに期待される。
大石 篤郎
アブストラクト
研究報告書
杏林大学医学部 肉眼解剖学教室白血病患者血清中のリガンド探索を通じた新規治療開発100
現在臨床で使われる薬剤の30%はGPCRを標的としている。ヒトゲノム中約800あるGPCRのうち半数は嗅覚受容体で残りの約半数が非嗅覚受容体で、この非嗅覚受容体のうち未だ100の受容体がリガンドが見つかっていないオーファン受容体である。
我々は白血病腫瘍で高発現するオーファンGPCRを見出した。これらオーファンGPCRのリガンド発見は新たな白血病治療法の開発につながることが期待されるため、リガンドスクリーニングプラットフォームの開発とリガンドスクリーニングに始まり、オーファンGPCRが腫瘍化に関与するメカニズムの探索と創薬への道筋を目指した。本助成期間内ではリガンドスクリーニングプラットフォームの完成を目指した。
吉見 昭秀
アブストラクト
研究報告書
国立がん研究センター研究所 がんRNA研究ユニット核酸医薬を用いた新規白血病治療法の開発100
スプライシング因子(SF)の遺伝子変異が様々ながんで高頻度に認められることから、発がんにおけるスプライシング異常の機能的役割の解明とその治療標的化は今後のがん治療において重要な位置を占める。一方で、SF変異がんは高齢者に多く、ほとんどのがん種では有効な治療法がないことから、SF変異を特異的に標的とする治療法の開発は喫緊の課題である。本研究では、SFに遺伝子変異を有する白血病を対象として、SF変異の下流に生じる、鍵となるスプライシング異常を修正するようなアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を開発し、同時に複数のASOにより複数の標的スプライシング異常が修正されることを示した。現状では予後不良なSF変異がんに対する治療法は開発されていないが、本研究開発が順調に進めば、SF変異を有するがんに対する特異的な治療法につながり、白血病に関して予後改善に寄与する可能性がある。

血液・血管に関連する再生医学

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
崎元 晋
アブストラクト
研究報告書
大阪大学医学部医学系研究科 眼科学網膜血管内皮コロニー形成細胞の調節機構の解明と疾患モデルへの関与100
糖尿病網膜症は、先進国における生産年齢の失明原因の第一位であり、非常に重要な疾患である。近年抗VEGF剤により画期的な治療効果がもたらされるようになったが、反復眼内注射が必要など改善を要する点があるため、新たな治療の開発が喫緊の課題である。本研究では、組織中に存在し、血管形成に関わるとされる網膜の血管内皮幹細胞を同定し、幹細胞システムを解明することを目的とした。報告者は、網膜血管(およびニッチ環境)に存在する網膜血管内皮幹細胞を同定し、幹細胞が豊富に存在するニッチ環境を同定することに成功した。さらに内皮幹細胞マーカーを用いることで、虚血性網膜症モデルにおける幹細胞の関与を明らかにした。
礪波 一夫
アブストラクト
研究報告書
東京大学大学院医学系研究科 分子細胞生物学専攻 代謝生理化学分野内皮細胞固有の細胞動態を生み出す遺伝子の再構成による非血管細胞からの血管構造誘導の試み100
本研究では、これまで血管新生のモジュールとなる内皮細胞に特徴的な協調運動として同定してきた細胞接触により亢進する直線的運動と回転運動を制御する責任分子を同定し、これら分子システムの遺伝子導入により非血管細胞から内皮細胞固有の細胞動態や血管構造を誘導することを目的とした。PECAM1、遺伝子Fおよび遺伝子Tに着目し、遺伝子ノックアウトおよび過剰発現の実験から、PECAM1は内皮細胞間の安定的な接着に、遺伝子Fは運動の方向性の維持に、遺伝子Tは内皮細胞の発芽伸長に寄与することを明らかとした。そこで、VE-カドヘリンと上記遺伝子群を非血管細胞で過剰発現した結果、上皮細胞であるMDCKにおいて、内皮細胞に類似した回転運動の亢進を示唆する所見を観察することが出来た。この結果は、これら遺伝子による内皮細胞固有の細胞動態の誘導により、非血管細胞において血管構造を再現し得る可能性を期待させるものである。
三原田 賢一
アブストラクト
研究報告書
熊本大学国際先端医学研究機構 幹細胞プロテオスタシスタンパク質構造変化から紐解く造血幹細胞の制御機構100
造血幹細胞は全種類の血液細胞を生涯にわたって供給できる能力を持つが、体外培養や過剰な分裂刺激の下では能力が著しく低下する。申請者は造血幹細胞がタンパク質の折りたたみ能力が低いこと、化学シャペロンである胆汁酸が造血幹細胞の造血再構築能を促進することを報告してきた。本研究では、造血幹細胞の能力を規定するタンパク質が、他の血液細胞と比べて異なる立体構造を持つと仮定し、熱安定性を利用した網羅的タンパク質構造比較を用いて造血幹細胞で構造変化を示すタンパク質を同定し、その機能を解析する。

感染・免疫・アレルギーとその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
井上 毅
アブストラクト
研究報告書
大阪大学免疫学フロンティア研究センター 分化制御研究室B細胞受容体による記憶B細胞分化制御100
新型コロナウイルスやインフルエンザウイルス感染に対するワクチン療法は免疫記憶誘導を根幹としており、申請者はその反応の中心となる記憶B細胞が生体内で産生されるメカニズム解明に注力してきた。申請者は胚中心において記憶B細胞分化への運命決定を司る細胞因子の一つとしてB細胞表面受容体の発現勾配に着目し、その制御メカニズムの解明を目的とした。本研究では表面発現量や、生化学性質が紐づいたインフルエンザウイルス抗原特異的B細胞のBCR配列を取得し、in vitroでB細胞にその配列をノックインすることに成功し、研究目的のための基盤データを得ることができた。
江川 形平
アブストラクト
研究報告書
京都大学医学研究科 皮膚科皮膚駐在性メモリーT細胞に着目した、アトピー性皮膚炎寛解維持療法の確立100
2型皮膚炎モデルである遅延型過敏反応を用いて皮膚のCD4陽性組織駐在性メモリーT細胞(CD4+Trm)の形成メカニズムを解析した。皮膚炎の寛解後も多数のCD4+Trmが皮膚に存在することが確認された。CD4+Trmは主に真皮血管周囲でクラスターを形成し、同クラスター内でCD301+樹状細胞(cDC2)と共局在していた。cDC2を除去するとCD4+Trmクラスターの形成は阻害され、皮膚炎も抑制された。またCxcr6を介するシグナルがCD4+Trmクラスターの形成に必須である可能性が示唆され、その阻害実験等により臨床応用への可能性を探っている。Trmについての知見を増やすことはアトピー性皮膚炎などの疾患コントロールを考えるうえで重要と考えられ、Trmをターゲットとした治療戦略が今後の研究の発展で可能になってくるかもしれない。
小野寺 康仁
アブストラクト
研究報告書
北海道大学大学院医学研究院 医理工学グローバルセンターウイルス生体内動態の迅速検査法の開発100
COVID-19に限らず、新規ウイルスの出現とパンデミックは、人類にとってこれからも大きな脅威であり続ける。新たに出現した未知の性質のウイルスが生体内でどのような挙動を示すのか、それを容易かつ迅速に解析する手法を確立できれば、感染拡大や病態悪化の阻止に大きく貢献できると考えられる。本研究では、近年のアウトブレイクの多くを占めるエンベロープ型ウイルスについて、培養細胞で増幅・精製して実験動物へ投与するのみで感染・増幅の様子をリアルタイムで解析できるような汎用解析技術の開発を目指す。より具体的には、実験動物にウイルスと発光基質(ルシフェリンなど)を投与することで、感染・増幅部位を化学発光により特定できるような手法を確立する。特殊な遺伝子を導入した培養細胞を用いてウイルスを感染・増幅させることで、ウイルス自体のゲノム解析や遺伝子操作を行わずとも生体内動態を解析できるシステムを構築する。
佐藤 精一
アブストラクト
研究報告書
北海道大学遺伝子病制御研究所 分子生体防御分野ウイルス感染における自然免疫系バックアップディフェンス機構の構築100
DNAウイルスだけではなくインフルエンザ、EMCV、NDV 等のRNAウイルス感染においてもDNAセンサーcGAS依存的にcGAMPが産生され、cGAMPが細胞外へと放出され、細胞膜局在STINGを活性化していることが見出された。細胞外cGAMP分解酵素であるENPP1に対する阻害剤であるARL67156を投与した結果、ウイルス感染時にSTINGリガンドであるcGAMPの上昇によりモノサイトに特異的に存在している細胞膜局在STINGにより自然免疫応答が活性化され、ウイルスを抑制することを見出した。興味深いことに、RIG-Iのシグナルが働かないマウスMAVS KOにおいても、ウイルス感染時にcGAMPの上昇が認められることから、RIG-Iによる第一関門が破られた場合の、自然免疫系第二関門(バックアップディフェンス)機構であることを示唆しており、このcGASによるRNAウイルス感知という全く新しい機構であることが示唆された。
瀬川 勝盛
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学難治疾患研究所 医化学分野“eat me”シグナルの制御による悪性リンパ腫の治療基盤の開発100
フリッパーゼは、リン脂質であるホスファチジルセリンの膜動態を制御する膜タンパク質である。これまでの研究により、フリッパーゼが悪性リンパ腫の新しい抗腫瘍ターゲットとして機能することが示唆されている。本研究では、フリッパーゼの阻害による抗腫瘍効果のメカニズムを解明し、リン脂質膜動態の制御による悪性リンパ腫の新しい治療基盤を開発することを目指して研究を遂行した。
田中 良哉
アブストラクト
研究報告書
産業医科大学医学部 第1内科学講座関節リウマチにおける分子標的薬を用いた臨床・免疫情報に基づくprecision medicineに関する研究100
関節リウマチの臨床情報と免疫情報を基盤とした分子標的薬の使い分けを目的とし、下記の結果を得た。
1) 224名のRA患者が本研究に参加した。ベースラインでの疾患活動性はSDAI 27.4であった。2) RAでは健常人に比してCD4+ effector T細胞、Activated Tfh細胞、Effector B細胞、plasmacytoid DCが増加した。3)末梢血免疫フェノタイプのクラスター解析により、免疫学的異常に乏しい群、強い群、非常に強い群に三分できた。4) C群では、Effector B細胞とplasmablastの上昇が見られ、さらに、Th17/Tfh dominant群、Treg/Tfh dominant群に分けられた。5) この4群の疾患活動性は同等だったが、治療反応性はTh17/Tfh dominant groupではアバタセプトが、Tfh/Treg dominant groupではトシリズマブが効果を認める傾向が見られた。
以上より、関節リウマチの臨床情報と免疫情報を基盤とした分子標的薬の使い分けの可能性が示唆された。
早河 翼
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院 消化器内科胃内細菌による粘膜免疫・発癌制御機構の解明と治療応用100
本研究では、これまでの解析結果を発展させ、ピロリ菌陰性時代に胃癌を引き起こす第二の原因菌を同定し、非ピロリ胃内細菌と宿主免疫応答による発癌制御機構を解明することで、新時代の胃癌予防・治療法を確立することを目的とする。免疫チェックポイントに関連する応答を含む宿主免疫系と胃内細菌群との関連を解析し、その機序を解明することによって、最終的に胃癌に対する免疫チェックポイント阻害療法の効果増強や、癌死亡を減少させることを目指したい。本研究の解析結果からは、マウスモデル・ヒトサンプルの解析結果より、特定の胃内細菌(特にFusobacterium・Neisseria)が胃粘膜の免疫反応を制御し、その後の発癌や腫瘍免疫に関与している可能性が示された。
平橋 淳一
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部 総合診療科白血球細胞外トラップ抑制による急性腎障害新規治療開発100
白血球細胞外トラップ(ETs)現象は、自己免疫疾患や敗血症などの難治性炎症性疾患、血栓性疾患、癌の転移等における重要な炎症性メディエーターである。2016年、我々はLactoferrin(LF)が、ETs放出を抑制する生体内物質であることを見出し、これを基盤として臨床応用可能なETs阻害薬開発を進めてきた。2018年マウス横紋筋融解症後急性腎障害(Crush症候群)モデルがETsに依存することを証明し、これを本薬剤開発のin vivoスクリーニングツールとした。LF 配列に含まれる陽性荷電が豊富なFK-12 配列(12アミノ酸)がETs抑制活性を担うことを見出し、これに構造改変を加えてマウスCrush症候群モデルを用いた構造活性相関研究を展開して、新規治療ペプチドFK-12AMを創製した。さらにFK-12AMの顕著な治療効果は、ETs抑制を介した全身性炎症制御に帰するものであることが判明した。

令和3年度(第1回)
血液医学分野 COVID-19関連一般研究助成金受領者一覧
<交付件数:5件、助成額:500万円>

感染・免疫・アレルギーとその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
金子 直樹
アブストラクト
研究報告書
九州大学大学院歯学研究院 口腔顎顔面病態学講座 顎顔面腫瘍制御学分野COVID-19における特異なT細胞およびB細胞サブセットの増加とその機能の解明100
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について、その治療法やワクチン開発は劇的な進捗を見せているものの、病態については未だ不明な点が多くその解明が望まれている。われわれは先行研究で、自己免疫疾患で増加し、健常者では認められない特殊なサブセットである CD4+CTLsとDN B細胞が COVID-19 においても増加することを明らかにした。 本研究では、 COVID-19 の病態形成における CD4+CTLs と DN B 細胞の役割およびその関連を明らかにすることである。肺組織および末梢血液において、CD4+CTLsとDN B細胞の増加を認めた。シングルセル解析とTCR・BCRレパトア解析を行なったところ、CD4+CTLsとDN B細胞はクローナリティーを持って増加拡大していた。さらにCD4+CTLsは細胞障害性サイトカインや線維化因子を、DN B 細胞は抗体産生に関与する分子を発現していた。同サブセットは、病態形成にダイレクトに関与し、治療標的となり得ることが明らかとなった。
早川 正樹
アブストラクト
研究報告書
奈良県立医科大学 輸血部COVID-19における重症化予想マーカーとしてのADAMTS13の有用性100
2020年1月から現在まで第7波までの新型コロナウイルス(COVID19)感染拡大を経験した。既にワクチンや抗体薬、抗ウイルス薬が普及したが、感染拡大期には医療体制の崩壊を招くことに変わりはない。治療法の開発から、その使用方法や効率的な入院基準の構築が現在の急務である。効率的医療資源使用方法の探索として新規COVID19入院患者133名の入院時のADAMTS13活性、フォンヴィレブランド因子抗原量と、入院時の重症度および入院中の重症度変化について解析を行った。既報の通り患者因子と重症度には「年齢」が最も相関した。解析より入院時のADAMTS13活性は年齢同様に重症度と強く相関し、「入院後の酸素投与の必要性」や「ICU入症などの重症化」との関係性においても年齢と同レベルの統計的有意差を有していた。医療ひっ迫時に年齢とADAMTS13活性値から重症化を予想した入院適応判断の可能性が示唆された。
林 豪士
アブストラクト
研究報告書
国立感染症研究所 ウイルス第二部腸管・呼吸器オルガノイドを用いたSARS-CoV-2に対する宿主免疫機構の解明100
本研究では、ヒト生体(in vivo)に近い性質を持つオルガノイド培養系を駆使して、SARS-CoV-2に対する宿主免疫機構を解析した。CRISPR/Cas9法を用いて、宿主抗ウイルス応答に重要な役割を担うJAK/STAT経路の構成因子であるSTAT1遺伝子が欠損した腸管オルガノイドの作製に成功した。当該細胞を用いて、SARS-CoV-2感染実験を行ったところ、親細胞と比較して顕著なウイルス増殖の促進が認められた。以上より、腸管オルガノイドにおいて、JAK-STAT経路依存的な宿主因子によりSARS-CoV-2感染が制御されていることが明らかとなった。今後さらに詳細な解析を進めることで、宿主の防御機構を利用した革新的なCOVID-19治療薬の開発に繋がることが期待される。
藤田 雄
アブストラクト
研究報告書
東京慈恵会医科大学 エクソソーム創薬研究講座新型コロナウィルス感染症重症化における宿主免疫応答予測100
新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の多くは軽症にて改善するが、一部の患者では急性呼吸窮迫症候群に至るなど重症化するため、重症化機序に基づく早期予測バイオマーカーの必要性が極めて高い。これまで幾つかの先行研究にて重症化予測マーカーが報告されているが、未だ重症例を高い診断率で判別できるマーカーは存在しない。エクソソームは、細胞が分泌する直径100nm程の脂質二重膜で囲まれた小胞で、ウィルス感染における細胞間相互作用に重要な役割を担っている。本研究ではエクソソームの内包分子の中で、申請者らの検討で同定したエクソソーム上に発現するタンパク質Aを標的として、重症化早期予測バイオマーカーキット開発を行い実用化に繋げることを目的として研究を実施した。
山田 大翔
アブストラクト
研究報告書
北海道大学遺伝子病制御研究所 分子生体防御分野喫煙による高いCOVID-19重症化リスクに関連する、自然免疫応答抑制の分子機構の解析100
SARS―CoV―2が原因ウイルスである新型コロナウイルス感染症は、現在でも、大きな社会問題となっており、その病態や治療に向けた研究は急務となっている。重症化のリスク要因として、「喫煙」が知られているが、その詳細な分子機構は不明である。特に、「喫煙」と宿主の自然免疫システムの関連性という観点から、ウイルス増殖に及ぼす影響については不明なままである。これに関連して、タバコ煙抽出物を処理したヒト肺上皮細胞では、SARS―CoV―2の複製が増強することを見出すことができていたが、その分子機序については不明であった。その結果、タバコ煙抽出物曝露によってRIG―I発現量が低下することがウイルス増殖の原因の大きな一因であることがわかった。さらに、レチノイン酸によるRIG―I誘導や、インターフェロンの産生をTIPARP阻害剤によって増強することでウイルス複製を阻害することが出来た。

令和3年度(第23回)
血液医学分野 若手研究者助成金受領者一覧
<交付件数:10件、助成額:1,000万円>

血栓止血・血管機能(各種臓器の生理、病態など)とその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
田辺 章悟
アブストラクト
研究報告書
国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 神経薬理研究部神経変性疾患の神経筋病態に寄与する血中由来因子の同定100
筋萎縮性側索硬化症 (Amyotrophic Lateral Sclerosis: ALS) は運動ニューロンが変性していく進行性の神経変性疾患である。本研究ではALSの病態によって血中由来因子の成分が変化し、ALSの神経筋病態の形成に寄与している可能性を検証した。ALSのモデルマウスであるSOD1G93Aマウスと野生型マウスの並体結合を施したところ、野生型マウスにおいて顕著な神経筋接合部の変性が観察された。また、SOD1G93Aマウスで含有量が増加している血中由来因子を同定するとともに、その発現量を調節している転写因子を特定した。同定した血中由来因子に対する機能阻害抗体をSOD1G93Aマウスに投与したところ、神経筋接合部の変性が抑制されたことに加え、坐骨神経刺激による腓腹筋の収縮が大きく観察されたことから、血中由来因子の阻害により機能的にも神経筋病態が抑制されたことが示唆された。
藤原 隆行
アブストラクト
研究報告書
東京大学医学部附属病院 循環器内科学時空間的マルチスケールイメージングによる難治性循環器疾患の病態解明100
難治性血管疾患である肺動脈性肺高血圧症および大動脈瘤・解離症候群の病態解明のため、我々は三次元可視化システムを用いた血管構造の立体解析の確立、およびヒト原因遺伝子の導入による疾患モデルマウスの作成を試みた。組織透明化技術CUBICならびに多光子顕微鏡を用いた三次元可視化システムでは、肺血管・大動脈の三次元構造を臓器全体から微細構造に至るまで描出することに成功した。またヒト疾患家系における遺伝子変異の導入およびそのほかの遺伝子変異の組み合わせにより、新規PAHおよびTAADモデルマウスの作成に成功した。その一部においては三次元的な病態像の描出に成功し、また網羅的解析より、DNA損傷がその病態に関与している可能性が示唆され、新規治療法の探索のため、さらなる病態解明を推し進めていきたい。

輸血・細胞療法とその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
苅田 聡
アブストラクト
研究報告書
大阪大学医学系研究科 細胞生物学講座赤血球形成における極性輸送制御因子EHBP1L1の役割の解明100
細胞には固有の方向性があり、それを細胞極性という。細胞極性は細胞のみならず組織、個体の機能に重要な役割を持つ。我々は低分子量GTP結合タンパク質Rab8が腸の上皮細胞の管腔(apical)面の形成に重要であり、EHBP1L1というタンパク質がRab8に結合し、apical面に向かう小胞の形成に重要であることを解明した。さらに、EHBP1L1のノックアウト(KO)マウスを作製したところ、生後間もなく死亡した。EHBP1L1 KOマウスが生後間もなく死亡する原因として、貧血および赤血球の脱核異常が示唆されたため、脱核のどの段階でEHBP1L1が重要かを解明することを目的として解析を行った。その結果、Rab8結合因子であるEHBP1L1は脱核にも重要と判明した。Rab8とRab10は相同性が高いため、Rab8/10は共にEHBP1L1-Bin1-dynamin系によって赤芽球の極性形成に関与することが示唆された。
近藤 健太
アブストラクト
研究報告書
滋賀医科大学 生化学・分子生物学講座 分子生理化学部門ビタミン CによるDNA脱メチル化が誘導するガレクチン3発現増加が CD8 T細胞の腫瘍排除能に及ぼす影響の解明と癌免疫療法への応用100
癌免疫療法は、T細胞の免疫応答を人為的に高めることで腫瘍排除を促す治療法である。抗原刺激により活性化したT細胞がエフェクターやメモリーT細胞に分化するには、適切なゲノム領域が脱メチル化されることが必要であることが知られている。DNA脱メチル化は、DNA脱メチル化酵素 (TET)により誘導される。ビタミンCは、TETを活性化することでDNA脱メチル化を促進する。本研究では、ビタミンCのDNA脱メチル化促進作用がCD8 T細胞に及ぼす影響を検討した。その結果、ビタミンCがCD8 T細胞においてもDNA脱メチル化を促進し、病原体や腫瘍細胞に対する免疫応答を亢進させた。今後は、ビタミンCによるCD8 T細胞の免疫応答促進作用を応用した免疫療法の開発を進めていきたい。

血液・血管に関連する再生医学

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
田村 彰吾
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学大学院 総合保健学専攻 オミックス医療科学 細胞遺伝子情報科学講座軟骨基質と血管内皮細胞の相互作用を再現した軟骨内骨髄脈管発生システムの開発100
長管骨の骨髄発生は軟骨内骨化によって生じる。軟骨内骨化では無血管の始原軟骨に骨膜血管由来の血管内皮細胞が侵入し、軟骨組織の脈管化で骨髄が発生する。我々はこの軟骨内骨化をin vitroで再現することで人工骨髄(骨髄オルガノイド)の開発を進めている。今回、骨髄のもとになる人工軟骨(軟骨オルガノイド)が分泌する血管形成サイトカインのスクリーニングを行い、さらに軟骨オルガノイドと血管内皮細胞との共培養によって骨髄オルガノイド開発の足がかりを得た。軟骨オルガノイドはVEGFなどの血管新生関連因子を分泌し、HUVECとの共培養では軟骨オルガノイドに向かうHUVECの遊走を観察した。さらに軟骨オルガノイドの周囲に血管内皮細胞が生着する像も観察できた。しかし、軟骨への血管侵入を惹起する因子として、サイトカインなどの化学誘引因子に加え、種々の機械的刺激などに着目する必要があることがわかった。
綿貫 慎太郎
アブストラクト
研究報告書
国立国際医療研究センター研究所 生体恒常性プロジェクト加齢造血幹細胞のATP代謝機構の操作による造血幹細胞若返りの基盤的技術の開発100
造血幹細胞(HSC)の代謝動態は、細胞の運命と分化を支配している。加齢HSCは骨髄系細胞を優位に産生するMyeloid biasを呈し、分化能が低下している。しかし、加齢HSCの代謝システムおよびそれに基づいた若返り技術の報告はない。そこで、FRETベースのATP濃度バイオセンサーであるGO-ATeam2による解析を行い、加齢HSCの代謝システムを若年HSCと比較した。加齢HSCの代謝は、強固なミトコンドリア代謝によって特徴づけられていた。メカニズムとして、ミトコンドリア電子伝達系複合体IIによるATPの可塑的産生が加齢HSCに特異的なATP産生機構であった。これを人工的に調節し代謝学的/機能的若年化を目指すため、加齢HSCに対してサイトカイン強制刺激を与えた後に骨髄移植を行い機能を解析した。刺激後の加齢HSCは血球産生能力とMyeloid biasの改善を認めた。本研究により、加齢HSCに特徴的な代謝システムの調節による機能的若返りの基盤が確立された。

感染・免疫・アレルギーとその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
荒 隆英
アブストラクト
研究報告書
北海道大学病院 血液内科肝臓GVHDの病態形成における腸内細菌叢の及ぼす影響についての解明100
【背景】移植片対宿主病(GVHD)は同種造血幹細胞移植における致死的合併症であり, 腸管・肝臓は主たる標的臓器である. 肝臓GVHDは, 腸管GVHDに比して病態生理に不明な点が多い. 【方法】マウスモデルを用いて同種移植群(Allo群)と同系移植群(Syn群)とで肝臓への細胞浸潤や細菌・炎症性サイトカインについて評価を行った. 【結果】Allo群ではSyn群に比べ, 移植早期にはT細胞が, その後に炎症性マクロファージが胆管周囲に浸潤していた. 炎症性マクロファージはTGF-βを産生しており, 胆管上皮細胞が傷害されていた. さらには, 本来無菌状態にある肝臓にあって, 病態形成期にAllo群においてのみ細菌浸潤を認めた. 【考察】肝臓GVHDではT細胞の浸潤に続いてマクロファージが浸潤し, 炎症性サイトカインの産生などを介してBECの傷害を引き起されるが, 同時期に肝臓へ細菌浸潤が生じており, 肝臓GVHDの病態形成に関与している可能性が示唆される.
金山 剛士
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学難治疾患研究所 生体防御学分野ミエロイド系細胞産生を誘導する新たな因子の発見とその応用100
IL-10は主要な抑制性(抗炎症性)サイトカインとして知られており、炎症や免疫応答、細胞死などを抑制することで恒常性の維持に寄与している。しかしながら、免疫系におけるIL-10の役割は詳細に解析されてきた一方で、造血系におけるIL-10の役割については十分に理解されていない。本研究では、IL-10が造血幹前駆細胞の細胞表面に発現するIL-10受容体を介して、直接的にミエロイド系細胞産生を誘導することをマウスモデルを用いて証明するとともに、抗IL-10抗体の骨髄への局所的な投与が、感染時に誘導される造血応答の制御を可能にすることを実験的に証明した。
河部 剛史
アブストラクト
研究報告書
東北大学大学院医学系研究科 病理病態学講座 免疫学分野新規の自然免疫型T細胞の機能制御による新たな感染症治療戦略の創出100
CD4 T細胞は獲得免疫応答の主軸を担うリンパ球である。これに対し我々は同細胞中に、自己認識依存的に産生され自然免疫機能を有する新規「MP細胞」を発見した。そして抗原特異的T細胞におけるTh1/2/17分類と同様、MP細胞もMP1/2/17に分類されることを見出した。そこで本研究では、MP細胞の免疫学的特性を明らかにするとともに、MP1/2/17分画の分化機構・自然免疫機能を解明することを目的とした。研究の結果、我々はMP細胞マーカーとしてCD127、Sca1、Bcl2を同定し、うちCD127(hi) Sca1(hi) MP細胞が最も成熟したMP1細胞であること、IL-12/18/2に対する高い反応性を有することを発見した。そして、MP1が1型樹状細胞由来のIL-12により恒常的に分化誘導され自然免疫機能の主体となることを見出した。以上より、MP細胞が従来型メモリー細胞とは異なる新たな自然免疫型T細胞であることが明らかになった。
平野 順紀
アブストラクト
研究報告書
国立感染症研究所 ウイルス第二部 第二室小胞体ストレスに着目したエンテロウイルスによる神経毒性の分子機序解明100
エンテロウイルスの感染では、小胞体ストレスとその下流のシグナル経路が誘導・改変されることが知られている。本研究では、エンテロウイルスのコードする非構造タンパク質の一つである3Aタンパク質の発現により、強い小胞体ストレスが誘導されることを見出した。さらに、3Aタンパク質による小胞体ストレスの宿主側のデタミナントとしてGBF1を見出した。3Aタンパク質はGBF1と相互作用することで、GBF1をハイジャック・隔離し、小胞体ストレスを誘導した。エンテロウイルス感染では、小胞体の膨化が起こり、小胞体にタンパク質が蓄積した病的な状態が観察された。3Aタンパク質によるGBF1の阻害により、小胞体ストレス依存的な細胞死が引き起こされた。また、小胞体ストレス経路を阻害した場合には、ウイルスによる細胞死が顕著に抑制されることを見出した。

令和3年度
血液医学分野 若手研究者継続助成金受領者
<交付件数:1件、助成額:100万円>

感染・免疫・アレルギーとその関連領域

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
新澤 直明
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 国際環境寄生虫病学分野次世代シーケンサー解析とゲノム編集によるマラリア原虫の赤血球侵入機構の解明 100
マラリア原虫メロゾイトの赤血球侵入は多数のタンパク質が関わる複雑な現象であり、その機構の大部分が未だに明らかになっていない。本研究では、独自に開発したマラリア原虫のゲノム編集技術によってメロゾイト形成期にmRNAが存在する5つのAP2転写因子のChIP-seq法による標的遺伝子解析を行い、新規の赤血球侵入関連因子の同定に成功した。継続助成となる本年度は、昨年度までの解析で同定した赤血球侵入関連因子の機能解析に向けたコンディショナルノックダウン法の開発を行った。開発に成功したコンディナルノックダウン法によって、ChIP-seqによって同定した侵入関連因子が赤血球侵入に必須であることを明らかにした。メロゾイト形成期転写因子の標的遺伝子解析では、多数の未知遺伝子が含まれていた。今回開発したコンディショナルノックダウン法を用いることで、これらの未知遺伝子の赤血球侵入における機能解析が可能となった。

令和3年度 (第39回)
血液医学分野 海外留学助成金受領者一覧
<交付件数:2件、助成額:1,000万円>

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
(留学先)
浅田 修平東京女子医科大学医学部 実験動物研究所DNA修復因子活性化によるファンコニ貧血の新規治療戦略500
Dana-Farber Cancer Institute,U.S.A.
川島 希名古屋大学医学部附属病院 小児科先天性骨髄不全症候群ゼブラフィッシュモデルの解析500
Lerner Research Institute Cleveland Clinic,U.S.A.
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