研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 区分 (*) | 助成額 (万円) |
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赤嶺 由美子 アブストラクト 研究報告書 | 秋田大学医学部附属病院 薬剤部 | クロザピン活性代謝物血中濃度測定の臨床的意義に関する研究 | 1 | 100 |
クロザピン(CLZ)血中濃度と副作用発現との関連が示されているが,活性代謝物濃度との関連は不明である。そこで,本研究は活性代謝物であるN-デスメチルクロザピン(N-CLZ)血中濃度と副作用発現との関連について検討した。CLZを用いて治療抵抗性統合失調症の治療を行う患者58名を対象とし,合計480検体の血液サンプルを収集した。CLZ投与量とCLZ血中濃度ならびにN-CLZ血中濃度との間には相関が認められた。一方で,CLZ,N-CLZともに同一投与量間におけるCV値は大きいことが示された。N-CLZ血中濃度と好中球数,白血球数,ならびに投与前後の好中球・白血球数変化率との間に有意な相関は認められなかった。本研究においては血球検査値と血中濃度間に相関は認められず,無顆粒球症を血中濃度から予測することは困難である可能性が示唆された。N-CLZの血中濃度測定意義については今後更なる検討が必要である。 | ||||
新井 誠 アブストラクト 研究報告書 | 東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野 統合失調症プロジェクト | 統合失調症の糖化ストレスに対する脆弱性とレジリエンス修飾要因の探求 | 1 | 100 |
糖化ストレス研究は、糖尿病、肥満、動脈硬化や心血管障害、さらには骨疾患など、身体疾患の病態リスク因子として精力的に行われてきた。我々は、統合失調症、双極性障害、うつ病、初発エピソードを含む症例での、糖化マーカー分析から病態の予後予測に有用な幾つかの指標を同定し、これら糖化マーカーの組み合わせからなるプロファイルが疾患群及び健常者群を判別できること、患者ごとの薬物療法の違いとも対応していることを見出してきた。しかし、統合失調症の糖化ストレスに対する脆弱性とレジリエンスにいかなる摂取栄養素などが関与するのか、その詳細は不明である。本研究では、ビタミンB6動態が如何にマウス個体レベルでのその行動変容へ影響するのかを解明することを目的とした。その結果、ビタミンB6欠乏は、脳内ノルアドレナリン神経伝達の障害を介し、社会性行動障害および認知機能障害への脆弱性をもたらしていることが示唆された。 | ||||
大橋 俊孝 アブストラクト 研究報告書 | 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
分子医化学分野 | 神経糖鎖マトリックス(PNN)形成不全マウスによる統合失調症発症要因の検証 | 1 | 100 |
思春期にかけて大脳皮質PVニューロンに顕著に形成されるペリニューロナルネット(PNN)は,細胞外マトリックスにより形成され、その主要な成分はAggrecanである。申請者は、思春期にかけて形成され、シナプスの安定化・酸化ストレス保護効果など複合機能 を持つ神経糖鎖マトリックス(PNN)の機能に着目し、PNN形成の障害・遅延が神経発達障害を招き、統合失調症発症につながるのではないかと考え、PNN形成不全マウスにてその仮説を検証した。 統合失調症のエンドフェノタイプとして最もよく用いられるプレパルス・インヒビション(PPI)実験において、両群間に有意差は認められなかった。しかしながら、PNNの主要構成分子であるAggrecanの欠損が他のPNN構成タンパク質発現レベルをも低下させたことは注目すべき結果である。GABA神経伝達関連遺伝子の発現異常が起こるか未検証であることなど課題を残した。 | ||||
橋本 謙二 アブストラクト 研究報告書 | 千葉大学 社会精神保健教育研究センター
病態解析研究部門 | 妊婦の栄養からみた統合失調症発症予防の可能性 | 2 | 100 |
統合失調症の発症予防を目的として、母体免疫活性化モデルを用いて野菜に含まれるグルコラファニンの効果を調べた。グルコラファニンを含む餌を妊娠期から離乳まで与えると、母体免疫活性化で生まれた仔マウスの行動異常や前頭皮質のパルブアルブミン陽性細胞の低下を抑制することが判った。 本研究成果は、妊娠期の栄養が、生まれてくる子供の精神病発症に影響を与えることを示唆した。また本研究成果は、精神疾患の発症に、生まれてくる前の母親の妊娠期の栄養学の重要性を示している。 | ||||
渡部 雄一郎 アブストラクト 研究報告書 | 新潟大学大学院医歯学総合研究科
精神医学分野 | SPATA7遺伝子と統合失調症:罹患同胞対・はとこ婚両親エクソーム解析からの展開 | 1 | 100 |
統合失調症の病態解明や根本的治療法開発の分子基盤を得るためには、頻度は稀だが効果の大きいリスク遺伝子を同定することが重要である。われわれは、統合失調症罹患同胞対・はとこ婚両親の家系を対象としてエクソーム解析を行い、SPATA7遺伝子に稀な複合ヘテロ接合のミスセンス変異(Asp134GlyとIle332Thr)を同定した。SPATA7遺伝子と統合失調症との関連を確認することを目的として本研究を行った。両親サンプルが利用可能な137家系の罹患者142人を対象としてSPATA7遺伝子のタンパク質コード領域をシーケンスしたが稀な潜性変異は検出されなかった。次に症例・対照研究(2,756対2,646)を実施したが、Asp134Gly変異およびIle332T変異と統合失調症との有意な関連は認められなかった。SPATA7遺伝子は統合失調症の発症に大きな効果をもつリスク遺伝子ではない可能性が示唆された。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 区分 (*) | 助成額 (万円) |
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井上 猛 アブストラクト 研究報告書 | 東京医科大学大学院医学研究科
精神医学分野 | 気分障害発症に及ぼす遺伝、性格、小児期虐待、ライフイベントの多因子相互作用 | 2 | 100 |
本研究では、健常者群とうつ病群において、小児期の虐められた体験(以下、虐め体験)が神経症的傾向を媒介因子として、成人期以降のうつ症状やうつ病の有無に影響を与えていると仮説を立て、パス解析によってそれを検証した。うつ病群、健常者群をあわせた432人を対象として、現在のうつ症状を目的変数、年齢、小児期の虐め体験、神経症的傾向を説明変数としたパス解析を実施した。うつ病群、健常者群共に、小児期の虐め体験からうつ症状への直接効果は有意ではなかったが、神経症的傾向を介した間接効果は有意であった。うつ病群、健常者群をあわせた432人を対象として、うつ病の有無を目的変数、年齢、小児期の虐め体験、神経症的傾向を説明変数としたパス解析を実施した。小児期の虐め体験からうつ病の有無への直接効果と神経症的傾向を介した間接効果は有意であった。両解析で虐め体験の効果は年齢の影響を受けていなかった。 | ||||
岩田 仲生 アブストラクト 研究報告書 | 藤田医科大学医学部 精神神経科学講座 | 双極性障害をハブとした遺伝的相関解析 | 1 | 100 |
多くの精神疾患の病態生理には遺伝要因が深く関与しており、特に全ゲノム関連解析(GWAS)は感受性遺伝子を同定している。しかし、その効果量は小さく、臨床応用には距離がある一方、個々の遺伝子多型のみではなく、GWASで決定された数十万個のSNPs全体で遺伝的相関を検討する方法も開発され、表現型間の「関連」共通性を検討する方法論として定着している。 本研究では、日本人双極性障害を中心に、統合失調症・うつ状態GWASの精神疾患データ、および他の身体疾患・血液データの遺伝的相関を検討した。その結果、BMIでは、統合失調症と双極性障害でBMIが有意に低い関係性が見いだされたが、免疫系疾患を始めとする他の形質/疾患では有意な関連を同定できなかった。 本研究では、精神疾患GWASでの検出力の問題で偽陰性を示している可能性は否定できず、今後もサンプル数拡大を図りつつ、このような新たな遺伝的解析を実施することが重要である。 | ||||
大久保 善朗 アブストラクト 研究報告書 | 日本医科大学大学院 精神行動医学分野 | セロトニン1B受容体イメージングを用いた電気けいれん療法の作用機序に関する研究 | 2 | 100 |
うつ病の病態および治療におけるセロトニン1B受容体の役割が注目を集めている。電気けいれん療法(ECT)は難治性うつ病に対する効果的な治療の一つであるにもかかわらず、その作用機序は未だ明らかでない。本研究では、ECTの適応となったうつ病患者11例を対象に、ECT前後で [11C]AZ10419369を用いたPET検査を行い、各脳領域におけるセロトニン1B受容体結合能を比較した。その結果、海馬および右側坐核においてセロトニン1B受容体結合能の有意な増加を認めた。さらに脳幹部においては結合能が増加する傾向が認められた。一方で、前部帯状回においては有意な変化を認めなかった。以上から、うつ病に対するECT療法におけるセロトニン1B受容体の関与が示唆された。セロトニン1B受容体と抗うつ効果、症状や経過との関連をさらに検討することによって、うつ病の病態や治療機序の解明に結びつく可能性がある。 | ||||
松岡 豊 アブストラクト 研究報告書 | 国立がん研究センター 社会と健康研究センター | 日本型食生活とうつ病の関連:地域住民コホート研究 | 2 | 100 |
多目的コホート研究のうち佐久地域で実施された追跡調査のデータを活用し、日本人における食事バランスガイド遵守と、その後の精神科医により診断されたうつ病との縦断的な関連を検討した。 結果、食事バランスガイドの遵守得点とうつ病のリスクの間に統計学的に有意な関連は認められなかった。年齢、性別、単身生活、教育歴、喫煙歴、飲酒歴、身体活動量、過去のうつ病、がん、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病の既往の影響を調整して検討したが、関連は認められなかった。8領域(主食、副菜、主菜、牛乳・乳製品、果物、総エネルギー、菓子・嗜好飲料、白肉の赤肉に対する比)それぞれについて検討したところ、白肉の赤肉に対する比において、最も比が低いグループに比べて高いグループで48%うつ病のリスクの低下(オッズ比=0.52, 95%信頼区間=0.27-0.98)が認められた。 | ||||
吉池 卓也 アブストラクト 研究報告書 | 滋賀医科大学 精神医学講座 | 構造・機能的神経可塑性の概日ダイナミクスが抗うつ治療反応に果たす役割 | 2 | 100 |
双極性障害およびうつ病の病態解明は喫緊の課題である。時計遺伝子発現や時間認知といった生理・行動の概日振動変化は、気分障害の生物学的指標と考えられている。近年、脳構造および脳機能の日内変動が明らかにされ、構造的・機能的な神経可塑性ダイナミクスが気分障害の病態生理・治療反応において重要な役割を担うことが示唆される。本研究は、シナプス可塑性の代替評価法として構造的・機能的磁気共鳴画像(MRI)を用い、健常成人における神経可塑性の日内変動の特徴、および気分障害患者における神経可塑性の日内変動と病態・治療反応の関連性を明らかにすることを目的とした。健康成人40名を対象とし、朝および夜の2時点で撮像した安静時機能的MRIを比較した。前部帯状回は左側頭桓平面と、夜より朝に強い機能的結合を示した(T71=3.86; PFDR=0.04)。うつ症状の日内変動の背景に安静時機能的結合の変化が関連する可能性が示唆される。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 区分 (*) | 助成額 (万円) |
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森口 茂樹 アブストラクト 研究報告書 | 東北大学大学院薬学研究科 薬理学分野 | KATPチャネル欠損マウスにおける認知・精神機能障害の病態生理学的研究 | 1 | 100 |
申請者は、アルツハイマー病(AD)治療薬であるmemantineの新たな作用機序として、 ATP感受性カリウム(KATP)チャネル抑制作用を発見した(Moriguchi et al., Mol. Psychiatry 2018)。KATPチャネル抑制作用は膵臓β細胞よりインスリン分泌の役割を担っており、糖尿病の治療標的である。本研究では、ADの脳糖尿病仮説の実証のため、KATP(Kir6.1およびKir6.2)チャネル欠損マウスを用いてKATPチャネルの病態生理的役割について解明する。本研究ではKATPチャネル欠損マウスのアイソフォーム依存的な認知・精神機能障害の病態機序の解析を行い、ADの病態機序の解明を目指す。 | ||||
森原 剛史 アブストラクト 研究報告書 | 大阪大学大学院医学系研究科 認知症プレシジョン医療開発学寄附講座 | 孤発性アルツハイマー病の発症メカニズム解明とバイオマーカー開発 | 1 | 100 |
アルツハイマー病にはいまだに効果的な診断・治療法はない。なぜであろうか? その原因として「疾患が複雑」「疾患が不均一」「使いやすいバイオマーカーがない」がよく挙げられている。これらの問題を本研究は克服していく。 我々はアルツハイマー病の中心病理であるAβ病理の出現しやすさがインブレッドマウス間で大きく異なることに注目した。マウスの背景遺伝子の影響を解析する独自の複合的omicsを考案しAβ蓄積量規程遺伝子産物としてKLC1vEを同定した(PNAS 2014、BioEssay 2015、Hum Genet 2018)。 本研究ではKLC1vEを中心とした発症分子メカニズムをさらに解明するためKLC1領域を置換したコンジェニックマウスを作成した。また血液バイオマーカーの開発を進めた。層別化バイオマーカーとしてKLC1 mRNA、疾患バイオマーカーとして革新的高感度法によるAβ測定系の開発を進めた。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 区分 (*) | 助成額 (万円) |
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尾崎 紀夫 アブストラクト 研究報告書 | 名古屋大学大学院医学系研究科 細胞情報医学専攻脳神経病態制御学講座 精神医学・親と子どもの心療学分野 | 自閉スペクトラム症(ASD)多発家系のエクソーム解析:ASD間で共有する変異同定 | 1 | 100 |
ASD多発家系内で発症に強く関連する変異を同定するため、1) ASDと健常対象者のエキソームデータを用いたケースコントロール解析(ASD266名、健常対照者299名)、2) 1)により同定されたASD発症関連ゲノム変異に関してASD多発家系内(ASD多発17家系71名に対してエキソーム解析を実施)における連鎖状況の評価、を実施した。その結果、1) ASDケースコントロール研究により、脆弱X症候群の原因遺伝子であるFMR1遺伝子がコードするFMRP(RNA結合蛋白質)が標的とする遺伝子群(FMRP関連遺伝子群)に存在し、かつ頻度が1%未満の機能喪失変異(LOF変異)の数が、健常対照者より優位に多く存在することが判明した(p-value = 0.01)。2) 1)で同定したFMRP関連遺伝子群のLOF変異のうち、WDR6がASD多発家系内において、ASD間で共有されていることが判明した。 | ||||
佐藤 正晃 アブストラクト 研究報告書 | 埼玉大学 脳末梢科学研究センター | バーチャル環境下の機能イメージングで解明する自閉症マウスの微小回路病態 | 1 | 100 |
本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)モデルマウスの一つであるShank2欠損マウスが頭部固定バーチャルリアリティ環境下で空間学習するときの海馬神経回路活動を二光子カルシウムイメージングで可視化した。報酬と視覚的手がかりが別々の場所に提示されたバーチャル直線路課題を遂行中の回路活動をイメージングすると、正常マウスでは訓練が進むに従って視覚的手がかりの場所をコードする細胞の割合が増加したが、Shank2欠損マウスではこの増加が起こらなかった。またShank2欠損マウスでは、報酬場所をコードする細胞の増加が正常マウスよりもさらに亢進していた。これらの結果から、報酬と視覚的手がかりという2種類の情報の表現は、Shank2依存性の異なる別々の分子メカニズムによって起こると考えられた。本研究の成果は、臨床的に多様なASDの一部では、海馬における外界の特徴の情報表現に異常が生じている可能性を示唆する。 | ||||
渡部 喬光 アブストラクト 研究報告書 | 理化学研究所 脳神経科学研究センター | 自閉症の認知的硬直性を引き起こす神経ダイナミクスの同定 | 1 | 100 |
有病率1%以上を示す神経発達障害である自閉スペクトラム症(ASD)は社会性の障害と活動興味の範囲の著しい限局(認知的硬直性)という二つの中核症状によって特徴付けられる.これまでのASDの神経生物学的研究は社会性の障害を対象としたものが多く,認知的硬直性の神経基盤はほとんど不明だ. そこで本研究は, 成人高次機能ASD当事者のcognitive rigidityの背景にある全脳レベルでのASD固有の巨視的神経遷移ダイナミックスを同定することを目的とした. 結果,高機能自閉症スペクトラムのcognitive rigidityは,自発的課題切替試験でよく定量化することができ,さらにright ACC, MFG and pSPLなどを主体とした遷移脳ダイナミクスの非典型的な安定性によって生じている可能性がある,ということが明らかになった. |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 区分 (*) | 助成額 (万円) |
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小田垣 雄二 アブストラクト 研究報告書 | 埼玉医科大学 神経精神科・心療内科 | 麻薬依存症患者死後脳における各種受容体を介する三量体G蛋白機能活性化反応の検討 | 1 | 100 |
背外側前頭前野皮質より調整した膜標品を用いた。対象は、40例の精神神経疾患のない対照者(第Ⅰ群)と、麻薬依存症者20例と対象者20例からなる第Ⅱ群である。膜標品における[35S]GTPgammaS結合を2つの方法を用いて行った。①吸引濾過法、②[35S]GTPgammaS binding/immunoprecipitation assay。第1群においては、mu-、delta-、kappa-opioid受容体を介するGi/oの機能的活性化を含め、多くの受容体刺激を介したG蛋白活性化反応を検出することができた。このうち、mu-およびdelta-opioid受容体を介したGi/oの活性化反応は年齢に伴って増加していた。また、これらの受容体を介した反応は、いくつかの他の受容体を介した反応と相関していた。第Ⅱ群での解析のうち、これまで得られた結果では、5-HT2A受容体を介するGalpha(q/11)の活性化反応において、麻薬依存症者群では対症群に比し、その最大反応が有意に低下し、また濃度反応曲線が有意に右方にシフトしていた。 | ||||
坂根 郁夫 アブストラクト 研究報告書 | 千葉大学大学院理学研究院 化学研究部門生体機能化学研究室 | ジアシルグリセロールキナーゼδのセロトニン神経系・強迫性障害発症制御の分子機構 | 1 | 100 |
ジアシルグリセロール(DG)キナーゼ(DGK)δによるセロトニントランスポーター(SERT)の不安定化機構を探り,以下の結果が得られた.DGKδのC4aとCC領域がSERTのC末細胞質領域に結合した.DGKδはその触媒活性依存的にSERTのユビキチン(Ub)化と分解を促進した.DGKδはE3ユビキチン-リガーゼであるPraja-1とアダプタータンパク質MAGE-D1と相互作用し,Ub−プロテアソーム系を介して分解を促進した.脳内でDGKδは選択的に18:0/22:6-DGをリン酸化してホスファチジン酸(PA)を産生した.18:0/22:6-PAが選択的にPraja-1に結合して,そのE3 Ubリガーゼ活性を促進した.以上から,DGKδが産生する18:0/22:6-PAがPraja-1を活性化してSERTをUb化し,プロテアソーム系を介してSERTの分解を促進すると考えられた. | ||||
竹本 さやか アブストラクト 研究報告書 | 名古屋大学 環境医学研究所 神経系I分野 | 扁桃体微小神経亜核を介した情動制御機構の解明 | 1 | 100 |
扁桃体延長部に属する扁桃体中心核や分界条床核は、進化的に保存された小さな脳内領域である。ヒトを対象とした脳イメージング研究の発展により、不安や恐怖の統御に関わる可能性が示され注目される。同時に、動物モデルを用いた研究から、様々な内的、外的要因によって神経活動が変化し、不安や恐怖が環境によって増強する際に、主要な役割を果たすのではないかと考えられている。一方で、両領域は複数の機能が異なる小さな神経核の集合体であり、機能的にも異なると想定される細胞種が複雑に混在し構成されるため、これまでのモデル動物を用いた破壊実験等では統一見解を得るのが困難で、扁桃体微小神経亜核における内局所神経回路機能や活動制御の分子基盤には不明な点が多い。本研究では、分子マーカー知見を活用して、扁桃体微小神経亜核を対象に高精細な遺伝子発現解析を実施することで、情動制御に寄与する新たな分子機構の解明を目指した。 | ||||
秀瀬 真輔 アブストラクト 研究報告書 | 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第三部 | 精神疾患患者の脳脊髄液における神経可塑性関連タンパクの網羅的解析 | 2 | 100 |
統合失調症(94例) 、双極性障害(68例)、及び大うつ病性障害(104例)患者と健常者(118例)の脳脊髄液(CSF)計384例を用いて、神経可塑性関連タンパク質の磁性マイクロビーズシステムによる多分子同時測定を行った。その結果、CSF中APP量とGDNF量は統合失調症患者で、CSF中APPとNCAM-1量は双極性障害患者で、健常者と比べ有意に減少していた。また、CSF中HGFとS100B量は統合失調症の陽性・陰性症状評価尺度、CSF中S100B量は双極性障害のヤング躁病評価尺度、CSF中HGF、S100B、及びVEGF受容体2量は大うつ病性障害のハミルトンうつ病評価尺度と有意に正に相関した。さらに、大うつ病性障害患者では、CSF中APPとNCAM-1量は作業記憶、CSF中NCAM-1量は左前頭眼窩回容量と有意に正に相関した。これらの所見は、精神疾患の神経可塑性仮説を支持するものだった。 | ||||
山下 親正 アブストラクト 研究報告書 | 東京理科大学薬学部 DDS・製剤設計学 | 経鼻投与による新しい概念に基づいたペプチドの中枢デリバリー技術の開発 | 2 | 100 |
中枢作用性ペプチドは容易に血液脳関門を透過することができず、臨床適用は難しい。そこで、経鼻投与により、臨床応用可能な全く新しい概念に基づいたペプチドの非侵襲的な中枢デリバリー技術を構築するために、新規抗うつ様作用を示すGlucagon-like petide-2(GLP-2)に細胞膜透過性促進配列(CPP)とエンドソーム膜脱出促進配列(PAS)に付加したGLP-2ペプチド誘導体を創製した。このGLP-2誘導体はマクロピノサイトーシスにより細胞へ効率良く取り込まれ、PASによりエンドソームを効率良く脱出し、細胞外へ排出されることを実証した。更に、経鼻投与されたGLP-2誘導体は三叉神経を介して海馬・視床下部へデリバリーされ、抗うつ様作用を示す可能性が高いことも明らかにした。 以上の結果から、中枢作用性ペプチドを経鼻投与により呼吸上皮から三叉神経を介して中枢へ効率良くデリバリーさせる中枢デリバリー技術の開発に成功し、臨床応用が期待される。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 区分 (*) | 助成額 (万円) |
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齋藤 竹生 アブストラクト 研究報告書 | 藤田医科大学医学部
精神神経科学講座 | リチウム治療反応性と双極性障害疾患感受性の遺伝的共通性 | 1 | 100 |
本研究ではBD疾患感受性遺伝子とLi薬理遺伝学的形質は重複するという仮説を立て、それを検証すべく、1)日本人の「Li反応性関連遺伝子とBD疾患感受性遺伝子の共通性」をPolygenic Risk Score(PRS)解析を用いて検討した。また2)「BDのPRSとLi反応性の関係性」の検討も行った。さらに、Li反応性遺伝子とSCZ疾患感受性遺伝子の共通性に関しても検討を行なった。 検討の結果、Li反応性関連遺伝子と双極性障害感受性遺伝子の共通性は明らかにならかなった。また同様にLi反応性関連遺伝子とSCZ疾患感受性遺伝子の共通性は明らかにならかなった。有意な重複が同定できなかった要因の一つとして、サンプル数が少ないことによる検出力不足が否定できない。そのため今後Discovery set、Target set共にサンプル数を拡大させる必要がある。 | ||||
張 凱 アブストラクト 研究報告書 | 千葉大学社会精神保健教育研究センター 病態解析研究部門 | 脳腸連関からみたストレスレジリエンスの形成の解明 | 1 | 100 |
ストレスによる精神疾患の発症予防としてストレス耐性(レジリエンス)を形成することが重要である。今回、学習性無力モデルを用いて、うつ様症状を呈するラット、うつ様症状を呈しない(レジリエンス)ラット、及びコントロール(無処置)ラットの腸内細菌叢を解析することにより、レジリエンスにおける腸内細菌の役割を調べ、糞中の短鎖脂肪酸の結果との関連を調べた。うつ様症状を示すラットの腸内細菌叢は、コントロールラットおよびうつ様症状を示さないラットの腸内細菌叢と比べて有意に異なる事が判った。うつ様症状を示すラットの糞中の酢酸、プロピオン酸は、コントロールラットおよびうつ様症状を示さないラットの値と比べて有意に低かった。本研究の結果より、ストレスレジリエンスに腸内細菌を介する脳-腸連関が関与している可能性が示唆された。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 区分 (*) | 助成額 (万円) |
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草苅 伸也 アブストラクト 研究報告書 | 東京医科大学医学部 薬理学分野 | CHCHD10遺伝子変異による認知症発症メカニズムの解明と治療薬探索 | 1 | 100 |
前頭側頭型認知症(Frontotemporal dementia:FTD)は、前頭および側頭葉が萎縮する神経変性疾患であり、認知機能障害のほか、人格変化や行動異常を示す。これまでに、複数の原因遺伝子が同定され、原因遺伝子の分子機能にもとづく解析が進められているが、その発症メカニズムには未だ不明な点が多く残されている。 FTD原因遺伝子のひとつCHCHD10は、ミトコンドリアに限局して発現し、ミトコンドリア機能制御に関与すると考えらえているが、遺伝子変異によるFTD発症および神経細胞死メカニズムは未だ不明である。 そこで、本研究ではCHCHD10を過剰発現するアデノウイルスを構築し、培養細胞を用いて細胞死との関連について検討を行った。その結果、CHCHD10は遺伝子変異によって新たに細胞毒性を獲得すること、さらにこの細胞死はCaspase-3非依存性であることが明らかとなった。 | ||||
村松 里衣子 アブストラクト 研究報告書 | 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 神経薬理研究部 | 脳白質の発生異常の分子メカニズムの解明 | 1 | 100 |
脳の白質を構成する髄鞘の発生を制御する新規分子を探索するため、マウスを用いて、髄鞘発生が盛んな時期に豊富に発現し、髄鞘の発達を正に制御する分子を探索した。候補分子の一部についてはその分子欠損マウスでの髄鞘形成を組織学的に解析し、in vivoで髄鞘発達を促進させる作用を見出した。今後、髄鞘を構成するオリゴデンドロサイト特異的な候補分子欠損マウスの解析やその分子依存的な細胞内情報伝達の解明、またヒト細胞での発現解析・機能解析を行うことで、見出した分子の髄鞘発達作用がヒトでも保存されているかを検証していきたい。 | ||||
森 英一朗 アブストラクト 研究報告書 | 奈良県立医科大学医学部 未来基礎医学教室 | C9orf72遺伝子のリピート異常による前頭側頭型認知症の研究 | 1 | 100 |
C9orf72遺伝子のリピート異常によって、前頭側頭型認知症および筋萎縮性側索硬化症を引き起こす。この遺伝子異常によって、ポリジペプチドが産生され細胞毒性を生じる。本研究では、毒性ポリペプチドによる相分離抑制シャペロンへに対する影響について検証することを目的とした。毒性ポリペプチドによって、相分離抑制シャペロンによるFUS液滴溶解が抑制された。また、相分離抑制シャペロンによってポリマー形成が抑制され、毒性ポリペプチドによって相分離抑制シャペロンによるポリマー形成抑制能が阻害された。さらに、毒性ポリペプチドが相分離抑制シャペロンに結合していることが明らかになった。また、NMR法により相分離抑制シャペロンの毒性ポリペプチドと相互作用する領域が明らかになった。今後は、さらに、結合領域や様式の詳細な情報を明らかにすることで、病態発症の分子機序を明らかにすることを目指す。 | ||||
森 康治 アブストラクト 研究報告書 | 大阪大学大学院医学系研究科 精神医学 | C9orf72変異型FTDにおける病原性リピートRNA代謝障害のメカニズム | 1 | 100 |
我々はC9orf72遺伝子イントロン領域に由来するGGGGCCリピートRNAが、非定型的な翻訳を受けFTDの鍵分子であるジペプチドリピートタンパク(DPR)となって患者脳に蓄積することを見出した。本研究では病原性リピートRNAの蓄積機序の詳細を明らかにし、RNA代謝に着目したFTDの新規治療法開発を目指す。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 区分 (*) | 助成額 (万円) |
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青木 悠太 アブストラクト 研究報告書 | 昭和大学 発達障害医療研究所 | RDoCの生物学的特性に基づくクラスタリングを自由行動から再現する | 2 | 100 |
【目的】 自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如多動症(ADHD)の診断の枠組みを超えて、生物学的な同質性の高いサブタイプを同定することが本研究の第一の目的である。本研究は自由行動からクラスタリングを再現する予備的検討として、ASD当事者とADHD当事者を合わせて脳構造の特徴でクラスタリングを行った。 【対象・方法】 AASDあるいはADHD当事者148名およびNTC105名分のMRIスキャンを対象とした。機能的・構造的アトラスを用いて関心領域を脳表に設定しクラスタリングを行った。 【結果】 HYDRAは2つのクラスターを同定した。Chi square検定では二つのクラスターでASDとADHDの割合は有意な偏りはなかった。 【考察】 ASDとADHDの臨床診断の境界は、脳構造の特徴の同質性を保証するとは言えないことがわかった。今後は、この二つのクラスターのどちらに入るかを行動指標ひいては自由行動の動画を解析することで予測することをめざす。 | ||||
江口 典臣 アブストラクト 研究報告書 | 神戸大学大学院医学系研究科 精神医学分野 | ADHDのiPS細胞より分化させた大脳皮質の解析 | 1 | 100 |
本研究では、MRIを用いた研究でADHD患者では大脳野皮質の発達が遅延しているという報告に注目し、ADHDの患者のiPS細胞から大脳皮質の細胞かを分化誘導し、ADHDの病態メカニズムの解明に迫ることを目的とした。ADHDと診断された患者(18歳、男性)の末梢血単核球からiPS細胞を作成し、健常者、ADHD患者由来のiPS細胞を大脳皮質の細胞からなる組織へと分化させた。組織中に含まれる大脳皮質様の構造を免疫染色により評価した。ADHD群では、大脳皮質様構造を形成する細胞層のうち、神経幹細胞の層である脳室帯(VZ)が厚く、神経細胞の層である皮質板(CP)が薄いことが明らかとなった。また、CPに含まれる神経細胞がADHD群では健常群より多いという結果が得られた。この結果は、先行研究で報告された大脳皮質の発達遅延と関連する可能性がある。今後さらなる病態メカニズムの解明を進めていく。 | ||||
大橋 圭 アブストラクト 研究報告書 | 名古屋市立大学大学院医学研究科 新生児・小児医学分野 | 発達障害児の内因性カンナビノイド系プロファイルと臨床表現型の解析 | 1 | 100 |
【目的】内因性カンナビノイド (eCB) 系は自閉スペクトラム症 (ASD) のASDの統合的な病因の一つと推察されている。本研究はASDとeCB系の乱れの関連について明らかにすることを目的とする。【対象・方法】DSM-5の診断基準に基づきASDと診断された児を対象とした。末梢血白血球から抽出したmRNAを用いてRT-PCRによりCB1,CB2,FAAH,MAGLの発現量の測定を行った。また、AQ児童版・SRS-2・ADHD-Rating Scaleによる評価を行った。【結果】CB1とAQ児童用の下位尺度である“注意の切り替え”、CB2と“注意の切り替え”および“想像力”に統計学的有意に相関を認めた。【考察】全体的な自閉症傾向の強さとCB1,CB2,FAAH,MAGLのmRNAの発現量に相関関係は認めなかったが、一部の下位尺度とCB1およびCB2のmRNAの発現量に相関を認めた。今後はAEAおよび2-AG、FAAHおよびMAGLの酵素活性の測定を行い、その関連性の検討を行う。 | ||||
久保田 学 アブストラクト 研究報告書 | 放射線医学総合研究所 脳機能イメージング研究部 脳疾患トランスレーショナル研究チーム | 神経発達症における脳内ドーパミン・ノルアドレナリン神経伝達と注意機能との関連 | 1 | 100 |
神経発達症の特徴に、高次レベルの注意の統制機能不全や特有の認知機能処理があげられる。しかしその注意機能・認知機能とモノアミン系神経伝達機能との関連は明確になっていない。本研究では、陽電子放射断層撮像(PET)、MRIおよび認知機能検査を組み合わせることにより、自閉スペクトラム症(ASD)における脳内ドーパミン・ノルアドレナリン神経伝達の役割を調べ、神経発達症の脳内分子神経基盤を突き止めることを目的とした。結果、PET解析においては両群の間に統計学的に有意な定量値の差はみられなかった。しかしながら、ASD群ではAQの下位尺度と前部帯状皮質(ACC)および線条体におけるD1受容体結合能との間、そしてCAARSの評価得点項目とACCにおけるD1受容体結合能との間にそれぞれ負の相関がみられ、ASD群における症状・機能の特徴の一部に脳内ドーパミン神経伝達が関与することが示唆された。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 区分 (*) | 助成額 (万円) |
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武田 朱公 アブストラクト 研究報告書 | 大阪大学大学院医学系研究科 臨床遺伝子治療学 | 病的タウの神経細胞間伝播を標的とした認知症治療法の開発 | 1 | 100 |
認知症の原因で最も多いのがアルツハイマー病(AD)であるが、現時点で根本的な治療法は確立されていない。AD患者の脳内には神経原線維変化(タウ細胞内凝集体)と呼ばれる病理所見が出現し、その脳内での広がりが認知症の重症度と相関する。本課題ではADの進行過程におけるタウ病理の役割を明らかにし、それに基づいた新規治療法や病態バイオマーカーを確立することを目的とした。ハイコンテントイメージングを利用したタウ伝播活性のハイスループット評価系の確立し、タウ伝播の分子機序解明や修飾因子同定のためのプラットフォームが構築された。これによりタウ免疫療法の最適エピトープの選定や糖尿病によるタウ病態修飾機序の解析が可能となった。新規のマウス髄液持続回収システムを構築し、タウ関連バイオマーカーの開発に有用なプレクリニカルモデルとして利用できることが示された。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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(留学先) | |||
大塚 郁夫 | 神戸大学大学院医学研究科 精神医学分野 | 大規模な自殺完遂者・未遂者試料を用いた自殺の遺伝因子の解明 | 500 |
Columbia University, U.S.A. | |||
木村 大樹 | 名古屋大学大学院医学系研究科 精神医療学寄付講座 | 日米欧のゲノム解析データを統合し、精神障害集積性を引き起こす変異を明確化する | 500 |
Department of Psychiatry, University of California, San Diego, U.S.A. |