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精神薬療分野 「令和2年度」

令和2年度(第53回)
精神薬療分野 一般研究助成金受領者一覧
<交付件数:23件、助成額:2,300万円>

統合失調症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
池亀 天平
アブストラクト
研究報告書
東京大学大学院医学系研究科 精神医学分野思春期心身機能の健やかな発達を評価する集約的ゲノム指標の開発1100
近年、ゲノム・エピゲノム情報に基づき様々な疾患の発症リスク評価が行われているが、精神疾患発症リスクが最も高い思春期における体系的な評価は行われていない。本研究では大規模思春期コホートで取得された多様な思春期発達情報を評価するため、網羅的ゲノム・エピゲノム解析から得られたゲノム情報を用い新規ゲノム指標の開発を行う。これにより、思春期の健全な心身の発達評価に加え精神疾患リスク評価も可能となり、将来の疾患発症予防、予後予測、ライフスタイルの改善に繋がる医療的介入の実現が本研究の最終目標である。
小笠原 裕樹
アブストラクト
研究報告書
明治薬科大学薬学部 薬学科 分析化学疾患モデルマウスを用いたカルボニルストレス性統合失調症の原因物質と発症機序の解明1100
本研究では、カルボニルストレス性統合失調症(CS-SCZ)のモデルであるVB6欠乏GLO1ノックアウト[KO(-)]マウスの海馬を用いて検討を行った結果、MG-H1化されたタンパク質の蓄積を見出した。蓄積したタンパク質の解析により7種のMG-H1化タンパク質が同定された。更に、KO(-)マウスにおいて有意なクレアチンキナーゼ(CK)活性の低下が認められたことから、モデルマウスの海馬において、過剰なMGOとの反応によりミトコンドリア(mit)型CKがMG-H1化を受けることで、その活性が低下していることが示唆された。CK-mitは、主にエネルギー貯蔵体であるクレアチンリン酸を産生し、細胞質に供給する役割を担っていることからCK-mit活性は、統合失調症患者脳におけるエネルギー代謝異常に関与していることが予想される。今後、カルボニルストレスとCK活性の変化に着目して研究を進めることで、CS-SCZ発症メカニズムの一端が解明されることが期待される。
高橋 英彦
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 精神行動医科学イメージングバイオマーカーを用いた遅発性統合失調症の層別化1100
遅発性統合失調症に対して、まず、安静時fMRIによる統合失調症バイオマーカーにて統合失調症らしさが高い群と低いと判定される群を抽出する。次に両群に対してPETによるアミロイドおよびタウイメージングを実施する。イメージングバイオマーカーを駆使して、遅発性統合失調症の脳病理に基づいた鑑別方法を確立することを目的とする。
リクルートした患者の安静時fMRIデータを取得し、開発済みの統合失調症の脳結合バイオマーカーを適用した。
6名の遅発性統合失調症患者に対してタウとアミロイドPETを実施したところ、高頻度でタウ陽性となり、病変の空間的分布もアルツハイマー病や前頭側頭葉変性症とは異なる特異的なパターンを呈することが明らかになった
操作的に(遅発性)統合失調症と診断される一群には、既知の神経変性疾患とは異なる神経病理を有している可能性が示唆された。
橋本 亮太
アブストラクト
研究報告書
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神疾患病態研究部多次元ビッグデータのデータ駆動型解析による精神疾患の脳病態メカニズムの解明1100
精神疾患の診断は医師が症状を診ることによりなされており、客観的な検査等による診断法は未だ確立していない。また、現在の診断分類は生物学に基づくものではないため、必ずしも効果の高い生物学的治療法に結び付かないという問題がある。その問題を解決するためには客観的検査情報を用いた精神疾患横断的研究による脳病態の疾患特異性と疾患共通性の理解が必須であるが、その理解はまだ途上にある。本研究では、新たな診断体系モデルの構築に向けて、精神疾患の病態メカニズムを疾患横断的な視点から明らかにすることを目的とする。大脳皮質の三次元脳構造の疾患横断的なメタアナリシスの結果から、統合失調症と双極性障害の三次元脳構造における健常者からの差異について、大脳皮質厚の減少が両疾患において認められる一方、皮質表面積の減少は統合失調症のみに認められるなど、それぞれの疾患の病態の共通点と相違点を示唆する所見を得た。
樋口 悠子
アブストラクト
研究報告書
富山大学学術研究部医学系 神経精神医学講座精神病発症リスク状態とASDの鑑別及び併存診断に役立つバイオマーカーの開発2100
精神病の症状は自閉スペクトラム症(ASD)の独特の思考や行動様式と共通する点があり時に区別が容易でないことがある。本研究では、精神病発症リスク状態(at-risk mental state; ARMS)と同定された患者に各種検査を施行し,生物学的指標がARMS患者に少なからず併存するASDの併存診断の補助となりえるかどうかを検討した。ARMS(64名)と保護者に対し自閉症スペクトラム指数日本語版 (AQ-J)および児童用(AQ-C)を施行し、両者がともにカットオフ値を超えた高AQ群(12名)と、ともに超えなかった低AQ群(23名)に対し事象関連電位(ERP)など各種検査を施行した。その結果、高AQ群はERPの一種である周波数ミスマッチ陰性電位(fMMN)の潜時短縮が認められた。この結果からARMSの一部に含まれるASD患者を、fMMNを測定することで鑑別出来る可能性が示唆された。
廣田 ゆき
アブストラクト
研究報告書
慶應義塾大学医学部 解剖学リーリンシグナルによる神経細胞配置決定の滑脳症・統合失調症病態への寄与1100
大脳皮質の層形成過程では、脳室付近で誕生した興奮性神経細胞は放射状に移動したのちに停止し、最終的に機能する場所へ配置される。神経細胞の移動停止制御機構は、高次脳機能獲得機構と神経細胞移動異常に起因する病態の解明のために重要な課題である。細胞外糖タンパク質であるリーリンは胎生期の神経細胞移動と層形成に重要な役割を担うことが知られている。私達は最近、リーリン受容体VLDLRが神経突起形成を介して移動停止を制御することを提唱した。本研究では神経細胞の最終配置決定の機構に着目し、(1)辺縁帯への細胞進入の阻止と樹状突起の正常な形成は独立して制御されること、 (2) 神経細胞が停止する時期に、複数の細胞接着分子が発現し樹状突起に選択的に局在し移動を制御することを見出した。この結果は大脳皮質形成における樹状突起への細胞接着因子局在が移動停止と層形成に重要であることを示唆している。
古郡 規雄
アブストラクト
研究報告書
獨協医科大学 精神神経医学講座24時間血糖トレンドを用いた抗精神病薬の身体リスクの特性2100
抗精神病薬服用中の統合失調症患者の24時間血糖をモニタリングし、抗精神病薬服用による低血糖の実態を明らかにすることを目的とした。対象は抗精神病薬を服用中で糖尿病に罹患していない統合失調症患者52名であり、対象に24時間血糖モニタリング(リブレプロR)を施行した。22時から8時までは平均血糖値が低血糖の指標となる80㎎/dlを下回っていた。特に22時から6時までは臨床的に重要な70㎎/dl以下になっていた。24時間平均グルコース値の平均(SD)値は77.7(14.9)㎎/dlであった。目標範囲を80-140㎎/dlと設定した場合、目標範囲内であった平均(SD)時間は38(20)%であり、目標範囲以下であった時間は61(21)%で、目標範囲以上であった時間は1.5(2.9)%であった。今後は臨床場面で血糖24時間モニタリングの必要性あると考える。 
萬代 研二
アブストラクト
研究報告書
北里大学医学部 生化学タンパク質結合ネットワークの解析による統合失調症の病態の解明1100
統合失調症は社会的損失の大きな精神疾患の一つであるが、発症と病態の進展の機構は不明な点が多い。これまで多くの本疾患関連遺伝子が見出されているが、それらの病理学的機能は十分に解明されていない。アファディンとその結合分子マギンは、共に本疾患と関連する。そこで、アファディンとマギンのタンパク質結合ネットワークを同定し、統合失調症との関係を解明することを試みた。マウス脳抽出物におけるマギン抗体および、アファディン抗体による免疫沈降物に共通するタンパク質が含まれていた。マギンとアファディンそれぞれの欠損マウスのシナプスにおける表現型はほぼ一致し、これらの分子が協働して興奮性シナプス伝達を制御していることを見出した。直接結合するアファディンとマギンが同じ神経生物学的機能を果たしていることは、これらの分子とその結合分子のネットワークが、統合失調症の発症と病態の進展にも関与している可能性を示唆している。

気分障害

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
岩田 仲生
アブストラクト
研究報告書
藤田医科大学医学部 精神神経科学講座双極性障害を始めとした精神疾患感受性遺伝子の因果関係解析1100
背景・方法 精神疾患の遺伝子研究は着実な成果を創出しているが、感受性遺伝子と疾患の因果関係は不明なままである。本研究は最新のゲノム統計学的解析として用いられている遺伝的相関解析を実施、有意となった形質に関してメンデリアンランダム化(MR:Mendelian Randomization)解析を実施し、双極性障害、統合失調症の「原因」となりうる「形質」および「遺伝子(多型)」同定を目的とした。
結果・考察 日本人精神疾患と他の形質との遺伝的相関では、メタボリック症候群関連の形質が有意であったが、因果関係に関して有意なものは認められなかった。特に、遺伝的にメタボリック症候群の「なりにくさ」と双極性障害/統合失調症の発症しやすさと関連することは重要である。換言すれば、精神疾患の肥満などは後天的な要因が強い可能性が示唆される。
岩田 正明
アブストラクト
研究報告書
鳥取大学医学部 脳神経医科学講座 精神行動医学分野 生体試料を用いた客観的ストレス度測定法の開発2100
ストレスチェック制度はストレスを早期に把握し改善につなげる可能性がある点で非常に有用である一方、主観的に感じているストレスの度合いと疾病とが直接結びつくかは明確ではない。ストレスを客観的に測定し、また将来の疾病への発展を予測することができれば、早期に介入し未病での対応ができる可能性がある。
本研究では、血液を用いて客観的なストレス度を測定する手法の開発を目的とした。その結果、ストレスにより抑うつ・不安行動を示す動物は、脳内の炎症誘発性受容体であるNLRP3活性、およびNLRP3活性を抑制することで知られる血液中β-ヒドロキシ酪酸 (BHB)濃度を上昇させること、また脳内NLRP3活性と血中BHB濃度は相関することがわかった。このことから、ストレス下で血中BHB濃度が高いことは、ストレス脆弱性を示している可能性が考えられ、血液中BHBはストレスを反映した生体試料となりうる可能性が示唆された。
斎藤 顕宜
アブストラクト
研究報告書
東京理科大学薬学部 薬学科新規向精神薬開発に向けたδオピオイド受容体作動薬の恐怖記憶制御メカニズムの解明2100
本課題では、情動制御におけるδオピオイド受容体(DOP)の作用機序を明らかにすることを目的とした。KNT-127は、マウス扁桃体基底外側核(BLA)および内側前頭前野infralimbic (IL)領域に局所投与することにより、条件性恐怖記憶に対する消去学習を亢進させた。この効果は、BLA内へのMEK/ERK阻害薬およびIL内へのPI3K/Akt阻害薬により消失した。また電気生理学的検討により、KNT-127はILのGABA神経系の脱抑制により興奮性神経伝達を増強する可能性を見出した。以上の検討から、DOP作動薬による恐怖記憶の消去促進効果には、BLAのMEK/ERK経路およびILの PI3K/Akt経路を介したGABA神経系の脱抑制の関与が示唆された。本成果により、情動制御メカニズムの理解に基づいたDOPをターゲットとした創薬基盤データとなることが期待される。
内匠 透
アブストラクト
研究報告書
神戸大学大学院医学研究科 生理学分野レジリエンスエンハンサーを求めて1100
鬱(うつ、気分障害)は経済社会生活にも大きな重荷をもたらす精神疾患であるが、治療は未だ限定的である。近年では、ストレスに対して抵抗力と回復力の二側面をもたらす気分調節機能として「レジリエンス resilience」の概念が注目を集めている。一方、約24時間周期の概日リズムは、ヒトを含む地球上のほぼ全ての生物が有する基本的生命現象であり、ヒトの場合、睡眠・覚醒リズム他様々な生理現象や疾患と関係している。概日リズムと気分との関連研究から、時計タンパク質PER2のリン酸化部位変異により、睡眠相前進症候群及びレジリエンスになることを明らかにした。
陳 冲
アブストラクト
研究報告書
山口大学大学院医学系研究科 高次脳機能病態学講座情動情報処理評価バッテリーがうつ病の治療バイオマーカーとしての有用性の検討2100
情動認知障害がうつ病の発症と治療に大きく関与することが近年明らかとなってきた。そのため、本研究では、価値に基づいた意思決定の観点から情動認知を多側面的に評価する「情動情報処理評価バッテリー」の開発を目的とし、その妥当性を検証し、うつ病の治療バイオマーカーとしての有用性を検討する。これまで神経経済学で用いられた意思決定課題を選別・改善したうえ、評価バッテリーを作成し、妥当性を検証した。その結果、リスク選好を評価するギャンブリンブ課題を用いた解析では、計算論的モデリングによって特定した確率荷重係数がうつ症状と特異的に関連することが分かった。さらに、心理的介入としたポジティブな記憶想起によって、確率荷重係数がうつ症状による変化と逆方向で変動することも明らかとなった。今後、神経画像検査と同時に用いて、うつ病の治療反応性を予測できるバイオマーカーの開発を行っていく予定である。
菱本 明豊
アブストラクト
研究報告書
横浜市立大学大学院医学研究科 精神医学部門網羅的ゲノムデータを用いた遺伝統計学的な自殺リスクの探究1100
我々は欧米人自殺行動GWASデータをTarget datasetとして、既に公開されている精神疾患(うつ病・双極性障害・統合失調症・不安障害・PTSD・ASD・ADHD・摂食障害・各種物質依存・アルツハイマー型認知症)の大規模GWAS統計量データをDiscovery datasetとしてPRS解析を行った。同様に日本人自殺者GWASデータと、PGCデータベース等で公開されているうつ病・統合失調症の大規模GWAS統計量データの組み合わせでも実施した。欧米人集団においては、うつ病・双極性障害・統合失調症・ADHD・アルコール依存症が、統計学的有意に自殺と遺伝的リスクを共有していた。東アジア人集団においては、うつ病・統合失調症が、統計学的有意に自殺と遺伝的リスクを共有していた。“うつ病・統合失調症と自殺との遺伝的リスク共有度”は、東アジア人集団に比して欧米人集団のほうがより強い傾向にあった。
朴 秀賢
アブストラクト
研究報告書
熊本大学大学院生命科学研究部 神経精神医学講座幼少期ストレスとmiRNAに着目した気分障害の病態解明とバイオマーカー探索1100
幼少期ストレス・気分障害・成体海馬神経細胞新生・miRNAの関係に着目して、気分障害の病態解明とバイオマーカー探索を行った。まず、幼少期ストレスをラットに負荷し、成体に達した時点で海馬と血清を採取してRNAを抽出し、マイクロアレイ解析を行うことにより、幼少期ストレスが海馬と血清で発現を変化させるmiRNAを網羅的に同定した。海馬で発現が変化したmiRNAを用いた生物学的解析は現在進行中である。血清で発現が変化したmiRNAが実際にヒトの気分障害患者の血清で発現が変化しているかを検討したところ、うつ病・双極性障害それぞれにおいて、発現が有意に変化しているmiRNAを4種類ずつ同定した。更に、うつ病においては、4種類のmiRNAの発現変化が非常に良いバイオマーカーになる可能性が示唆された。本研究の今後の発展により、気分障害の病態解明とバイオマーカー探索が促進される可能性が期待される。

脳器質疾患・認知症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
大久保 善朗
アブストラクト
研究報告書
日本医科大学大学院医学研究科 精神行動医学分野タウイメージングによる高齢者うつ病性仮性認知症の病態診断1100
高齢者うつ病患者を対象に、PETよるタウイメージングを行い、高齢者のうつ病性仮性認知症におけるタウ病理を探るとともに、タウイメージングによる高齢者うつ病の病態診断の臨床的意義を探った。タウイメージングでは、神経原繊維病理のBraakのステージ分類に一致した所見が、生体で確認、評価できることを確かめた。さらに、高齢うつ病患者の中にタウ蛋白の集積が高い患者が存在することを確認した。症例の中にはアルツハイマー病の前駆症状としてうつ病エピソードを示していた症例が含まれていた。さらにタウ病変の分布から、大脳基底核変性症などのタウオパチーと診断される症例を発見した。高齢者のうつ病性仮性認知症におけるタウ病変と、認知機能、治療反応性などの関連を明らかにすることができれば、病態に基づく高齢者うつ病の新しい診断、治療法の開発に役立てることができると思われた。
山崎 雄
アブストラクト
研究報告書
広島大学病院 脳神経内科APOE4の分子病態を応用した認知症先制治療法を実現するための基盤研究1100
本研究助成金の補助を得て、「APOE4は分子Xの発現を介し脳Aβ蓄積を促進させるか?」を実験医学的に明らかにするための研究基盤が整った。具体的には、アンチセンスオリゴ(ASO)を用いた分子Xの脳内制御法の開発、ASOにより分子Xが脳内制御法されたAPOE4マウスモデルの構築、分子Xとアルツハイマー病関連分子との生化学的関連性を明らかにするための剖検脳コホートの構築、に取り組み、予定していたベンチマークを達成した。

発達障害

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
江川 純
アブストラクト
研究報告書
新潟大学大学院医歯学総合研究科 精神医学分野マカクザルを用いた心の理論の脳基盤の解明1100
「心の理論」の脳基盤を明らかにするために、実験動物の中で最もヒトに近い種であるマカクザルにおいて、言語的教示が不要でヒト以外の霊長類でも施行可能な「非言語的」誤信念課題および侵襲的な脳回路操作や脳イメージング技術を適用した。PET撮像で強い信号が得られた側頭頭頂接合部脳溝内部、上側頭溝内部領域はこれまで、解剖学的な研究において神経投射トレーサーによって同定された9m野への投射が報告されている領域に大まかには一致する。しかし、これまでの報告は、本研究より広い領域にトレーサーを注入したものが多く、より単一機能領域に近い限局した領域への投射様式が明らかになった点は、意義深い。またPET、MRIによる全脳イメージングによって、皮質下の構造への投射も同時に明らかになったことは重要である。本実験により心の理論の脳基盤の理解が進み、特に皮質下の脳ネットワークの関与が明らかになった。
戸田 重誠
アブストラクト
研究報告書
昭和大学医学部 精神医学講座pupillometryを用いたADHDの意思決定と注意制御の関係の解明2100
 コロナ禍のため被験者を募集した検査が十分に果たせず、予定よりかなり遅延している。そのため、成人ADHD患者における瞳孔径拡大の所見に関して、詳細に数理解析を行った。まず、瞳孔径のリズミックな変動に注目し、瞳孔径変化が主にノルアドレナリン神経核からの交感神経の活動性に依存することをモデルとして提唱した(参考文献#2)。さらに、瞳孔径ベースライン値、瞳孔径の一過性変化の複雑系の指標であるサンプルエントロピー、左右瞳孔径の非対称性を示すトランスファーエントロピーの3指標を同時に用いるとADHDの機械学習的診断の精度が向上することを証明し、特許出願及び論文出版した(参考文献#1)。現在、瞳孔径の左右差が左右神経核の異なる活動性に依存すること、またその左右の活動性の違いが定型発達者と成人ADHD患者で異なることをサンプルエントロピーを用いた機械学習で示すことに成功し、論文投稿準備中である。
西山 正章
アブストラクト
研究報告書
金沢大学医薬保健研究域医学系 組織細胞学大人の発達障害を治療するための研究1100
クロマチンリモデリング因子CHD8をコードする遺伝子の変異は、自閉スペクトラム症(ASD)と強く関連している。CHD8ハプロ不全は、ヒトとマウスにASDの表現型をもたらす。髄鞘形成の異常はASD患者で観察されているが、オリゴデンドロサイトの機能障害がASDの表現型の原因であるかどうかは不明のままである。Olig1-Creマウスとfloxed Chd8対立遺伝子がヘテロ接合であるマウスを交配することにより、オリゴデンドロサイト系統特異的Chd8ヘテロ接合変異マウスを作製した。オリゴデンドロサイトにおけるCHD8の発現低下は、マウスにASD関連の行動表現型を引き起こした。特にマウスのオリゴデンドロサイトにおけるChd8の除去は、ランビエ絞輪の構造変化と神経伝導速度の低下に関連して薄いミエリン鞘を示した。さらにこのマウスは、不安の増加や社会的行動の変化などの行動障害を示した。
牧之段 学
アブストラクト
研究報告書
奈良県立医科大学 精神医学講座自閉スペクトラム症のCD4+細胞研究1100
定型発達者20名、高機能ASD者40名のPBMCsシングルセルATACseq、シングルセルRNAseqを施行し、現在解析中である。血漿サイトカイン解析(IL-4, IL-6, IL-8, IL-1β, IL-17A, IL-10, IFN-γ, TNF-α)を行ったが、検出感度未満のサンプルが多く、ELISAで再測定した。高機能ASD者では血漿INF-γ値とSingelis scaleのindependentスコアとの間に正の相関を、interdependentスコアとの間には負の相関を認めたが、定型発達者ではこれらを認めなかった。INF-γは主にTh1細胞などの特定の細胞から産生されるサイトカインであり、血漿INF-γ異常はこれらの免疫細胞に起因すると考えられることから、ASD者の文化的自己観がこれらの免疫細胞によって規定される可能性が示され、今後得られるT細胞解析結果の解釈に有用な結果が得られた。

その他

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
久島 周
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学医学部附属病院ゲノム医療センター/大学院医学系研究科 精神医学分野精神疾患の発症に関与するノンコーディングRNAの同定1100
本研究では、双極性障害(BD)、統合失調症(SCZ)、自閉スペクトラム症(ASD)のゲノムコピー数変異(CNV)データに基づき、病態上の類似性について検討した。遺伝子セット解析結果に基づく相関解析から、3疾患の間での病態の有意な相関を認め、3疾患の病態には類似性が確認できた。SCZとASDの相関が最も高く、BD とASD 、SCZとBD、の順番であった。次に、ノンコーディング領域のCNVについて病因との関連を検討した。神経細胞で確認された遺伝子制御領域(エンハンサー、プロモーター)に、SCZとASDのCNVが有意に集積することを確認した。これら制御領域は、神経細胞で発現する遺伝子の発現レベルを調節していることから、患者CNVによる遺伝子発現レベルの調節異常がゲノムワイドにみられる可能性が示唆された。
宮坂 知宏
アブストラクト
研究報告書
同志社大学生命医科学部 医生命システム学科 神経病理学研究室微小管結合タンパク質機能不全を起因とする育児放棄とその薬理学的治療1100
Tau およびそのパラログである MAP2 は、ともに微小管結合タンパク質の一種であり、それぞれ軸索または樹状突起において微小管の重合促進と安定化に寄与している。これらの機能的相補性については不明である。我々は、Tau/MAP2 double knockout(DKO) マウスを作成し解析した結果、DKO ♀マウスは産後哺育をしないことを見出した。この行動異常の原因として Oxytocin(Oxt) の低下が想定されたことから、本研究では DKO マウスの行動障害に対する Oxt 投与の効果、および Oxt 産生神経細胞の機能障害に関する細胞組織学的解析を試みた。出産直前からの Oxt 投与により、DKO マウスの育児行動障害は有意に改善した。さらに Oxt/c-fos の免疫二重染色により、Oxt 産生神経細胞の興奮と Oxt 分泌機能を評価できる解析系を確立した。今後さらに解析を進め、tau/MAP2 型微小管結合タンパク質機能不全における行動障害のメカニズム解明を進めたい。
*応募区分1:精神疾患の病因、病態に関連する研究(遺伝子研究を含む)
*応募区分2:精神疾患の症状、診断、治療に関連する研究(症例研究や疫学研究を含む)

令和2年度(第14回)
精神薬療分野 若手研究者助成金受領者一覧
<交付件数:12件、助成額:1,200万円>

統合失調症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
岩田 祐輔
アブストラクト
研究報告書
山梨大学医学部 精神神経学講座統合失調症におけるDAAO阻害とグルタミン酸2100
本臨床研究の目的はDAAO(D-amino acid oxidase)阻害薬である安息香酸ナトリウムが治療抵抗性統合失調症患者(SZ)の脳内グルタミン酸に与える影響について検討することである。安息香酸ナトリウムがSZの精神症状を改善することが報告されているが、グルタミン酸への影響は不明である。本研究は安息香酸ナトリウムの前帯状回(ACC)でのグルタミン酸濃度とグルタチオン(GSH)濃度への影響について検討する。前向き介入オープン試験で、治療抵抗性SZを対象とする。安息香酸ナトリウム(2g/d)を投与し、6週間観察する。基準時点と6週時にMRI撮影と精神症状評価を行う。現在、患者リクルートを行っている。試験撮像ではGlu、GSH共に良好な質の撮像データが得られた。治療抵抗例であり組み入れが困難な群ではあるが、プレスクリーニングも完了しており今後はスムーズな患者組み入れが期待される。
大井 一高
アブストラクト
研究報告書
岐阜大学医学部附属病院 精神科ポリジェニックリスクスコア、海馬体積および認知機能に基づく統合失調症と双極症の鑑別手法の開発2100
統合失調症(SZ)と双極症(BD)の病態には共通する遺伝素因と疾患特異的な遺伝素因の関与が示唆されている。両疾患の臨床的・遺伝的異種性軽減のための有望な中間表現型として、海馬体積や認知機能が挙げられる。本研究では、多数の遺伝子多型を用いて算出したポリジェニックリスクスコア(PRS)、海馬体積および認知機能を用いて、機械学習によるSZとBDの鑑別手法の開発を目的とする。本目的達成のために、まず(1)SZ、BDにおける皮質下体積変化、(2)知的機能障害とSZ、BD間の因果関係、(3) BDからSZを区分できる遺伝因子と認知機能の関連について検討した。それぞれ、(1)海馬体積は両疾患で低下、扁桃体体積はSZのみ低下、(2)SZと知的機能障害間のみ双方向性の因果関係を認めた、(3)BDからSZを区分できる遺伝因子は知的機能障害と相関という結果を得た。引き続き、PRS、認知機能、扁桃体体積を組み合わせ、機械学習を駆使することで、SZとBDの鑑別手法の開発を試みる。
鈴木 一浩
アブストラクト
研究報告書
東京都医学総合研究所 精神行動医学分野 統合失調症プロジェクト胎生期糖化ストレス曝露モデルを用いた統合失調症病態解明2100
これまでに統合失調症において糖化が病態に関与する可能性を報告している。また、疫学研究にて、妊娠中の糖尿病と精神病体験の関連を示している。しかし、妊娠中の高血糖が胎生期の神経発達にどのように影響があるのか、その詳細は明らかでない。本研究では、メチルグリオキサール(MGO)に着目し、その過剰による影響を検討した。交配から出産まで、母体にMGOを投与したマウスを作成、成長後の行動試験を検討し、次に脳組織中のGABAとモノアミン含有量を測定した。本マウスでは不安様行動が亢進していた。さらに、嗅球と線条体においてGABAの減少が認められた。この2部位では3MTの減少と、3MT/DAの代謝回転の低下が認められた。今回の結果は、統合失調症の中でも特に陰性症状とも関連づけられる可能性があり、糖化ストレス性統合失調症が陰性症状と関連するという知見と一致した。胎生期に着目することで、今後、精神疾患の0次予防策を検討しうると考えている。
中神 由香子
アブストラクト
研究報告書
京都大学環境安全保健機構 附属健康科学センター統合失調症における抗PDHA1抗体の病的意義解明1100
研究者はこれまでに、一部の統合失調症患者の血清にPDHA1(Pyruvate Dehydrogenase E1 Subunit Alpha1)に対する抗体が存在することを報告した。今回、この研究を発展させ抗体の病的意義解明を目指し2つの研究を行った。
研究1:統合失調症患者136名と健常群123名の血清を用い抗PDHA1抗体価が2群で異なるか統計学的評価を行った。結果、患者群では抗体価が統計学的に有意に高いことが示された(p<0.001)。
研究2:抗PDHA1抗体は統合失調症の病状を反映するstate markerであるのか、疾患に関連するtrait markerであるか検討するため、抗体陽性と既に報告している3名について、3年の経過における臨床症状と抗体価の推移を評価した。結果、抗PDHA1抗体は疾患に関連するtrait markerである可能性が示された。
2つの研究結果から、抗PDHA1抗体が統合失調症の診断マーカーになる可能性が考えられた。現在の症状に基づいた診断方法に革新をもたらすことが期待される。
中園 智晶
アブストラクト
研究報告書
福島県立医科大学医学部 システム神経科学講座統合失調症に関わる神経サーキットの光操作技術による解明1100
統合失調症はその症状の多様さのため、病態解明と治療法の確立が困難な疾患である。脳領野間の機能的結合である「神経サーキット」ごとに異なる症状を生み出していることが、このような症状の多様さの原因ではないかと考えられる。統合失調症の病因をこの神経サーキットを単位として「分解」することができれば、より効率的な治療の開発に繋がると期待できる。本研究では、最新の光遺伝学的操作を用いて個々の神経サーキットを特異的に操作することで、統合失調症の多様さを分解し理解することを目指した。前頭皮質刺激個体および腹側海馬-前頭皮質経路特異的刺激個体を作成し、その社会的行動を比較したところ、経路特異的刺激個体においては統合失調症陰性症状に似た行動異常を引き起こしうることを示唆するデータが得られた。これは、本手法によって精神疾患モデルを作成し経路特異的な症状を明らかにしうる可能性を示すものである。
藤野 純也
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 精神行動医科学分野/昭和大学発達障害医療研究所意思決定の特徴と背景メカニズムから検証する統合失調症と自閉スペクトラム症の異同1100
近年、自閉スペクトラム症(ASD)と統合失調症の鑑別・併存に関する議論が活発である。本研究課題では、グループでの社会行動に着目し、同疾患群の病態理解を深めることを目的とした。私達が集団生活を送るにあたり、自分が所属する内集団とそれ以外の外集団を区別して行動する、集団間バイアスが形成されることが知られている。しかし、ASDや統合失調症でこの傾向がどのようになっているかは十分に検証されていない。今回、処罰行動における集団間バイアスを評価する課題を作成したところ、ASD群では定型発達群と比較して、集団間バイアスが低下していることが示唆された。新型コロナウイルス感染拡大の影響があり、十分なデータ収集が困難であったが、今後、統合失調症のデータと比較し、両者の病態にせまっていきたいと考えている。

気分障害

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
梶谷 直人
アブストラクト
研究報告書
熊本大学大学院生命科学研究部 神経精神医学講座脳血管三次元構造解析によるうつ病の新たな創薬標的の探索1100
これまでに申請者は、うつ病の病態や治療メカニズムにリゾホスファチジン酸(LPA)が関与する可能性を示した。LPAは血管形成因子であることから、うつ病では脳血管系に障害がある可能性が考えられるが、これまで脳血管構造に着目した研究は未だ行われていない。本研究では、脳透明化技術を用いて、うつ病モデルマウスにおける脳血管の立体構造を解析し、うつ病の新たな創薬標的の基盤となる病態変化を探索することを目的とした。その結果、微小血管の三次元構造解析をうつ病モデルマウスで解析する実験系を確立した。今後、うつ病様行動や治療効果発現に応じた微小血管構造の可塑的変化が生じる脳部位が存在するか網羅的に解析する予定である。
高松 岳矢
アブストラクト
研究報告書
琉球大学大学院医学研究科 分子・細胞生理学多発家系iPS細胞とアレル特異的発現解析による双極性障害の遺伝要因の探索1100
双極性障害の病態生理はほぼ不明である。最近、転写調節領域に影響力の大きな原因が潜んでいる可能性が示唆された。しかしながら、従来の方法ではその探索は未だ困難である。そこで我々は双極性障害に強い影響をもつシス調節変異の同定を目的に、(1)significantな連鎖領域をもつ多発家系内患者を対象に、(2)その領域の遺伝子に対してiPS細胞由来神経細胞のRNAシーケンスを行い、リードデータと全ゲノム解析によるハプロタイプデータを統合してアレル特異的発現解析を行なった。その結果、本家系ではミトコンドリア関連遺伝子Xが患者ハプロタイプのみ有意に発現低下していることを発見した(FDR = 2.3×10-6)。遺伝子Xの発現低下が発症に影響した可能性がある。今後遺伝子Xと疾患との関係が証明できれば、病態研究や創薬など様々なブレイクスルーが期待される。

発達障害

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
山室 和彦
アブストラクト
研究報告書
奈良県立医科大学 精神医学講座前頭葉ー視床室傍核回路が形作る恐怖記憶の神経基盤の同定とその克服1100
視床室傍核(PVT)は社会性だけでなく恐怖記憶にも関わることが報告されているが機序は分かっていない。そこで、PVTにはオキシトシン(Oxtr)受容体を持つ細胞が豊富にあり、また別の領域ではあるがOxtrと恐怖記憶との関連も報告されているため、今回我々はPVTにおけるOxtr受容体と恐怖記憶との関連に注目した。PVTのOxtr+神経細胞を選択的に活性化することで恐怖記憶の消去が進む一方で、Oxtr+神経細胞を選択的に抑制することで恐怖記憶の消去が悪化することを明らかにした。今後はホールセルパッチクランプ法やファイバーフォトメトリーを用いたカルシウムイメージングの実験を行いさらに深く追求していきたい。

その他

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
有岡 祐子
アブストラクト
研究報告書
名古屋大学医学部附属病院 先端医療開発部精神疾患をもたらすヒト神経細胞遊走機構の解明1100
発達期における神経細胞は方向性をもって遊走し、その異常は精神疾患発症につながると考えられる。しかし、様々な発症リスクゲノムバリアントを起点として、如何なるメカニズムでヒト神経細胞の遊走機構に影響を及ぼし精神疾患を引き起こすのか、その共通分子・細胞機構は不明である。そこで本研究では、患者iPS細胞とゲノム編集iPS細胞を用いて、ゲノムバリアント横断的な①神経細胞内分子ネットワーク変化と②申請者独自に開発したシステムを取り入れたヒト神経細胞遊走の動態変化解析をおこなった。その結果、ゲノムバリアント横断的に発現変化する遺伝子は神経発生・発達・形態に関わるカテゴリに集積すること、さらに共通の遊走異常動態を見出した。今後、これら共通の分子ネットワーク異常が遊走能低下の表現型の分子基盤であるかどうかを解析する予定である。
泉尾 直孝
アブストラクト
研究報告書
富山大学学術研究部 薬学・和漢系 薬物治療学薬物依存症に対する免疫細胞制御を標的とした治療戦略2100
メタンフェタミン(METH)を代表とする依存性薬物は、脳内報酬系に強く作用することで強力な精神依存を引き起こし、またその乱用により幻覚・妄想などの精神症状を呈するが、有効な治療法は存在せず、新規の薬物治療が期待されている。これまでに、オステオポンチンが薬物依存やアルツハイマー病に対して保護的な作用を有することが明らかとなっている。そこで本研究では、多発性硬化症治療薬でありオステオポンチン発現作用を有するグラチラマー酢酸塩(GA)に着目し、その依存抑制作用について検討した。METH誘導性の依存性行動はGAにより抑制された。GAは、側坐核におけるオステオポンチンの増加および脳内オステオポンチン陽性ミクログリアの数を増加させた。以上より、GAはオステオポンチン陽性ミクログリアを脳内で増加させ、METH誘導性の依存性行動が抑制されることが示唆される。本研究は末梢免疫細胞の制御が薬物依存の治療戦略となる可能性が示す。
貞廣 良一
アブストラクト
研究報告書
国立がん研究センター研究所 免疫創薬部門術後せん妄発症において免疫寛容が果たす役割の解明と、新規予防標的の探索1100
本研究は、術後せん妄発症における免疫応答を解明することを目的として末梢血免疫プロファイル解析を行った。6時間以上の高侵襲外科的がん切除とICUでの術後回復を予定し、60歳以上で術前MMSE27点以上の患者192名のうち、術後せん妄を発症した44名と、がん種ごとに傾向スコアで背景を調整した非せん妄44名の末梢血単核細胞を、Flow Cytometryで解析し比較した。せん妄群では、①術前と②術直後のTh17割合が高く、②術直後・③術後1日目のTh17とnaïve Tregのバランスが、Th17に偏っていた。またせん妄群は、③手術翌朝のnaïve Tregの活性化受容体(ICOS)陽性細胞率が低かった。また、Th17/ naïve Treg比の術後せん妄予測精度は高く、精神運動焦燥を伴う過活動型せん妄の発症を正確に予測していた(AUC=0.87)。
*応募区分1:精神疾患の病因、病態に関連する研究(遺伝子研究を含む)
*応募区分2:精神疾患の症状、診断、治療に関連する研究(症例研究や疫学研究を含む)

令和2年度
精神薬療分野 若手研究者継続助成金受領者
<交付件数:1件、助成額:100万円>

統合失調症

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題区分
(*)
助成額
(万円)
塩飽 裕紀
アブストラクト
研究報告書
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 精神行動医科学分野統合失調症の自己抗体病態の解明1100
統合失調症は、GWAS解析が精力的に行われ、その中でも最も高い遺伝リスク領域としてHLA領域が繰り返し指摘されてきた。同様に自己免疫と統合失調症の疫学的な関連も古くから指摘されてきたが、その病態の本態は不明であった。本研究は、神経細胞分子に着目し、「統合失調症でも未知の自己抗体が存在し、統合失調症の病態を形成する」という仮説を解析することが目的である。統合失調症120名中5名にGABAA受容体に対する自己抗体があることを発見した(Shiwaku et al. 2020)。さらに新規の自己抗体を5つ発見した。患者から精製したIgGを投与したモデルマウスで分子レベル・シナプス形態レベル・行動レベルで統合失調症様の表現型が得られることを確認した。これらの自己抗体は統合失調症のサブタイプのマーカーとして機能し、これらの自己抗体をターゲットとした免疫学的な介入が新たな治療戦略になる可能性がある。
*応募区分1:精神疾患の病因、病態に関連する研究(遺伝子研究を含む)
*応募区分2:精神疾患の症状、診断、治療に関連する研究(症例研究や疫学研究を含む)

令和2年度(第24回)
精神薬療分野 海外留学助成金受領者一覧
<交付件数:1件、助成額:500万円>

(五十音順、敬称略)
研究者名所属機関研究課題助成額
(万円)
(留学先)
北川 良憲鳥取大学医学部附属病院 麻酔科Post-intensive care syndrome (PICS) におけるフェロトーシスの解析500
Department of Anesthesia and Critical Care Massachusetts General Hospital, U.S.A.
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