研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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井上 泰輝 アブストラクト 研究報告書 | 熊本大学大学院生命科学研究部 脳神経内科学講座 | 解糖系酵素に焦点を充てた脳アミロイド血管症の病態解明と治療開発 | 100 |
脳アミロイドアンギオパチー (CAA) は、アルツハイマー病 (AD) 患者の90%に随伴し、Aβが脳血管に沈着、脆弱化し脳出血を発症する。申請者はこの難治性疾患の治療法を開発すべく、素その鍵となるCAAにおける共存タンパク質を同定した。その中で、Aβに次いで2番目に多く発現するα-エノラーゼに着目し、α-エノラーゼが ① Aβの線維形成を抑制 ② Aβ線維を分解、さらに ③ Aβの細胞毒性を抑制することを見出した。本研究開発では、その線維形成抑制機序の解明に挑みα-エノラーゼによるAβ線維形成抑制にはセリンプロテアーゼ作用が関与することを証明した。さらに、α-エノラーゼのAβ線維形成抑制には、その酵素活性が関与することを立証した。これれらの新知見は、α-エノラーゼの酵素活性を応用した創薬への展望を開くものと考える。 | |||
河野 浩之 アブストラクト 研究報告書 | 杏林大学医学部 脳卒中医学 | 急性期脳梗塞に出現した「ゴースト虚血コア」の正体を明らかにする | 100 |
急性期脳梗塞に対する血管再開通療法の治療適応は、虚血コア(救出不能脳組織)の範囲で決まる。しかし、虚血コアを救出できる「ゴースト虚血コア(GIC)」を経験する。本研究の目的はGIC頻度と出現に関連する因子を明らかにすることである。2019/1月~2020/9月に入院した発症24時間以内の急性期脳梗塞患者(内頚動脈または中大脳動脈閉塞)で、治療前にCT灌流画像を実施し良好な再開通を得た47症例(男性25例、中央値78歳、発症~画像検査136分)を対象とした。虚血コアと脳梗塞体積の差(体積差絶対値)と、脳梗塞発症~画像検査時間を比較した。ベイズ法では両者の関連はなかったが、SVD法では早く画像診断するほど体積差絶対値が大きかった。GICの頻度はベイズ法39%、SVD法50%であった。画像解析計算方法と、発症~画像検査時間によりゴースト虚血コアの出現に関連することが示唆された。 | |||
川堀 真人 アブストラクト 研究報告書 | 北海道大学医学部 脳神経外科 | 幹細胞生存率が脳血管障害回復に与える影響の検討 | 100 |
幹細胞の生存率が損傷神経細胞の回復にどのように影響を及ぼすかについて検討した。0%、50%、80%、100%の生存率の細胞を用いた場合において想定と違い80%の生存率の細胞が最も神経細胞へのrescue効果が認められる結果であった。一定量の死亡細胞の混入が機能回復に有効である可能性が示唆され非常に興味深い結果となった。 | |||
近藤 輝幸 アブストラクト 研究報告書 | 京都大学大学院工学研究科 物質エネルギー化学専攻 基礎物質化学講座 先端医工学分野 | 脳動脈瘤の破裂リスクを評価するマクロファージイメージング MRI 造影剤の開発 | 100 |
脳動脈瘤の破裂によるくも膜下出血は、死亡率(~50%)および後遺症率が極めて高く、健康寿命を大きく損なう疾患である。脳動脈瘤は血管分岐部に多発し、血流ストレスによる血管壁の慢性炎症と考えられる。本研究では、脳動脈瘤病変部に高集積するマクロファージの MRI 画像に不可欠な生体適合性ポリマー被覆 Gdナノ粒子造影剤を開発する。本造影剤により、脳動脈瘤の破裂リスク評価が可能になり、不必要な外科治療の介入と合併症(>10%)を回避できる。さらに、治療薬開発時の薬効評価マーカーとしての利用も期待される。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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依馬 正次 アブストラクト 研究報告書 | 滋賀医科大学動物生命科学研究センター 幹細胞・ヒト疾患モデル研究分野 | 遺伝子改変非ヒト霊長類を用いたトランスサイレチン型心アミロイドーシスの疾患機序の解明 | 100 |
アミロイドタンパク質が心臓に蓄積する心アミロイドーシスは若年者にも発症し、急激に心機能が低下して死に至る極めて難治性の高い予後不良の心疾患である。心アミロイドーシス動物モデルとしてマウスでの開発が進められているが、ヒトとマウスでは心臓血行動態が大きく異なるため、本研究では、心アミロイドーシスを発症する遺伝子改変カニクイザルを作製することで、その病態を非ヒト霊長類モデルで再現し、病態発症機序を明らかにすることを目的とした。これまでにトランスポゾン型のベクターにα-MyHCプロモーターおよびcDNAを組み込んだベクターを構築し、マウス受精卵に注入してトランスジェニックマウス胚を得たところ、心筋細胞特異的に発現することを確認した。さらにカニクイザル受精卵に注入し、仮親カニクイザルに移植したところ、1頭の妊娠個体を得ることができたため、今後解析を進める予定である。 | |||
大谷 健太郎 アブストラクト 研究報告書 | 国立循環器病研究センター研究所 再生医療部 | 周産期心筋症の病態形成に関与する新規の脳-心臓連環機構の解明 | 100 |
妊娠女性の体内では胎児発育に必要な栄養や酸素等を子宮に届けるため、様々な血行動態変化が生じる。妊娠中に生じるこれら生理的変化は通常出産後速やかに正常化するが、一部の妊産婦では妊娠後期から産褥期にかけて周産期心筋症 (PPCM)を発症する事が知られている。先般、我々は心房性・脳性ナトリウム利尿ペプチドの共通受容体GC-Aの遺伝子欠損マウス(GC-A-KO)が授乳期にPPCM様の顕著な心臓リモデリングを呈することを見出した。本研究にてその発症メカニズムを詳細に検討した結果、GC-A-KOにおける授乳期心臓リモデリングは脳内アルドステロン-ミネラロコルチコイド受容体(MR)系の活性化を介した交感神経非依存的なシグナルにより誘発されることが示唆された。また、脳内アルドステロン-MR系の活性化に加え、妊娠・出産に伴う母体環境の変化がPPCMを始めとした周産期関連疾患の発症に関与する可能性が示唆された。 | |||
桑原 宏一郎 アブストラクト 研究報告書 | 信州大学医学部 循環器内科 | 心不全におけるCaMK-NRSF-GalphaO回路の治療標的としての意義 | 100 |
心不全を呈し突然死するNRSF心筋特異的ノックアウトマウス(NRSF CKO)および優性抑制変異NRSF過剰発現マウス(dnNRSF-Tg)の解析によりNRSF機能低下による心筋収縮機能低下におけるG蛋白GalphaO発現亢進を見出した。GalphaO は圧負荷心不全モデル、トロポニンT変異心筋症モデルにおいても発現亢進しており、またGalphaO をコードする遺伝子GNAO1のノックアウトマウスはこれらモデルマウスの心機能低下、死亡率を改善した。一方でGNAO1心筋特異的過剰発現マウスは心機能低下を示した。これらの分子機序として、GalphaOの発現亢進が心筋細胞においてL型カルシウムチャネル(LTCC)活性の局在変化を引き起こしT-tubuleでのLTCC活性の低下と筋細胞膜表面のLTCC活性を亢進させることによりCaMKIIシグナル活性化とSR機能低下を引き起こすことを明らかにした。 | |||
小林 茂樹 アブストラクト 研究報告書 | 山口大学大学院医学系研究科 器官病態内科学講座 | リアノジン受容体を標的とした新しい心不全・不整脈治療の開発 | 100 |
本研究では独自に開発したRyR2からのCaMの解離を遺伝的に抑制したノックインマウス(V3599K KIマウス)を用いて、RyR2からのCaM解離を選択的に抑制することが、心不全・心肥大・致死的不整脈の是正につながるかを実験的に検証するとともに、臨床的にもRyR2安定化薬(ダントロレン)を用いて、RyR2からのCaM解離の抑制が、心不全・重症不整脈に対して有効であるかを明らかにすることを目的とした。RyR2の遺伝子治療および薬物治療によるRyR2安定化治療は、RyR2構造安定化によるCa2+漏出を抑制し、心筋梗塞モデル、横行大動脈縮窄モデルにおいて、心機能改善、抗不整脈作用にて有意な予後改善効果を認めた。また、心不全に合併した致死的不整脈に対するRyR2安定化治療の効果は臨床的に確認できた。今後、RyR2安定化治療による抗不整脈効果やSHO-IN試験による慢性心不全に対する効果に関するエビデンスが蓄積すれば、全く新しい心不全治療となる可能性がある。 | |||
新谷 泰範 アブストラクト 研究報告書 | 国立循環器病研究センター 分子薬理部 | ミトコンドリア呼吸鎖障害の非心筋細胞における意義 | 100 |
ミトコンドリア心筋症の原因は、ミトコンドリア呼吸鎖の機能不全であり、有効な治療薬がない。ミトコンドリア心筋症の病態形成における呼吸鎖障害の意義を、免疫細胞をふくめた1細胞レベルで検討した研究はない。本研究では、ミトコンドリア心筋症モデルを用いて、呼吸鎖障害の非心筋細胞における意義、病態修飾に及ぼす影響を検討した。8週齢の野生型マウスをコントロール、メスのノックアウトマウスの8週齢、17週齢の3個体について、1細胞核発現解析をおこなった。3個体から合計31812個の細胞の良質な遺伝子発現情報を取得することに成功した。ノックダウン率は細胞種間で偏りがなく、呼吸鎖不全に対する細胞の反応性の違いを検証する有用なモデルであることが確かめられた。繊維芽細胞と免疫細胞についても、発現プロファイルの転換を見出しており、今後も研究継続し機能解析につなげることが必要である。 | |||
鈴木 佐和子 アブストラクト 研究報告書 | 千葉大学医学部附属病院 糖尿病代謝内分泌内科 | グルタミン代謝調節機構の破綻によるフェロトーシス細胞死を介した心障害および臓器連関 | 100 |
Glutaminase2 (GLS2) はグルタミン代謝のmaster regulatorであり、心臓の高いエネルギー需要に応えるため、ATP産生の基質供給に重要な役割を果たす。一方で、本研究からGLS2はαケトグルタル酸を介して過酸化脂質の増加を引き起こすことでフェロトーシスを誘導し、ドキソルビシン誘発性心障害を悪化させることが明らかとなった。アントラサイクリンの一種であるドキソルビシンは、乳癌、白血病など多くの種類の悪性腫瘍の治療に一般的に使用されるが心臓毒性のため使用制限を余儀なくされる症例も存在し薬物の抗癌特性を損なうことなくドキソルビシン誘発性心臓損傷を管理することが望まれている。普遍的に存在する重要代謝経路グルタミン代謝のモジュレーターやフェロトーシス制御モジュレーターが、今後ドキソルビシン誘発性心臓症の治療応用に有用である可能性が示唆された。 | |||
須田 将吉 アブストラクト 研究報告書 | 新潟大学医学部医学科 循環器内科 | 老化細胞除去ワクチンによる心血管疾患治療の開発 | 100 |
マウスに対するGPNMB陽性の老化細胞をADCCにより除去する抗体を産生するワクチン療法を確立した。このワクチン療法は肥満、糖尿病モデルマウスや動脈硬化モデルマウスなど生活習慣病に有用であり、さらには老齢マウスの運動能低下を抑制したことから、加齢や加齢関連疾患の健康寿命を改善させることが示唆された。また、早老症モデルマウスにおいては寿命延長効果も認めた。これらの事から、細胞老化を標的とした循環器疾患に対するワクチン療法の有用性が示された。 さらにヒト化マウスを用いてヒトGPNMB抗体を得ることができたが、ADCC活性を有する抗体が得られていない。今後得られた抗体に薬剤を結合させるなど応用した抗体製剤の作成についても検討していきたい。 | |||
武田 憲彦 アブストラクト 研究報告書 | 自治医科大学分子病態治療研究センター 循環病態・代謝学研究部 | 心室拡張不全の治療に役立つ新規心臓線維化マーカーの探索 | 100 |
心筋組織の過剰な活性化は心臓拡張不全の主たる原因の一つと考えられている。しかしながら心臓線維芽細胞がなぜ活性化するのか、これまでその病態機構が十分に明らかになっておらず、拡張不全の指標となるバイオマーカー同定および治療法開発における大きな課題とされてきた。 我々は心臓線維芽細胞の活性化プロセスを検証し、その分子機構を明らかにすることで、心臓線維化マーカーの同定へと繋げることを目的として本研究を行った。これまでの解析で心臓線維芽細胞の活性を評価するin vitro解析系を樹立しており、上記実験系を用いて線維芽細胞活性化の分子機構解明に取り組んでいる。 | |||
豊原 敬文 アブストラクト 研究報告書 | 東北大学大学院医工学研究科 分子病態医工学分野 | 小胞体エステラーゼAADACを用いた新たな動脈硬化・糖尿病合併症治療の開発 | 100 |
申請者は重篤な心血管疾患を有する糖尿病患者と有さない糖尿病患者由来のiPS細胞から血管平滑筋細胞を分化誘導して遺伝子発現を比較することによって小胞体リパーゼAADACが動脈硬化抑制的に働いていることを明らかにした。本研究ではこの知見を発展させてAADACの全身臓器における役割を明らかにし、AADACの転写調節領域の解明を行うことを目的とした。AADACをtamoxifen依存的に全身に発現あるいはノックアウトするマウスを作製して血糖や脂質の変化を解析中であるが、先行実験として血管平滑筋特異的AADACノックアウトマウスで高脂肪食による血糖変化をみたところwild typeと大きな違いは認めなかった。またGenehancerを用いたin silicoで候補に上がった転写調節領域に対してdeactivated Cas9で刺激を加える準備も終了し、現在転写調節領域も探索中である。 | |||
永井 利幸 アブストラクト 研究報告書 | 北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学教室 | HFpEFの個別化医療を目的としたディープフェノタイピングによる新規クラスター構築 | 100 |
有効な治療法が確立されていない左室駆出率が保持された心不全(Heart Failure with preserved Ejection Fraction:HFpEF)に対し、詳細な生体情報解析、そして人工知能による深層学習を用いることにより、HFpEFの個別化診療基盤を構築することが本研究の目的である。全国24施設から500例のHFpEFを登録し、詳細な臨床情報に加え、採取した血液検体からマルチバイオマーカー・ゲノム・オミックス解析、虚弱を反映する歩行動画の人工知能解析、そしてネットワーク統合解析を行い、ディープフェノタイピングによるHFpEF症例の新しいクラスター分類を構築する。構築された新規クラスター分類と有害事象との関連を検討し、新規クラスター分類の予後層別能、そして各種心不全薬物療法に対する効果を特に得られやすいクラスターの存在を検証し、個別化診療に応用できる基盤データを構築する。現在500症例の登録を達成し、予後追跡及び各種データ解析を進めている。 | |||
中川 嘉 アブストラクト 研究報告書 | 富山大学和漢医薬学総合研究所 複雑系解析分野 | 腸肝脂質代謝とFGF21による動脈硬化発症制御機構 | 100 |
CREBHは栄養飢餓時に発現が上昇する転写因子であり、肝臓と小腸にのみ発現する。CREBHは肝臓で脂質代謝、小腸では脂質吸収を制御することで全身の脂質代謝を調節する。特にCREBHはFGF21を誘導することが大きく影響していると考えられている。本課題では脂質代謝の終末像である動脈硬化に対するCREBHの機能を解析するため、CREBH KO、肝臓特異的CREBH KO (LKO)、小腸特異的CREBH KO (IKO)、肝臓CREBH Tg、FGF21 KOマウスと動脈硬化モデルマウスであるLDLR KOマウスを交配し、解析を行った。CREBHの全身および各組織特異的欠損で動脈硬化は悪化したのに対し、CREBH肝臓過剰発現は動脈硬化を改善させた。CREBH過剰発現マウスとFGF21 KOマウスを交配しても、病態の改善効果は維持されており、改善効果にはFGF21を介さない部分が大きく影響していることを明らかにした。 | |||
名越 智古 アブストラクト 研究報告書 | 東京慈恵会医科大学 内科学講座 循環器内科 | ナトリウム利尿ペプチドによる心臓エネルギー代謝調節とその病態生理学的意義 | 100 |
ナトリウム利尿ペプチド(NP)の血行動態改善作用に加え、脂肪組織を介したエネルギー代謝への関与が注目されている。高脂肪食負荷肥満マウス(HFD)に3週間ANPを持続投与したところ、インスリン抵抗性が改善し、さらに寒冷刺激での体温保持効果を認めた。組織学的解析の結果、ANPはHFD群の肝臓におけるNAFLD/steatosis score、組織中性脂肪含有量を有意に改善した。また、褐色・白色脂肪組織において脂肪滴の縮小、炎症の改善に加え、UCP1発現上昇を介し、白色脂肪の褐色化及び褐色脂肪活性化をもたらした。総じて、生理活性のあるANP投与がNAFLD改善・脂肪組織褐色化を介し、インスリン抵抗性を改善すると同時に、低温環境下での体温保持へ寄与する可能性が示唆された。 | |||
肥後 修一朗 アブストラクト 研究報告書 | 大阪大学大学院医学系研究科 重症心不全内科治療学寄附講座 | SARS-CoV-2がヒト心筋細胞に及ぼす影響の解明 | 100 |
SARS-CoV-2により引き起こされる新興感染症COVID-19は全世界にパンデミックを引き起こし、本疾患に関わる多くの臨床データが得られるなかで、SARS-CoV-2は急性期、及び慢性期に心筋障害を引き起こすことが明らかとなった。更に、スパイク(S)タンパク質をコードするmRNAワクチンの投与により、心筋炎を発症することが明らかとなった。ヒト病態モデルを用いて、SARS-CoV-2がヒト心筋細胞に及ぼす影響の解明が必要と考え本研究計画を立案した。本研究は、iPS細胞から分化させた心筋細胞を用いて、SARS-CoV-2がヒト心筋細胞に与える直接の影響を解明することを目的とし、①ヒトiPS分化心筋へのSARS-CoV-2感染動態の解明、②ゲノム編集を用いたSARS-CoV-2受容体であるACE2分子のライブイメージング、③遺伝性心筋症疾患iPS細胞ライブラリを用いたSARS-CoV-2感染と心筋症病態との関連の解明、の3つの項目に沿って推進した。 | |||
藤生 克仁 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学大学院医学系研究科 先進循環器病学 | 心不全を繰り返してしまう機序の解明と新規診断・治療標的の同定 | 100 |
心不全は不治の病である。そこで私はなぜ一度心不全になるとなぜ繰り返しやすくなるのかについての解明に挑戦した。心血管ストレスが、迷走神経求心路を経由して、骨髄・造血幹細胞に到達する新しい臓器間連携を見出した。さらに、心血管ストレスが恒常性維持可能な閾値を超えた際に、脳から骨髄への交感神経デナベーションが生じ、造血幹細胞にエピジェネティック変化を生じさせる。このエピジェネティック変化が、心血管ストレスの蓄積であり、その後心臓やその他複数の臓器での組織マクロファージへの分化障害が生じることによって、一度心不全を発症すると繰り返すこと、さらに心血管ストレスが同時に多臓器不全を発症させる機序にもなりえることを示した。 また、心臓恒常性維持システムが、破綻に至るスイッチとして、心血管ストレス時に生じるXニューロンの活性化を同定した。このニューロンは発現しているGPCR群は今後の治療標的となりえる。 | |||
山下 智也 アブストラクト 研究報告書 | 神戸大学医学部附属病院 循環器内科 | 腸内細菌とその関連代謝物に介入する新規循環器疾患予防法・治療法の開発研究 | 100 |
本研究の目的は、動脈瘤・心不全の腸内細菌叢の臨床研究から得られたエビデンスを基に、その疾患モデルマウスを用いて、腸内細菌自体または腸内細菌関連代謝物に介入する全く新規の治療方法を開発することである。 マウス動脈瘤モデルに抗生物質を投与すると、動脈瘤形成が抑制され、腸内細菌は全体として動脈瘤を増悪させている可能性を示した。 心不全マウスモデルにおいて、腸内細菌関連代謝物のTMAOに対しての介入治療を実施したが、疾患改善効果は認めなかった。 臨床で心不全患者の腸内細菌叢と代謝物の解析を実施して論文に報告した。 さらに、循環器疾患と腸内細菌叢研究を発展させ、患者に貢献できるようにしたい。 | |||
横山 真隆 アブストラクト 研究報告書 | 千葉大学大学院医学研究院 分子病態解析学講座 | 血管内皮細胞の心筋虚血による特性変化と時相に応じた成熟化制御 | 100 |
p53がEMT(上皮細胞)を抑えがん抑制に関わることは知られていたが、同様の分子発現がp53KOにより血管内皮細胞でも見られることを確認できた。組織傷害時に起こる血管内皮細胞の形質変化は分化・機能の細分化とは正反対に、血管としてのIdentityを喪失する分子発現が活性化される。これが間葉系細胞への転換を引き起こすEndMTと言われる現象であるが、実は細胞のMigrationを手助けし細胞の可塑性を獲得する働きの可能性がある。さらにこのような分子発現は回復期には漸減することから、心臓血管としての成熟化するタイミングには消失するものと考えられる。 これまで、虚血ストレスが血管内皮細胞p53の活性化を惹起するものの、その抑制は心臓傷害モデルにおける有用性に両面的な報告がされていた。本提案のようにp53-EndMT axisが持つ意味が傷害早期と回復期に異なるとすれば、今後心筋梗塞後の血管新生に対して新たな治療戦略になりうると考えられる。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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芝原 友也 アブストラクト 研究報告書 | 九州大学大学院医学研究院 病態機能内科学 腎高血圧脳血管内科 | 脳梗塞後の組織修復と機能回復におけるペリサイトとマクロファージの相互作用に関する研究 | 100 |
ペリサイトは脳梗塞後にPDGFRβシグナルを介して種々の細胞群と相互作用することで組織修復と機能回復に関わる。近年、マクロファージによる壊死組織(デブリス)処理が注目されており、脳梗塞後のペリサイトとマクロファージの相互作用について、Pdgfrb+/- マウスを用いて検討した。Pdgfrb+/- マウスでは、1)梗塞内部へのマクロファージの浸潤が減弱し、2)マクロファージによる壊死組織の処理が抑制され、3)亜急性期以降の梗塞サイズ縮小化と機能回復が抑制された。培養実験で、ペリサイトはマクロファージの遊走・デブリスの貪食を促進し、デブリス貪食後のマクロファージは、ペリサイトのfibronectin産生を増加させた。マクロファージはfibronectin存在下でデブリス貪食能が増加し、両者は相互作用することで組織修復を誘導すると考えられた。急性期~亜急性期に起こる組織修復を促進する治療にむけて、今後更なる検討が必要である。 | |||
二宮 格 アブストラクト 研究報告書 | 新潟大学脳研究所 臨床神経科学部門 脳神経内科 | 低分子化合物による単球から神経細胞への生体内分化転換を利用した神経再生療法の開発 | 100 |
脳梗塞急性期は、神経細胞やグリア細胞の壊死が進行する。血液循環中の単球は梗塞巣へ浸潤しマクロファージへと分化し、壊死細胞に対する炎症や組織修復に関与する。この集簇したマクロファージを神経細胞へ分化転換し、神経再生を促し神経学的機能予後の改善を期待することは、理論上可能である。そこで我々は単球由来マクロファージを神経細胞へ分化転換するために必要な低分子化合物の探索研究を行った。CHIR99021, Dorsomorphin, Forskolin, ISX-9, Y27632, DB2313をマクロファージと共培養したところ、約7日で形態学的に神経細胞の特徴をもつ細胞を誘導することができ、それらの細胞の遺伝子発現解析を行ったところ、神経細胞に関連する多くの遺伝子が亢進しておりマクロファージ関連遺伝子は抑制されていた。特にマクロファージ関連遺伝子の抑制にはDB2313が必須であり、6種の化合物の中でもとくにDB2313が必須であることを明らかにした。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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井原 健介 アブストラクト 研究報告書 | 東京医科歯科大学難治疾患研究所 生体情報薬理学分野 | スプライシング制御因子RBM20の細胞質凝集体による拡張型心筋症の重症化メカニズムの解明 | 100 |
心筋特異的なスプライシングの制御因子であるRNA-Binding Motif 20 (RBM20) は拡張型心筋症(DCM)の原因遺伝子として知られている。我々はRBM20内のRSRSP配列がRBM20の核移行に重要であり、また、RSRSP配列内変異を持つRbm20S637AマウスがRbm20ノックアウト(KO)マウスと異なり重篤な心機能低下を呈し、心房細動(AF)を高率に合併するなど、RBM20変異によるDCMで報告されている臨床所見を再現することを報告し、新たなDCM発症機序を提示してきた。RBM20はRNA結合タンパク質であることから、核移行できない変異型RBM20が細胞質においてもRNAと結合することで細胞質凝集体を形成し病態形成に関与していると仮説を立て、本研究ではRBM20の凝集体形成とRNA結合能の関連について検討した。 | |||
木谷 友哉 アブストラクト 研究報告書 | 京都府立医科大学 循環器内科 | Muse細胞を用いた重症下肢虚血に対する治療法の研究開発 | 100 |
重症下肢虚血に対する新規治療法の開発を目標として、動物モデルを用いて再生医療の新たな細胞ソースとして期待されているMuse細胞の下肢虚血に対する治療効果を検証すべく研究を実施した。野生型の下肢虚血モデルマウスにおいて、Muse細胞の経静脈的投与は虚血下肢の血流改善と組織線維化の改善を認めた。また細胞投与一週間後の虚血肢には蛍光標識Muse細胞が組織学的に確認され、その一部には血管内皮マーカーの発現も認められた。Muse細胞投与後には虚血肢組織中の血管新生因子の上昇も認め、虚血下肢の血流改善に寄与している可能性が示唆された。さらにMuse細胞を繰り返し静脈投与することで、骨髄単核球の虚血肢への直接投与に比較して有意な血流改善効果が認められた。以上よりMuse細胞を用いた再生医療は重症下肢虚血に対する有用な治療法になりうる可能性が示唆された。 | |||
候 聡志 アブストラクト 研究報告書 | 東京大学大学院医学系研究科 循環器内科学 | 一細胞解析とin vivo CRISPR/Cas9システムの融合による心不全リプログ ラミング因子スクリーニング | 100 |
シングルセルR N A seq解析は心不全研究領域でも近年普及しつつあるが、得られた膨大なデータを如何に処理し、有用な情報を抽出(新規心不全治療ターゲットの探索)するのかは未解決の課題である。申請者らはこの課題解決するため、まずデータの解析手法の工夫に取り組み、重み付け遺伝子共発現ネットワーク解析やリガンド-受容体解析、パスウェイ解析、細胞間コミュニケーション解析といった解析手法を用いたり、空間的遺伝子発現解析やシングルセルA T A Cseq解析などとのマルチオミクス解析を行ったりすることで、多くの心不全治療標的因子候補を同定することができた。また、遺伝子サイレンシング技術とシングルセル解析技術を組み合わせることで、複数のターゲット遺伝子の機能をハイスループットに解析できるための実験系の確立にも取り組み、今後は心筋症の原因として知られている43種類の遺伝子の機能を網羅的に調べる予定である。 | |||
坂上 倫久 アブストラクト 研究報告書 | 愛媛大学大学院医学系研究科 心臓血管・呼吸器外科学/循環器研究ユニット | トランスクリプトーム解析を駆使した大動脈弁石灰化機序の解明 | 100 |
本研究では、大動脈弁狭窄症(Aortic valve stenosis: AS)の新規治療標的分子または細胞種を同定するため、ASモデルマウスおよびヒト臨床検体を用いたトランスクリプトーム解析により大動脈弁石灰化の分子メカニズムを明らかにすることを目的として研究を実施した。ASモデルマウスおよびヒトAS患者を対象とした組織解析の結果、石灰化部周辺においてRUNX2陽性の骨芽細胞様のVICが多数認められた。また、大動脈弁間質の組織学的解析とトランスクリプトーム解析を組み合わせた解析から、Nestin陽性のNeural crest(NC)細胞の異常な増殖を起点としたRUNX2陽性の骨芽細胞への分化シグナルの存在が示唆された。現在、単一細胞レベルでのトランスクリプトーム解析を進めており、今後更なるデータ解析によりAS発症におけるNCの役割を明らかにする予定である。 | |||
佐藤 迪夫 アブストラクト 研究報告書 | 熊本大学大学院生命科学研究部 代謝・循環医学分野 分子遺伝学講座 | 新規lnc RNA 「Caren」の心保護作用メカニズムの解明と新規心不全治療法の開発 | 100 |
申請者は、心筋細胞の細胞質に高発現するlncRNA Carenを同定した。また、マウスを用いた研究により、不全心で減少したCarenを補充したマウスの心機能が改善することを見出した。本研究では、①Carenの心臓保護作用メカニズムを解明すること、②ヒトCARENオルソログを同定すること、を目的として、研究を実施した。申請者は、Carenの心臓保護作用のメカニズムとして、①CarenがHint1の翻訳抑制を介して、DNA損傷応答を軽減すること、②Tfam増加によるミトコンドリア生合成を亢進し、心臓エネルギー代謝を改善させること、の2点を明らかにした。さらに、マウスCarenに対応する遺伝子座からヒトCAREN候補を複数同定し、そのうち1つの発現が、BNPと逆相関することを確認し、以上を論文に報告した(Sato, et al. Nat commun 12(1):2529, 2021)。 | |||
長尾 学 アブストラクト 研究報告書 | 神戸大学大学院医学研究科 内科学系講座 循環器内科学分野・立証検査医学分野 | グルタミン代謝を標的とした糖尿病性心筋症の新規治療法の構築 | 100 |
本研究の目的は糖尿病性心筋症におけるグルタミン代謝制御機構の解明によって、同疾患の治療戦略を構築することである。糖尿病に合併する心筋症の中でも“糖尿病性心筋症”は、冠動脈疾患や高血圧に起因しない心室機能障害と定義され、糖尿病有病率の上昇に伴い、罹患数のますますの増加が見込まれる病態である。しかしながら、糖尿病性心筋症に対する特異的な診断法・治療法は未だ確立されておらず、疾病対策だけでなく医療経済の観点からも、これらの問題を解決することが強く求められている。 | |||
野本 博司 アブストラクト 研究報告書 | 北海道大学病院 内科II | 細胞内代謝に着目した動脈硬化性疾患におけるマクロファージの極性変化の意義の解明 | 100 |
【目的】 マクロファージ(Mφ)の極性と細胞内代謝、とりわけM2MφにおけるPFKFB3の発現の意義は不明瞭である。 【対象・方法】 遺伝子発現データベースと頸動脈プラーク検体を用いて、Mφ極性別の細胞内代謝関連遺伝子発現と染色性の違いを比較検討した。さらにヒト単球系細胞株THP-1をM1MφないしM2Mφに分化させ、PFKFB3の発現パターンを確認し、さらにPFKFB3のノックダウンを行い遺伝子発現変化を確認した。 【結果】 M2MφではM1Mφに比し解糖系に関連する酵素群の発現が低く、酸化的リン酸化に関わる遺伝子群の発現が高かった。PFKFB3はM1Mφでは細胞質中心に、M2Mφでは核において強い発現を認めた。siRNAを用いてM2MφのPFKFB3の発現を低下させると、向炎症性・抗炎症性サイトカインの両遺伝子群の発現が増強された。 【展望】 siRNAの導入を行った培養Mφを用いた網羅的遺伝子発現解析を予定している。 | |||
山城 義人 アブストラクト 研究報告書 | 筑波大学生存ダイナミクス研究センター | 細胞マトリクスを介した血管壁のメカノトランダクション機構の解明 | 100 |
血管壁は絶えずメカニカルストレス(血圧や血流による血行力学的応力)に晒されており、その制御機構の破綻が血管病態の根本原因ではないかと注目されている。細胞が外力を感知し、応答する仕組み(メカニカルストレス応答)とそのシグナル伝達(メカノトランスダクション )は、細胞接着斑または細胞表面受容体を介して細胞内に伝搬されるが、その制御メカニズムの詳細は明らかになっていない。そこで本研究では、血管のメカノトランスダクション機構における細胞外マトリクスの役割と、血管病態発症の分子メカニズムを明らかにすることを目的として遂行した。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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白川 公亮 アブストラクト 研究報告書 | 順天堂大学大学院医学研究科 循環器内科 | オステオポンチン産生マクロファージを標的とした心不全治療法の開発 | 100 |
SGLT2阻害剤は糖尿病性腎臓病(DKD)の予後を改善させ、PTECの代謝リプログラミングの変化による尿細管間質性腎線維化がDKDの病態の根底にあることが示唆されている。本研究では、組織線維化の鍵分子であるオステオポンチンをコードするSpp1の転写活性を指標に、SGLT2阻害剤の腎保護作用の分子機構を検討した。Spp1 EGFPノックインマウスの初代培養PTECを用いて、高グルコース環境下では、SGLT2およびGLUTを介したグルコース取り込みの増加がPTECにおける解糖系経路の異常な活性化に因果的に関与し、それによってミトコンドリアの活性酸素種(ROS)産生とSpp1の転写活性化が増加することが示された。SGLT2阻害剤が尿細管特異的酵素であるMioxの過剰発現を阻害した。以上より、SGLT2阻害剤は、高グルコース環境下のPTECにおいて、解糖系代謝異常とミトコンドリア活性酸素形成を阻害することにより、腎保護効果を発揮することが明らかとなった。 |
研究者名 | 所属機関 | 研究課題 | 助成額 (万円) |
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(留学先) | |||
東海林 菊太郎 | 北海道大学病院 脳神経外科 | 脳卒中後機能回復を賦活する神経回路の光遺伝学的手法を軸とした多面的解析 | 500 |
Stanford University, U.S.A. | |||
福間 一樹 | 国立循環器病研究センター 脳神経内科 | 脳卒中後てんかんの病態解明と発症予防法の開発 | 500 |
Epilepsy Imaging Group Department of Clinical and Experimental Epilepsy Institute of Neurology University College London, U.K. |